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63 ハーフエルフのボクっ娘カヤ

「狭いところですが、どうぞ」


 集落があるらしい場所からかなり離れた位置にある、物見櫓がある小さな小屋に私たちは迎え入れられた。

 カヤがカイエンさんの子供だと判明し、いろいろと話す必要が出てきたのだけど、こんな所ではという事でカヤの家に案内された。


「ほう懐かしい。何も変わっていないな」


 カイエンさんは一人、思い出に耽っていた。

 たぶんここでリースさんと過ごしたのだろう。


「リースはいないのか?」

「お母さんは20年くらい前に亡くなりました」

「...そうか」


 そしてその子供であるカヤからリースさんが亡くなったことを伝えられてカイエンさんは一瞬落ち込んでいた。

 やっぱりそれなりにリースさん事は想っていたみたい。


「カイエンさま」

「ミラ」


 ミラがカイエンさんに何か言おうとしていたけど、肩を掴んで首を振る。

 こういう時は何も言わない方がいい。


「会いたかったですか?」

「ああ」

「だったら、後で後ろにあるお墓に行ってください。お母さんも喜ぶと思います」

「ああそうだな。そうしよう」


 ...居づらい。

 まあ、仕方のないことなんだけど、やっぱり居づらい。

 ミラまで神妙な顔をしているしやめて欲しい。


「そ、それでカヤはどうするの?」

「どうとは?」

「ほ、ほら、せっかく父親のカイエンさんに会えたんだから、こう、殴るとか」

「おいスピカ何を言っている!?」


 あ、しまった。空気に耐えられなくてつい思っていたことを言ってしまった。


「殴る、ああ、別におと、カイエンさんの事を恨んでいたりしませんよ。子供の頃は恨んだことがないだなんて言うと少し嘘になりますが、お母さんはいつも嬉しそうにあなたの事を話していたのでそんな気も失せましたし。正直な気持ち、今さらこうして父親と再会しても困っている感じです」

「お、おうそうか」


 カヤがめちゃくちゃ冷静でカイエンさんの顔がちょっと引きずっている。


「ああ、今日はここに泊まっていっていいですが、明日にはこの聖域から出ていってくださいね」


 話題が変わり、カヤは私たちにここを出ていけと要求してきた。


「出ていけって、私たちあの霊樹の元へ行かなければいけないんだけど」

「ダメです。本来この聖域にハイエルフ以外は立ち入ってはダメなんです。まして霊樹の元だなんて」

「それで、その聖域とやらに侵入してきた私たちを追い払おうとしていたってわけ?」

「はい。ボクは聖域に侵入してきた人や魔物を撃退するのが仕事なんです。他の人たちと比べて少し目が良いので」


 少し目が良い?

