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64 後悔はない

 数秒後、この場にいるエルフは倒れ伏せていた。

 怒ったカイエンさんが全員殴り飛ばしたのだ。

 カイエンさんもそれなりに理性が残っていたのか切り殺さなかっただけましか。

 むしろすっきりした。

 まあ、カイエンさんが殴り飛ばしたんだから、殴られたエルフもかなりのダメージ負っているようだけど、死んでいないから問題はない。

 だから私が手当する必要もないってことだ。

 ざまぁ。


「あ‘‘~~。すまん、やってしまった」


 カイエンさんはすっきりしたのか、天井を仰いでいた。

 すまんと言っているが、後悔はしていなさそう。

 そんな、カイエンさんを見てカヤはポカンとしている。


「やってしまった事は仕方ないよ。私も我慢ならなかったし。そんなことより、カヤ、大丈夫?」

「う、うん」


 座り込んでいるカヤを手を引いて立ち上がらせながら、殴られた所に回復魔法をかける。

 うん、これで大丈夫。


「どうして」

「ん?」

「どうして隠れてくれていなかったんですか。ボクがせっかく誤魔化していたのに」


 やっぱり守ろうとしてくれていたんだ。

 初対面の私たちを。

 何て優しいんだろうか。

 でも、だからこそ。


「お前が殴られているのが耐えられなかったんだ」


 カイエンさんの言う通り、カヤが殴られているのが嫌だった。


「そんなこと、言われても。......はぁ。助けてくれたのはありがとうございます。でも、どうするんですか。この人、里の有力氏族の子で次期族長候補なんですよ。それが、聖域の侵入者、しかも人族に殴られたとなると。この人絶対に許しませんよ。ただでさえ、あなたたちは侵入者ですのに、里のハイエルフ総勢で追いかけまわされておかしくありませんよ。もし、そうなったら」

