66 聖域の闇
「ホゲェェェ」
ミヒャエルが変な声をあげながら横に飛んで行く。
無駄に美形だったのに、その顔と姿はとてもブサイクだった。
それはどうでもいいとして、肝心なのはそんなミヒャエルを殴り飛ばした人である。
「カヤっ」
「スピカさん大丈夫ですか!?」
どうしてここにカヤが。
「お、お前ぇぇぇ! お前ぇぇぇっ!! 劣等種の分際でこの私に何をしているんだぁぁっ!」
殴り飛ばされたミヒャエルが頬を押さえながら涙目で、そして忌々しそうにカヤを指さしている。
「こんな事して許されると思っているのかぁぁ!」
「あなたたちこそ何しているんですか! 女性に対して一方的に鞭を振るうだなんて、そんなこと人として恥ずかしいと思わないのですか!?」
「うるさい、うるさい! 劣等種がどうなろうと知ったことか! お前たち、こいつは反逆者だ! 捕えて一緒に牢屋にぶち込め!」
「「は、はい!」」
ミヒャエルの手下っぽいエルフたちがカヤを捕まえようと近づく。
だけど、カヤは私と接近戦でも渡り合ったんだよ。
こんなボンボンの手下程度でどうにかなるとは思えない。
実際に、ほんの数秒で全員返り討ちに合ったし。
うーん、それにしてもすごかった。
こんな狭い空間でよくもそんなアクロバティックに動けるものだね。
普通に壁とか天井とか足場にしていたし。
「な......な......」
こんなにもカヤが強いと思いもしなかったのか、ミヒャエルは言葉も出ずに震えている。
「皆さん、無事ですか!? 今開けます」
カヤはそう言って、近くの牢のカギを取って、私たちを閉じ込めている牢を開けてくれた。
「手錠のカギもっと、よし、これでいいですね」
そして腕を封じている手錠もかけてくれた。
「ふぅ、ありがとうカヤ、助かったよ」
「いえ、それよりごめんなさい。ボクのせいでこんな目に」
「大丈夫だよ」
「でも、酷い傷で」
「大丈夫だって、これくらい治る」
鞭で打たれている時は不審がられないように最小限の回復でとどめていたせいで、ボロボロになっていたけど、ちゃんと回復魔法をかけて完璧に傷は治した。
「すごい」
「なんなら致命傷でも治るからね。それより、ミラとカイエンさんの手錠もお願い」
「は、はい」
最初に私の手錠を外してもらったので、ミラとカイエンさんの手錠も外してもらう。
「ふぅ、やっと腕が自由ですわ」
長らく同じ姿勢で体が固まっていたからか、ミラは手錠を外してもらうと体をほぐすようにストレッチを始めた。
およそ、貴族の令嬢がしなさそうな動きであるが、気持ちはわかる。
「ていうか、なんでこの人こんな状況で寝ているんですか」
「さあ? カイエンさんだし」
でも、そういえば、私が鞭で叩かれている間もこの人寝ていたんだよね。
そう考えているととてもムカつく。
けど、私はそんなことで怒ったりはしない。
優しく体を揺さぶって起こす。
「カイエンさん。ほら、起きて」
「zzz」
イラァッ。
「カイエンさーん。おーきてぇっ!」
「グホォッ!?」
イラっとしたので優しくみぞおちに肘打ちをして起こす。
うん、ちゃんと起きてくれたみたいだね。
「な、何をするスピカ!?」
「うるさい、私が酷い目に合っているのにのんきに寝ていた奴が口答えしない!」
「そうは言ってもここ最近睡眠不足何だったんだから仕方ないだろう」
だからって、普通、仲間が鞭で叩かれているのに寝ているかな。
私に対する信頼感かあったからかかもしれないけど。
......悲鳴のひとつでもあげればよかったか。
「って、カヤ、なんでここにいるんだ?」
今、気づかないでよ。
まあ、カイエンさんの事は今はいいか。
「そうだよカヤ。なんでここに? 里のみんなに認められたいんでしょ。せっかく私たちが捕まったのにこれじゃ意味ないじゃん」
