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62 襲撃者の正体

 お腹に矢が突き刺さったまま、私は敵がやって来るまでずっと地面に倒れていた。

 これが、策だった。

 私が死んだふりして、死んだかどうか確認しにきた所を捕まえようという、もう少しどうにかならなかったのかと言える策だった。

 死んだふりと言っても実際にお腹に矢が刺さるという迫真ぶりだ。

 回復魔法で延命し続けなければ普通に死んでいたレベルだったけど。

 で、私が死んでも他に生きている人がいなかったら近づいてこないという事でミラたちにはこの異空間の外に出てもらった。

 敵の感知範囲がどれくらいかわからないから念のため、異界外でもある程度は離れていってもらった。


 で、私は死んだふりしながらずーと敵が来るのを待ち続けたんだけど、これがなかなか来なかった。

 結構な時間待ち続けて、失敗したかなって思った矢先にやっとそれらしい人がやって来た。


 気配には気づいていたけど、逃げられたら最悪だからギリギリまで粘っていると、敵は私に向かって、


「ごめんなさい」


 と言った。

 ああ、やっぱり優しい人なんだ。

 騙してごめんね。

 まあでも、ちょっと捕まえさせてもらうよ。


「やっと出てきた」


 そう言って私は起き上がる。

 その様子に敵はびっくりして距離を取った。

 幸いそこから逃げる様子はない。

 そんな敵の正体は可愛らしいエルフの女の子だった。

 ちょっと耳が短いからハーフエルフかな。

 年齢はあてにならないだろうけど、私より2、3歳年下な感じなんだけど、その背中には両端が布で巻かれたかなり大きめの弓を背負っている。


「ふぅ痛たた」


 お腹に突き刺さった矢を抜いて回復魔法で回復させる。

 矢って抜きにくいから嫌いだ。


「なんでっそんな平気にっ!?」


 平気って私がお腹に矢が刺さって平気だったってこと?

 それとも平気に矢を引き抜いたこと?

 まあ、どっちでもいいか。

 基本的にはどちらも回復魔法です。


「教えてあげてもいいけど、とりあえず、捕まってね」


 そう言って私は距離を詰めて手を伸ばす。

 多少の抵抗は予想していた。

 けど、これは予想外だった。


 ハーフエルフの女の子は背負っている弓を振るってきた。

 予想外な動きに回避が少し遅れてかすってしまった。

 さらに予想外なのはかすった所が切れてしまったことだ。


 はらりとハーフエルフの女の子の弓の布がほどける。

 その弓は妙に機械仕掛けで両端は見ただけで何かを斬ることが出来ると分かるほど鋭い刃を持っていた。

 何その武器!?