「んー、よし、逃げよう!!」


 カヤの言う通り、めんどくさい状況になってしまったのは確かだ。

 いいところのボンボンほどめんどくさいものがないからね。

 このままここにいたって捕まるだけだ。

 だったらとりあえず逃げるのが吉。


「逃げるったってどこに」

「そんなの考えるは後。これからどうするのかも後。でも、とりあえず、ここにいるのはダメだからね。とりあえず行こう」


 そう言って、私たちはここを後にする。


「ほら、カヤも行くよ」

「え、ボクも?」

「当然でしょ。このままじゃあなたもどうなってしまうのか分からないんだから。思うところはあるかもしれないけど、今は私たちと一緒に来てくれないかな?」


 そう言って、手を差し出す。

 あのエルフの男の態度を見ているとここにカヤを置いて行ったらろくなことにならない。

 ただでさえ、カヤのこの里での立場は最悪みたいなんだから、私たちをかくまっていただなんて知られたらどうなるか。

 だから、カヤは連れていかなければならない。


「う、うん。分かった」


 差し伸ばした手をカヤが取る。

 良かった。


 そして私たちはカヤの家を後にした。



 ー▽ー


「さてと、カヤ、話を聞かせてもらえるかな?」

「話って、なんのですか?」

「もちろん、この里でのカヤの境遇についてだよ」


 森の中を歩きながら、私は切り出した。

 明らかにカヤのこの里での境遇は悪い。

 いろいろと予想はしたけど、できれば本人の口からきいておきたい。

 何で、そんな合って間もない人の境遇を憂いているのかと言うと単純だ。

 私はカヤを気に入って。

 そんな彼女が虐げられているの何て気に喰わない。

 それでもこの里にカヤが残ると言うのなら、どうにかしてあげたいってものだ。


「......さっき見ていたと思いますが、ボクのここでの立場はあまりよくありません」


 カヤは教えてくれた。

 この里はハイエルフの里であり、ここに住まう人はすべてハイエルフであると。

 ハイエルフは自分たちが世界で最も優れた種族であり、他のすべての種族は自分たちに劣る劣等種と思っているらしい。

 そんな里で生まれたカヤは、ハイエルフの里に本来存在してはいけないハーフエルフであり異端者なのだ。

 それでもカヤが生かされているのは、母親、リーシャさんが里の有力氏族の娘であり、さらにカヤが特異な力をもつため、聖域を守る門番として役に立つためである。


「......なんでそんな環境で、こんなところに固執するの?」


 そこまで虐げられていた普通は逃げ出すものだと思う。

 私も限界で逃げ出したし。

 なのにカヤは私たちが旅に誘ってもこの里に残ると言ったのだ。


「確かにこの里は僕にとって生きやすい環境ではないと思います。でも、ここがボクの生まれた故郷であるのは変わらないですし、ここにはお母さんが眠っています。だから守りたいんですよ。それに、ボクの存在を里の人たちに認めさせたいんです。確かにボクはここでは異端です。ハイエルフたちの中で唯一のハーフエルフですし。でも、ここで逃げちゃ悔しいじゃないですか。まるで、ボクを生んだお母さんが間違いだったみたいじゃないですか。お母さんはこんな里の中に合って、人族と結ばれることを選んだのです。それってとてもすごいことだと思うんです。そして罵詈雑言を浴びせられながらもボクを育ててくれました。だからボクはこんなところで逃げる訳にはいかないんです。里のみんなにボクの事を認めさせて、お母さんの選択が間違いじゃなかったんだって言ってやりたいんです」


 カヤはとても、とても力強い目でそう言った。

 正直言って、無理やりにでも目的を果たしたら一緒に連れていこうと考えていた。

 だけど、そんなことを言われたら、無理やり連れて行くの何て無理だ。


「!? 皆さん、止まってください!」


 カヤが突然目を見開いて足を止めた。


「どうしたの?」

「なにこれ、囲まれて、いきなり現れた? もしかして転移? でもそんなのボク知らない!」


 何かが起きてカヤは動揺してしまっている。

 何とか言葉を拾って、どうやら囲まれているらしいことはわかった。

 カヤの眼については推測でしかないけど、彼女の能力を考えるにそれこそ転移でいきなり現れたんだろうね。


 それにしてもまずいな。

 逃げるだけなら武力でどうとでもなるかもだけど、この場にはカヤがいる。

 ただでさえまずい彼女の立場がさらにまずくなりかねない。

 侵入者の私たちを連れ添って歩いているんだから。

 さっきまでなら、カヤでも気づかない内に家の中に侵入されていたと言い訳が出来たかもしれないけど。


 とりあえず様子見かな。

 対応が遅れても武力ならどうにかなるはずだし、今逃げようとしても、ここに転移してきたってことは何かしら私たちを感知する術があるんだろうしね。

 となれば、カヤの存在に気が付いているはずだし。

 なるほど、ハイエルフか。

 甘く見ていたなあ。

 ただのエルフが聖域を生み出すほどの霊樹の元にいるというだけで、自分たちが優れた種族だと勘違いして勝手に名乗っているだけだと思っていたけど、案外間違いではなかったりするのかもね。


 前方より何名かのエルフがこちらに向かって歩いてきた。


「族長」


 その中でも、護衛を付き従うように戦闘を歩いているのが族長なのだろう。

 エルフらしく長髪の美形で若々しいのだけど、なんだろう。

 見ていると不安になる。


 族長のエルフは私たちをじっと見つめた後、芝居がかったような笑顔で手を広げた。


「おお、よくやったなカヤ。さすがは我が里の門番だ。よくぞ侵入者を捕えた」

「は?」


 思ってもみなかった言葉にカヤが呆然となる。


「どうしたのだ? 早く侵入者を差し出せ。この功績は大きいぞ。それともまさかお前が侵入者たちを手引きしたのではあるまいな?」


 こいつ...

 たぶんどちらかと言うとカヤに対してではなく、私たちに対してのメッセージだ。

 どのような事情があるかは知らないが、大人しく投降するならカヤは助けてやると。

 一緒にいることからカヤが私たちの仲間である可能性を感じたのだろう。

 この里の住人である、カヤにとって侵入者である私たちと行動を共にしていたという事実は致命的だ。

 だが、カヤが私たちを捕えようとしていた門なら話は変わってくる。

 もし、お前たちがカヤを見捨てられないなら大人しく投降しろという事なのだろう。

 逆に、私たちがカヤと関係のない人間であったとしても、言うだけなら簡単だしね。

 だけど、私たちにカヤは見捨てられない。

 嫌らしい手を。


「ボ、ボクは」


 青い顔をして目を泳がせるカヤ。

 笑顔でふてぶてしく私たちを差し出せばいいのに。

 それが出来ないから私はこの子を気に入ったんだろうけどね。


 ミラとカイエンさんにアイコンタクトで意見を確認する。

 うん、決まりだね。


 私たちは持っている武器を落として手を挙げた。


「み、皆さん!?」

「投降しまーす」

「な、なんで」

「いつか認められると良いね」


 そう言い残して私たちはエルフたちに捕まった。







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