6 スピカの日常 その2
「ふー、これで終わりと。休憩しようっと」
「お疲れ様ですお嬢様。お茶をお注ぎしましょう」
「いや、あの子たちの所に行く。戻ってきてから入れて」
「かしこまりました」
仕事がひと段落したのでアントンに見送られて休憩がてらに屋敷の別館のとある一室に向かう。
「みんな元気?」
「「「ねー!」」」
「「「ねーねー!!」」」
「「「おねえたま!!」」」
そこは、別館で一番広い一室。
そこには、下は0歳から上は9歳の子供たちがいた。
子供たちは私が部屋に入ってくると同時に我先に私の元に駆け出してきた。
「みんないい子にしてた?」
「「「はぁーーーい」」」
「そっか、えらいえらい」
子供たちの頭を撫でる。
子供たちも撫でられて嬉しそう。
はぁ、癒される。
子供たちは全員、私の異母兄弟だ。
耳が長い子もいれば、ケモミミと尻尾の子もいる。
私を含めて子供たちは全員ある男を父として生まれてきた。
この部屋にいるだけで20人はいる。
今は別の場所にいる兄弟も含めればもう少し多い。
それほどに私の兄弟は多い。
「おねえたま、ご本読んで!!」
「あ、ずるい! 僕と遊んで!!」
「やーー!! わたしと遊ぶの!!」
「びぇぇーーーーー!!!」
などなど、子供達は目をキラキラさせながら構ってとせがんでくる。
急にうるさくなったのかスヤスヤと寝ていた赤ちゃんは目を覚まして泣き出したりもした。
「あはは、ごめんねまだお仕事が残っているんだ」
「「「えーー!!」」」
「「「遊んでよーー!!」」」
子供達に文句を言われながらも泣き出した赤ちゃん、ニアの元に向かい抱っこする。
「よしよし、泣き止んで」
「ひっく、ひっく、ひっく、うぅ? わきゃあああ。あぅわぁ」
抱っこするとニアは急にご機嫌になった。
「みんなで仲良くしていたら今度遊んであげるよ。だからごめんね。代わりに今日は短いけどおとぎ話を話してあげる」
「ほんとぉ?」
「やったーー!!」
「今から話すからみんな静かにするんだよ」
「「「はぁーーい」」」
--昔、昔。7体の大いなる竜によってこの世界は繁栄を保っていました。人々は竜の元で平和に暮らしていました。そんなある時、邪神が生まれ落ちました。その邪神は世界を憎み、大いなる竜を憎み、人々を憎み、自分さえ憎みました。そして、邪神は暴れ周り、大いなる竜を食べてしまいました。それでも邪悪な竜は止まらず大いなる竜も人々も関係なく食べてしまいます。残った大いなる竜と人々は邪神を倒さんと立ち上がりました。戦いは苛烈を極めました。大いなる竜はただ一体を残して邪神に食われ、共に戦った勇者達も食われてしまいました。しかし、勇者の一人、精霊を宿した勇者は大いなる竜と協力し、その身を犠牲にして邪神を7つに分けて封印しました。こうして大いなる竜と勇者達の手によって再び平和が訪れたのでしたーー
話し終えると同時に沸き起こる拍手の嵐。
頼りない音を奏でる拍手は子供らしくとても可愛らしい。
私が聞かせたのは子供達に聞かせる定番的なおとぎ話。
特に、竜王国と呼ばれる国でよく話されるおとぎ話だ。
竜と精霊が出てきて私も好きな話である。
「ねぇねぇ、大いなる竜ってどんなの?」
「勇者ってかっこいいね!!」
「僕、精霊見てみたい!!」
などと子供達は口々に感想を述べる。
「はいはい、みんな、今日はお終い。私はお仕事に行くからみんなで良い子にしているんだよ」
「「「はぁーい」」」
と元気よく子供達は返事をする。
子供達は私の言うことをよく聞く良い子達だ。
「それじゃあ、みんな仲良くしているんだよ」
「はぁーい」
子供たちの部屋から離れ、執務室に戻る。
あー、癒されたぁ。
お仕事がんばるか。
「お待たせアントン。次は視察だっけ」
「ええ。準備は出来ております」
「じゃあ、行こうか」
「いえ、その前に」
机にコトリと温かいお茶が置かれる。
「まだ時間がございますのでもう少し休まれてください」
そういえばアントンに戻ったらお茶を入れてと頼んだのを思い出した。
すっかり忘れてしまっていたなあ。
「ありがとうアントン」
そういうことならとソファーに座ってゆっくりとお茶を飲みながら次の視察の話をしていると、少年が突然執務室に入ってきた。
「話は聞かせてもらいました!! 僕も連れて行ってください姉上!!」
バーン!! と現れて要求する少年は私の弟で次期当主のシリウス。
今年で10歳である。
「はぁ、シリウス、ノックね」
「あっ、ごめんなさい姉上」
とりあえずノックをしなかった事を注意する。
シリウスは姉の贔屓目抜きにしても優秀だと思うが、少しそそっかしくドジなんだよね。
慌てるとノックを忘れるくらいには。
「勉強は終わったの?」
「もちろんです姉上」
「そう。だったら一緒に行こうか。少し待っててあげるから早く準備をして来て。行き先は近隣の村だから」
「わかりました姉上!!」
シリウスはビシッと返事するとダーっと執務室から出て行った。
もうちょっとだけ落ち着いて欲しい。
まあ、元気なのはいいことかな。
「さて、私も着替えてこよっと」
そして、私とシリウスはアントンを含め、護衛などの数名の者と共に馬に乗って村に向った。
 