 カヤが攻撃してきたとき、私たちが彼女がどこにいるのか分からなかった。

 もし、ここの物見櫓から攻撃してきたとしたら。

 腕もそうだけど、それ以上にどんな目をしているの。


「他の人たちは自分たちの種族以外を見つけると、捕まえるか、殺そうとしてくるはずです。危険ですので明日には立ち退いてください」


 話していると冷静で冷たい感じがしたけど、やっぱりこの子優しいね。

 たぶん仕事で私たちを捕まえるか殺さないといけないにもかかわらず追い返そうとするなんて。

 でも、ごめんね。


「忠告はうれしいけど、私たちどうしても霊樹の元に行かないといけないんだ。あなたには迷惑かけないようにするから見逃してもらえないかな?」

「どうしてもですか?」

「うん、どうしても」


 ユニケルさんのお願いだからね。


「...そうですか。分かりました。何をするのか分かりませんが、他の人たちに見つからないようにしてくださいね」

「いいの?」

「ええ。その代わりと言ったら何ですが、ボクに外の世界の話を聞かせてくれませんか?」

「外の世界の話?」

「ええ、ボク生まれてから聖域の外に出たことがないので、外の世界が気になるんです。よければ教えてくれませんか?」

「そんなのでよかったら」


 私たちはカヤの要望通り、外の世界の話をした。

 カヤは好奇心が旺盛なようで、私たちの話をキラキラと目を輝かせながら聞いていた。

 最初の感じが何だったのか、その様子は年相応な感じがした。


「はぁ、外の世界にはそんなのがあるんですね。いいなぁ。ボクも見てみたいなぁ」

「だったら私たちと一緒に旅をしない?」

「え?」


 私の言葉にカヤはキョトンとした表情をする。

 不意に出てきた言葉だったけどありじゃないかと思えてきた。

 ここまで話していてカヤの性格は好ましく感じる。

 カイエンさんの子供だし、今まで離れ離れになっていたんだから一緒に旅をすれば家族として一緒にいることが出来る。

 カヤが外の世界に出たいならいいんじゃないかと思う。


「...とてもうれしいですけど、ごめんなさい。ボクはここで聖域を守る役目があるので」

「そっか。残念だけど無理強いはできないしね」


 うーん、残念。

 一緒に旅が出来たら嬉しかったんだけど。


「あっ!」


 誤ってうつむいていたカヤが突然声を上げて頭をあげる。


「どうしたの?」

「た、大変です。集落の人たちがこっちに来ています。見つかったら大変っ、隠れてっ!」

「隠れてってどこに!?」

「お、奥! 奥の部屋へ!!」


 そう言ってカヤは私たちを奥の部屋に押し込んだ。

 せ、狭い。

 部屋って言うか物置状態だ。


「ちょ、カイエンさん、変なところ触らないでよ?」

「んなことするか!?」


 んなことしたら蹴っ飛ばす。

 なんてくだらない会話ができるくらいに集落の人たちが来るのは遅かった。

 私どころかカイエンさんすら気づかない距離から見えていたのだとすると、やっぱりすごい目だよね。

 部屋の中から見えていたようだし、透視か視点の移動とかできているのかも。


「おい! カヤ、いるか!!」


 なんてことを考えていると、外から大きな声が聞こえてきた。

 怒声と言ってもいいくらいの声だった。


「ええ、いますけど」


 隙間からしか見えなくてちゃんと見えないけど、カヤが扉を開けると数人のエルフが入って来た。


「この聖域に何者か侵入したらしいが、お前何か知っているか?」

「いえ、知りません」


 ーーゴッ!


 は?

 信じられないことにエルフの男がいきなりカヤを殴った。


「何をしているこの役立たず!! 何のためにお前をここにおいていると思っているのだっ!! さっさと見つけ出して俺に知らせろっ!!」

「っ、ごめんなさい」

「だいたい、我らハイエルフが住まうこの聖域に何故このような半端な者がいるのか。族長の考えは理解に苦しむ。私が族長になればこのような輩すぐに追い出すのだが」


 なにこいつら勝手なこと言っているの?

 確かに、カヤはこの聖域に住まうエルフたちは排他的のように言っていたけど、同族のカヤになんでこんな。

 まさか、カヤがハーフエルフだから?

 アイツら見た限りなんの変哲もない普通のエルフだけど、自分たちのことハイエルフだと言っていたし。

 自分たち以外の種族の存在は認めていないとでも思っているわけ? 

 なんて傲慢な。


「ごめんなさい、やっぱり見つかりません」

「ちっ、役立たずが」


 そして、またエルフの男がカヤを殴った。

 一瞬怒りで我を忘れそうになったが、思いとどまった。

 カヤが隠れてと言ったのは、聖域の侵入者である私たちを守るため。

 ここで出て行ったらカヤの想いが無駄になってします。

 そして、もう一つ。


(カイエンさんこらえて)


 カイエンさんが今にも飛び出しそうになっていたから。

 会ったばかりの娘だけど、彼女が理不尽に殴られるのは我慢ならないのだろう。

 自分より冷静じゃない人を見て、私は何とか冷静になれた。

 だけど、このまま彼女が殴られるのなんて見てられない。


「ミヒャエル様! こいつの家の側で見たこともない白い馬を見つけました!」


 どうしようと悩んでいると、別のエルフが家に入って来た。

 まずい、ユニコが見つかった。


「なんだと!? おい、どういう事だ!?」

「それは、森で迷子になっていたから保護しただけです」

「嘘をつけっ、お前、本当は侵入者のことを知っているんだろう!?」

「し、知らない。ボクは本当に知らない」

「正直にっ、答えろっ」


 何度、言ってもカヤはエルフの男に殴られ続ける。

 何で、こいつらはカヤにこんなに酷い。


 ゾクッ。

 もういい、こんなの見ていられない、と飛び出そうとした瞬間、寒気が走った。


「すまんな」


 その人はそれだけ言うと、ドアを開けて、ゆったりと出ていった。

 奥の部屋から人間の男が出てきたにもかかわらず、その場にいる全員が何もできずに固まっていた。

 圧倒的な強者から発せられる殺気ともいえる怒気を受けて誰も何もできなかった。


「おい、お前ら。覚悟はいいな?」


 そして蹂躙が始まった。


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