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71 不浄の獅子

 くそっ、結局不浄の化け物が現れてしまった。

 こうなっては仕方ない倒すしかない。


 お腹に空いた穴を回復魔法で回復させて立ち上がる。

 さっきの霊樹の攻撃だが、幸いほとんど瘴気を感じさせなかったからか何の問題もなく回復出来た。

 だけど問題は他のみんなだ。

 今回の不浄の化け物、不浄の獅子って所かな。

 不浄の獅子の特性か、周りに及ぼす瘴気の影響が大きい。

 族長が霊樹を操っていた時も相当なものだったけど、それとは比較にならないスピードで辺り一片が瘴気に侵されて草木は枯れ、大地は不毛なものになっていく。

 もちろん、そんなレベルの瘴気を受けて、人が無事でいられるはずがない。


「くっ」


 周りを見渡せばあのカイエンさんですら、瘴気に蝕まれ、片膝をついて動けないでいる状態だ。

 今回の不浄の獅子、周りに影響を及ぼす力が大きすぎる。

 まずい、このままじゃみんな死んじゃう。

 いや、その前に不浄の獅子に殺させる。

 そう思っていたら、不浄の獅子は私たちの前から逃げ、霊樹の中に消えていった。

 まるで水に潜るように。

 何をするつもり、いや、今はみんなを回復させるのが先。



「”クリアオーラ”!!」


 広範囲に広がる回復魔法を使う。

 これなら、瘴気の影響も緩和されるはず。

 さらに、


「”リジェネレイト”!!」


 継続するタイプの回復魔法もみんなにかける。


「みんな、大丈夫!? 動ける!?」

「ああ、助かった。不浄の化け物は?」

「霊樹の中に」


 また、霊樹を操るつもりなのか。

 でも、族長の時と違って不浄の獅子の姿は見当たらない。

 もし、完全に霊樹の中にいるとしたら手が出せないよ。


 そう不安に思っていると、不浄の獅子が霊樹から飛び出してきた。

 先ほどとは違う姿で。

 その姿は、瘴気の侵された霊樹を全身に鎧の様に身にまとっているような姿だった。

 さらに不浄の獅子は咆哮を上げる。


 幾本もの霊樹の根が再びうねりを上げて動き出した。

 だけど、それは私たちに直接襲う事はなかった。

 霊樹の根の先端が盛り上がる。

 それは次第に形を成していき、出来上がると霊樹の根から分断され、地上に降り立った。

 その形は、不浄の獅子であった。


「これは」


 不浄の獅子は霊樹を材料にして自分の分身を作ったのだろう。

 まずいことに、その分身は最初に出てきた不浄の獅子となんの差分もなく、見た目どころか、感じる威圧感や悍ましさ、瘴気ですら一緒だった。

 これじゃ見分けがつかない。


「メーティス、どれが本体かわかる?」

『ごめんなさい、わからないわ』


 てことは実質、この数の不浄の獅子と相手しなければならないってことか。

 最初のを含めて七体か。

 覚悟を決めよう。


「カイエンさん、いける?」

「当然だ」

「カヤは?」

「これが話に聞いていた不浄の化け物なんですね。大丈夫です。覚悟は出来ています」

「ミラ? ......ミラ?」


 後方にいるミラを呼ぶが返事がなく、振り返ると、頭を抱え、顔を青くして泣きじゃくっているミラが見えた。

 どう見ても普通じゃない。


「ミラっ、どうしたの!?」

「こんな、酷い。霊樹が先ほどよりも、悲鳴が、周りの森も」


 族長が霊樹を操っている時にも似たようなことになっていたけど、その時よりもミラの様子が悪い。

 確かに、あの時よりも周りの状況は悪化している。

 そう言えば、ミラは草木の声を聞くのが一番得意だと言っていた。

 霊樹だけでなく、瘴気に侵されたこの森全体の声が聞こえるとしたら。


「やめて、これ以上みんなを傷つけないで」

「ミラっ、しっかりしてミラっ!!」

「スピカぁ」


 何度声をかけても、ミラの様子は悪化するばかりだ。

 これではミラは戦えない。

 この不浄の獅子相手じゃミラを守ることなんてできない。

 私が抱えていったん逃げる?

 それじゃ、カイエンさんとカヤが危ない。

 皆で逃げる?

 不浄の獅子が追って来るし逃げきれないかもしれない。

 どうする?


