69 引きずり出せ
アイスボーンが
「ミラ!」
「はい!」
迫りくる木の根に癒しの力を放ち、ミラが魔法で対処する。
私たちはお互いに足らないところを補いあった。
私の回復魔法や回復魔撃は実体がないため、霊樹に対して物理的に効果を及ぼさない。
故にいくら瘴気に侵されていても実体としてちゃんとある霊樹の根は止められないしカイエンさんみたいに剣で切り払うことも出来ない。
ミラの魔法だが、あの族長の持っている黒い宝玉の特性か、周りに瘴気が浸透していて、他の木や大地を操りずらいらしく、風を操るしかないらしい。
それすらも不安定で、迫りくる木の根の撃退には不安が残る。
だから、まず私の回復で木の根を弱らせて、ミラが魔法で対処するといった戦法を取るようにした。
「それにしても、キリがありませんわ」
「だね、こんな末端を攻撃してもほとんどダメージにならない。やっぱり本体を攻撃しないと」
少し離れてしまった、霊樹、その一部から族長の上半身が生えている。
何とかしてアレに攻撃出来ればいいんだけど。
いかんせん、霊樹自体が巨大すぎて族長までの距離がめちゃくちゃ遠い。
てか、高すぎる。
「すみません、わたくしが足手まといなばかりに」
「そんなことないよ。私一人じゃ到底対処しきれない」
確かに、私一人なら飛び回りながら回避して戦えるかもしれないけど。
この木の根の量、いずれ限界が来る。
となったら、こうして確実に対処できる戦法を取った方が良い。
賭けみたいなことをするなら、アイツを倒せる算段が付いてからだ。
「ひとまず、カイエンさんとカヤの合流を目指そう」
「ええ」
確実の攻撃を対処しながら、カイエンさんたちに向かって一歩ずつ歩く。
その途中で分かったことなんだけど、やはりと言うか族長を霊樹を完全には操れていない。
これだけ私たちが攻撃を防いでいるのに、何て言うか攻撃の仕方がワンパターンで変化がないのだ。
当然と言えば当然か。
所詮、人でしかない族長が、いくら強力とはいえ、こんなにも巨大な木の体を手に入れたからって完璧に操れるわけがない。
黒い宝玉の力でほぼほぼオートで操っているのだろう。
加えて、ミラ曰く、霊樹も苦しみながら精一杯抵抗しているとのこと。
ていうか、これで抵抗しているなら、抵抗をやめたらどうなることか。
早めに倒さないといけないね。
もう少しで、カイエンさんたちの元へたどり着ける。
私たちも大概だけど、カイエンさんはやっぱりおかしいと思う。
どう見ても私たちより木の根の攻撃が激しいのにすべて木っ端みじんにして後ろにいるカヤを守っている。
うん、やっぱあの人おかしいわ。
頼りになるけど。
そんなカイエンさんの後ろで、カヤは立ち上がり、弓を構えて、射った。
「ファッ!?」
思わず変な声が出た。
え、だってうそぉ。
刃の付いた妙に機械染みた弓から放たれた矢は、凄まじい威力で飛んで行き、幾本もの霊樹の根を貫通して大きな風穴を開けた。
『なんていう威力なの!?』
メーティスも驚きの声を上げているのは無理はない。
私も変な声出たし。
ミラに至っては口をパクパクさせている。
あー、なんだろう、この感じ。
やっぱりカイエンさんの子って感じする。
「おや、ミラさんに、スピカさん?」
「え、うん、そうだよ」
「なんだか変身しているみたいで驚きました」
驚いたのはこっちなんだよね。
まあ、確かに人竜の姿を見せるのは始めてだもんね。
「にしても、やっぱり届きませんでしたか。結構力を込めたんですが」
カヤの言う通り、彼女の矢は族長まで届きはしていなかった。
それでも十分すぎる気がするけど。
「もう少し力を込めたら届くかな。いや、でもギリギリかも」
『それ本当!?』
「わっ、びっくりした!」
メーティスが勝手に顕現し、それを見たカヤが驚いた様子を見せる。
「え、なんですかこの子?」
「私たちの仲間のメーティスだよ」
『それより、その矢、アイツにまで届くって本当?』
「え、ええ。限界まで引き絞れば恐らく。でも、妨害を考えれば本当にギリギリで届いてもほんの少し表面に刺さるくらいだと思います。そこまで力を込めれば狙いもズレるかもしれませんし」
『なら十分、良い作戦を思いついたわ。みんなよく聞いて頂戴』
メーティスから一連の作戦が語られる。
...
......
なるほど、良いね。
「よし分かった。やろう」
「このまま手をこまねいているわけにはいきませんし。少しスピカが危険かもしれませんが、わかりましたわ」
「了解した。カヤ、矢を放つのにどれくらい時間が必要だ?」
「十秒ですね。それ以上力を込めても逆に打つタイミングを見失って力が分散してしまいますし。ボクもそっちにタイミングを合わせるのでお願いします」
『タイミングと連携が必要よ! では、始めましょう』
全員の同意を得て、族長を倒すための作戦が始まる。
カヤが弓を引き絞って10秒後、凄まじい威力を誇るカヤの矢が放たれる直前、カイエンさんが一際踏み込んで明らかに刀身よりもはるかに長い範囲に霊樹の根が切り払われる。
その瞬間、カヤの強弓が放たれる。
族長までの間に存在する幾本もの霊樹の根に大きな風穴があけられていく。
「カイエンさん!」
「おう!」
代わりはいくらでもあるとばかりに迫りくる霊樹の根だが、先ほどカイエンさん広範囲に切り払ってできた僅かな時間を利用し、私は、カイエンさんの剣の腹に足を乗せて、カイエンさんはそのまま剣を勢いよく大きく振り払い、私を放り投げた。
凄まじいGが私を襲うが、それを無視して逆に翼の推進力で加速する。
猛スピードで飛ぶ私を妨害するものはない。
何故なら、先ほどカヤが空けた風穴を通って飛んでいるから。
だけど、最後の最後で、霊樹の根が私に襲い掛かってくる。
カヤの言った通り彼女の矢は本当にギリギリで族長近くの霊樹の根はまだ動いていた。
だけど、問題ない。
着地のため、体制を整えながら私に迫りくる霊樹の根に回復魔法を放つ。
残念ながらそれだけでは止まらないけど、その直後に、風の刃が霊樹の根を切り落とした。
ミラの魔法だ。
「到着っと」
くるんと回って霊樹の幹に着地し、さらに回転して、族長の目の前に浮かぶ。
「なっ、ばかなっ!?」
族長の顔が驚愕に染まる。
だけど私が見たのはその下。
胸の中央部に黒い宝玉が埋まっている。
「はあぁっ!!」
貫手の要領で族長を胸に手を突き刺し、黒い宝玉を掴む。
この瘴気の源なだけあって、掴んでいるだけで辛いが、問題ない。
それ以上の癒しの力を込めながら力を入れる。
「とーれーろぉぉぉ!!」
そして、族長の胸から黒い宝玉を引き抜いた。
「もう一丁!!」
さらに今度は族長自身をつかむ。
「出てきて、カヤに謝りなさい!!」
そして、力任せに族長を霊樹から引きずり出した。