 手で捕まえようと思ったけど、変更して私も剣を抜く。

 多少傷を負わせてしまっても回復させられるし、追い詰めることにする。


「はああぁぁぁぁ!!」


 手数をベースにして、相手の選択肢を徐々に奪っていくようにして攻撃する。

 理想としては最終的に武器を奪うか気絶させたい。

 並みの剣士なら、すでに決着はついているはずなんだけど。


『この子、強い!!』


 メーティスの言う通り純粋にこのハーフエルフの女の子は強かった。

 弓を持っているんだから、射手としてがメインだろうに、刃が付いた弓を使った近接戦闘もかなり強かった。

 それでもそれがメインじゃないからか、距離を取って矢を使おうとするので、常に側をにつくように立ち回った。

 だが、相手がハーフとはいえ、エルフで、森というフィールドが有利に働いたからか、巧みな動きで距離を取ろうとするのでかなり苦戦した。


 そして最終的には、至近距離でハーフエルフの女の子の攻撃をギリギリで回避し、カウンター気味に剣の柄を相手の頭に叩き込んで気絶させることに成功した。

 脳に損傷はないし、回復魔法もかけたので大丈夫。


 それにしても、終わってみれば危ないところはなかったけど、思ったよりも強くて苦戦したな。

 下手したら、私がこの子と同じ年齢の時よりも強かったんじゃないかな。

 ハーフエルフだから参考にはならないだろうけど。


「あー、結構移動しちゃったなあ。メーティス、元の場所わかる?」

『もちろん。もうすぐ時間だから急いで戻りましょ』

「うん」


 私は、気絶したハーフエルフの女の子を背負ってメーティスの案内に従い、元居た場所に戻った。


 ー▽ー


 元の場所に戻るとすでにミラたちはそこにいた。


「お待たせー」

「スピカ! 無事でしたのね」

「もちろん」


 私の姿を見たミラは心配したかのように駆け寄って来た。


「それにしてもよくここで待っててくれたね」


 ミラたちには別れてから2時間後にこの場所に戻ってくるように指示を出していた。

 それでもし、私がその場にいなかったら霊樹で落ち合おうことになっていた。

 目的地は同じだからね。


「まだ、そんなに時間は経っていないからな。それに戦闘に形跡もあったから、その内戻ってくると踏んでいたのだ」


 さすがカイエンさんは目敏いようだ。


「それで、その背負っているのがそうなのか?」

「たぶんね。よいしょっと」


 ずっと背負っているのも何なので、ハーフエルフの女の子を木にもたれかかるように座らせる。


「いやー、なかなか出てこないし、出てきて捕まえようとしたら強くて焦ったよ。見たこともない武器使うし。ってカイエンさんどうしたの?」


 念のため取り上げた武器を見せながら、そう言っていると、カイエンさんが神妙な顔をしていた。


「いや、こいつの顔「う、うーん」」


 カイエンさんが何か言いかけるとハーフエルフの女の子が目を覚ました。

 軽い脳震盪程度だったからか目が覚めるのが早い。

 でも、この人数で囲っているし、武器も取り上げているから大丈夫だろう。


「あ、あれ、ここは? っっ!? 人族!?」


 私たちの存在に気付いて武器を取り出そうとするけど、その手には何もつかめていない。

 とりあえずは交渉だね。情報収集とも言う。


「こんにちは、私の名前はスピカ。とりあえず攻撃してきたから捕まえさせてもらったよ。ごめんね」

「ボ、ボクをどうするつもりですか!?」

『ほう、ボクっ娘とはね。この子わかっているわ』


 メーティスうるさい。

 まじめな話しているんだから変なこと言わないでよ。

 例え私にしか聞こえなくても。


「別にどうするつもりもないよ。ただ、いろいろと聞きたいことがあるだけ。答えてくれない?」

「......」

「どうして私たちを攻撃してきたの? 何もしていないのに」

「......」

「どうやって私たちの居場所を知ったの? ほかに仲間はいないの?」

「......」

「うーんだんまりか」


 困ったなぁ。

 さすがにこんな子に対して強制的に聞き出すことはできないしな。


「ちょっといいか?」

「どうしたのカイエンさん」

「お前、血筋にリースという女がいなかったか?」

「お母さんを知っているんですか!?」


 今まで何も答えなかったハーフエルフの女の子がついに口を開いた。

 リースと言うのはカイエンさんを助けたエルフの女性のことだろう。

 んで、お母さん。

 しかもこの子はハーフエルフ

 ...もしかして。


「ねえ、もしかして父親とかっていなかったりする?」

「どうしてわかるんですか!?」


 確認のために聞いてみたらやっぱりそうだった。

 いや、まだだ。

 まだ大丈夫な可能性は残っている。

 カイエンさんが70年も子供をほったらかした人じゃない可能性はまだある。


「お母さんから父親のこととかって聞いていたりする? 名前とか」

「ボクの父はカイエンという人族の人だったそうです」


 あっ、あー。

 はい。

 なんとなくそう思っていたよ。

 この子がリースさんの子供って時点でもう確信していたよ。

 いや、でもマジですか。

 この子カイエンさんの子供ですか。

 時期的に70年も放置していた。

 いや、まあたぶん存在自体知らなかったんだろうね。

 件のリースさんと別れた時にはできてるって気が付かなかったんでしょうね。

 ...でも1発殴らせてくれないかな。


 ちらりとカイエンさんを見ると固まっている。

 ミラはなんだかあわあわしている。

 仕方ない。


「えーと、あなた名前なんだっけ」

「カヤです」

「その、カヤ。こちらにいるのがあなたの父親です」

「は?」

「あなたの父親のカイエンさんです」

「え、えええええぇぇぇ!!?」


 ハーフエルフの女の子のカヤの声が森に響き渡った。




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