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68 鷹の一族

 ハイエルフの里にはいくつかの力を持った一族がある。

 それらの長は族長と共に里の上層部として権力を振るってきた。

 かつてその中には、既に没落したがヒエラクスという一族がいた。

 この一族は代々眼が優れており、森の守護者として、また狩りの際、その眼で獲物を捕捉することから、千里眼の一族、または鷹の一族と言われていた。

 他の一族にない特性があるため、この一族に力が集まることを恐れた他の有力氏族たちによって貶められ、過去に没落した。

 しかしながら僅かだが、この一族の血は受け継がれおり、今現在もたった一名だけ存在している。


 その名はカヤ・ヒエラクス。

 鷹の一族、最後の生き残りにして、一族史上、最も眼の力が強いハーフエルフである。


 ー▽ー


 カヤの目の前ではカイエンが目にも止まらぬ速さで剣を振り続けている。

 迫りくる木の根を木っ端微塵に切り払う様は正に剣聖による剣の結界。

 どんな量、どんな角度で根が迫り来ようとカヤに届くことはなかった。


「カヤ、立てるか?」

「ボ、ボクはどうしたら」

「お前はこのまま逃げろ」

「え?」

「道は俺が切り開く。後のことは任せて逃げろ」


 カイエンの言葉にカヤの心は揺らぐ。

 カヤにとって族長は恩人だった。

 母が死に、誰一人味方がいなくなったこの里で、仕事を与え、この里に住むことが許してくれたのは族長だったのだ。

 例え、それが便利は道具扱いであったとしても。

 だが、今日この場で初めて族長の本心を聞いた。

 族長だけは今まで口にしなかったヒエラクスの忌み子を口にし、何度も劣等種と呼んだ。

 本当はわかっていた、自分が便利な道具でしかないことも。

 それでも、唯一の味方に縋りつくしかなく、見て見ぬふりをしていた。


 だから、カイエンの言葉に迷う。

 族長がしていることを止めようとこの場に来たが、いざ、族長に命を狙われると足が竦む。

 戦いを覚悟して来たのに、カイエンの言う通りこのまま逃げ出したくなってしまった。

 だけど、自分も戦わなくては。


「で、でも」

「お前の事は知らなかったが、それでも俺はお前の父親なんだ。70年も放置して何を今さらと思うかもしれないが、頼むからお前の事は守らせてくれ」

「カイエンさん」


 ああそうだ。

 思い出した。

 母はいつもカイエンの話をしていた。

 カヤにとってはあったこともない他人だが、カヤの母、リースにとっては愛しい存在だったのだ。

 でなければカヤにカイエンの話をすることはない。

 リースにカイエンの話を聞かされたカヤはいつしか頭の中でカイエンの像が出来ていた。

 いい加減で、変な所もあるけど、圧倒的に強く、いざとなったら頼りになる男。

 そして、目の前のカイエンはそんなリースの語るカイエン像そのままだった。

 恨んだりもした、実際に会って困りもした。

 だけど、母が愛して父に会えてうれしかったりもした。

 そして、そんな父の背をカヤは始めた見た。

 迷いは晴れる。


「ボクにとってはこの場所は世界のすべてだったんです。外の世界に興味はあったけど、出ていくのが怖くて、逃げ出して籠っていたんです。確かに、お母さんの名誉を挽回したいです。里のみんなに認められたいです。でもそれは、籠っていただけなんです、世界はここしかないと決めつけて。ただ目を向けるのが怖かっただけ。ボクは何もかも見て見ぬふりをしていただけなんです。都合の良いように」

「カヤ、お前」

「逃げろ? 冗談じゃない! もう、ボクは逃げない! もう僕は見て見ぬふりをしない! ここはボクの世界。そしてお母さんの眠る場所。道具だなんて呼ばせない! ボクはボクの意思でここを守る!!」


 カヤは決意を胸に立ち上がる。


「ボクの名は、カヤ・ヒエラクス。偉大なる鷹の一族の末裔。そして、聖域の守り手。族長、あなたがここを壊すというのなら、ボクがあなたを射抜いてやる!!」


 そう宣言し、カヤは弓に矢をつがえ射った。

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