「スピカさん! 馬がこっちに来ています!!」

「馬?」


 カヤが指さす方を見ると、そこには全力でこちらに向かってきているユニコの姿があった。


「ユニコ!!」


 ナイスタイミング。


「ユニコ! ミラをお願い。できるだけ遠くに逃げて!!」


 荒々しくてごめん、と心の中で謝ってユニコにミラを投げ飛ばす。

 ユニコは出現させた角をミラの服に引っかけて器用に首を回して、ミラを自分の背に乗せた。

 そして嘶くと反転して逃げていった。

 よし、これで安心して戦える。


「死んでも私が回復させる。みんな行くよ!!」


 それぞれの武器を構え、私たちは不浄の獅子たちに突撃した。



 ー▽ー


 駆ける、駆ける。

 ユニコはひたすら駆ける。

 背中に大好きな人を乗せて。


「止まりなさい」


 背中から声が聞こえてくるが、それを無視してユニコは駆ける。


「ユニコ止まりなさい」


 何度言われようが、ユニコに止まる意思がない。

 託されたのだ。

 大好きな人を守るようにと。

 いくら背中にいる大好きな人の命令でも止まることはできない。



「止まりなさいっ」


 だけど、突如目の前に大地の壁が出来上がり、強制的のその足を止めさせられた。

 その際に背中の大好きな人を落としてしまう。


「ぐっ」


 ゴロンと地面に落ちて大好きな人はうめきを上げる。

 心配してユニコは顔を近づける。


「わたくしを今すぐあの場所に戻して」


 大好きな人、ミラはそう言うがそれは聞けないと首を振る。

 かなり衰弱していて、いまにも死にそうな顔をしているミラを戦場に戻すだなんてとてもじゃないが無理な相談だ。


「スピカが、カイエンさんが、カヤが、あの場所で命を懸けて戦っています。わたくしだけ、のうのうと逃げる訳にはいきませんわ」


 それはわかる。

 自分だってあの人たちと共に戦いたい。

 だけど、それは無理だ。

 そんなことすればミラは死んでしまう。

 立つこともままならないそんな状態でどうしようっていうのか。

 やはり、ダメだとユニコは再び首を振る。


「っっ。わたくしはどうしてこんな肝心な時に役立たずに。わたくしはただ、スピカたちと隣に立ちたいだけなのに。守られるだけじゃなくて、守りたいだけなのに。お師匠さまに魔法を教わったのに。スピカたちに見合う力を身に着けたはずなのに。なんでわたくしは。悲鳴を上げるこの子達を救う事も出来やしないだなんて。」


 ミラは己の無力さを嘆く。

 分かっていた。

 いくら魔法の才があると言われても、日が浅いことを。

 スピカやカイエンたちと比べて、強さの蓄のようなものがないことを。

 ミラはそのことを自覚したうえで、自分にできることを探し、足手まといにならないように、彼女らの横に並び立てるように必死に努力してきた。

 なのに、肝心な時の結局こうして守られているだけ。

 ミラはそのことが悔しくて仕方がない。

 でも、こうして逃げることなんて到底できない。


「わたくしはどうすれば」

『ならば、いつも通り己にできる事を探せ』


 突如、声が聞こえてくる。

 見れば、ユニコの角が光り、そこから声が聞こえてくるようだ。


「この声はお師匠さま?」

『ひどくつながりが悪いが少ししか話せない。いいかよく聞けミラよ。悲鳴に囚われずもっと深く霊樹の声を聞け。お前ならば霊樹と会話ができるはずだ。霊樹はこんなもので完全にどうにかなる存在ではない。偉大な竜より生まれし霊樹の力を引き出すことが出来れば、きっと事態を突破できるはずだ。お前は自分が思っているよりもずっと強い子だ。もっと自信を持て』


 そう言い終わると、ユニコの角の光は消え、声も聞こえなくなった。


「わかりました、お師匠さま。やってみますわ。霊樹の声に、いえ、会話をする」


 ミラはその場で目を閉じ、深く集中する。

 聞こえてくるのは相変わらずの自然の悲鳴。

 中でもやはり霊樹の悲鳴はすさまじい。

 吐きそうになる体を叱咤して、より強く、より深く自然と同調し、霊樹にたどり着く。

 あまりにも酷く瘴気に侵された霊樹、次々と体を使い捨てられ傷つく霊樹。悲鳴を上げる霊樹。

 そして、それでもなお抵抗して、力を貯める霊樹。


「お願い、その力をわたくしに貸して」


 ミラの目の前に霊樹の根が一本生える。

 それはミラに襲うことなく次第に形を変化していく。

 そして残ったのは一本の槍のような大きな矢。


「ユニコ、お願い。一度だけスピカたちの元に行かせてくださいまし。この矢を届けなくては」


 ユニコは了解したと嘶いて、ミラを背に乗せて再び大地を駆けだした

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