あの族長が信じられるかは別だが、捕まった私たちをカヤが助けに来たんじゃ、私たちをカヤが捕まえたっていう体が意味をなさなくなってしまう。
正真正銘、侵入者の協力者になってしまうのだ。
そうなったら里のみんなに認められるどころかこの里にいられなくなってしまう。
「確かに、ボクはこの里の一員として認められたいです。でも、こんなことで認められてもそれは間違ってる。せっかくできた友達と、お父さんを差し出してまで認められたくない!!」
「カヤ」
「それに、この里でとても恐ろしいことが起きようとしている。お願い、皆の力を貸して!!」
「詳しく聞かせて」
とは言ったものの、時間がないから脱出しながら話を聞くことにした。
ちなみに、ミヒャエルだが、現在は頭から壁に埋まっている。
というのも、この3日間飲まず食わずだったこともあり、あの鞭打ちには相当イラっとしたというのもあり、脱出する前に、壁に向かって蹴り飛ばしておいたのだ。
すでに壁に背を預けていた状態であったため、蹴り飛ばしたというか、私の蹴りと壁で頭がプレスされるという状態になったため、実は頭が一瞬陥没したのは内緒である。
死なない程度に回復魔法をかけておきました。
ちなみに、脱出と言っても、見張りのエルフとかに見つからないように隠れながら進んだという訳ではなかった。
すでに、カヤが全て気絶させていたのだ。
しかも、すでに私たちが落とした武器の場所も確認して、回収も出来たし。
この子優秀過ぎないかな。
それよりも本題である、この里で起きようとしている恐ろしい事は、私が想定している以上に深刻なことであった。
「ボクは里の中をこの眼で見ることが許されていなかったんです。ボクは今までそれを守ってきましたが、捕えられたスピカさんたちを探すために里の内部を見ることにしました。初めてだったので探し出すのに時間がかかってすみません。でも、その過程で恐ろしいことを見つけました。霊樹の近辺を探している時でした。そこには祭壇のような場所が合って、動物や、他の種族の方がいました。おそらく普段僕が見ない、外界への正規ルートから運び込まれたのでしょう。そこに族長や複数の有力氏族が現れて、族長が黒い宝玉のようなものを掲げると、霊樹の根が盛り上がり、祭壇の上の動物や人たちを刺し殺して吸収したのです。まるで、何かの悪い儀式の様でした。お母さんからもこんな話聞いたことありません。霊樹自身がそんなこと望んでいるとは思えませんし。とても嫌な予感がするんです」
カヤの話はこうであった。
私たちが最も深刻だととらえたのは、そんな悍ましい儀式ではなく、黒い宝玉という所。
「カヤ、その黒い宝玉のようなものって、コレ?」
厳重にしまっている、黒い宝玉を取り出し、カヤに見せる。
「そう、それです!」
「カヤ、よく聞いて。これはとても危険な物なんだよ」
カヤに今まであった出来事を話す。
その族長が持っていた黒い宝玉がこれと同種ならまず間違いなく良からぬことが起こる。
それは何としてでも止めないとならない。
最初からそのつもりではあったけど、何としてでも、霊樹の元、その祭壇に向かわなくてはならない。
「それって、とても危険じゃないですか」
「うん。何としてでも止めないといけない。放置していたらこの里が壊滅しかねない。それだけでは済まないかもしれない。お願いカヤ。私たちに力を貸して」
「スピカさん。最初っからそのつもりですよ。そもそも力を貸してほしいのはこちらのセリフです。スピカさん、ミラさん、おと、カイエンさん。ボクと一緒に戦ってください」
「もちろん」
「ええ」
「当然だ」
『私もいるんですけど~』
『仕方ないじゃん。カヤはメーティスのこと知らないんだから』
『そうだけど』
『でも、もちろんメーティスも力を貸してね』
『もちろんよ!』
戦力はそろった。
戦うべき敵も見えた。
ここからはめんどくさい事を考える必要もない。
さあ、行こうか。




