61 見えない敵
「わっ」
ミラの案内に従ってしばらく進んでいると、突然変な感覚に襲われたと思ったら天にも届く巨大な大樹が姿を現した。
あれが霊樹なのだろう。
『なるほどね。幻影で隠れていたというより半分別空間にいたわけね。これは、霊樹を中心に半分異空間が展開されているわね。外から見る以上にここは広いはずよ』
さっきの変な感覚はその異空間に入った感覚だったのかな。
それにしても。はぁ、すっごいねぇ。
まだ、かなり遠くだろうけど、距離感が分からないくらい霊樹は大きかった。
「すごいねぇ。この世界にこんなものがあるだなんて」
その光景は感動的で衝撃的だった。
素直に見ることが出来たことがとてもうれしく思う。
ただ、なんだろうこの感覚は。
見ていると少し悲しく、そして不安になる。
「...行きますわよ」
あまりの光景と生まれた感情に立ちすくんでいると、またミラが歩き始めた。
今度は険しい表情で。
「ミラ、どうしたの?」
「まだ、弱くはっきりとしませんけど、霊樹が呼んでいますわ。でも、これは、救いの声?」
霊樹が呼んでいる?
救いの声?
そこまでの自我があるのか分からないけど、仮のもこんな強大な異空間を形成するほどの存在が?
「とにかく、霊樹の元まで向かいま「止まれっ!!」っ!?」
ーーヒュン、ドスッ
カイエンさんによってミラの言葉が中断され、足が止まる。
と同時に、ミラの足元に矢が突き刺さった。
...なんの反応も出来なかった。
「ミラ、下がって」
「は、はい」
顔を青くしたミラは素直に下がってくれた。
ーーヒュン、ドスッ
と同時に、今度は私の頬をかすって後ろの木に突き刺さった。
まずい、またなんの反応も出来なかった。
今度は油断なんか一切していなかったのに。
ーーヒュン「ふんっ」
今度は何とか、一瞬見ることが出来、カイエンさんに向かって矢が飛んできたのが見えた。
こんな木々が生い茂った森の中なのに、まるで木をすり抜けるかのように飛んできた。
だけどさすがはカイエンさん。
剣で矢を防いだ。
「どっから飛んで来てんの!?」
「わからん! こんな森の中で撃てる程度の距離ならすぐにわかるのだが、気配の欠片も感じん」
私はもちろん、カイエンさんですら気配を感じないなんて。
そんなに遠くから矢を放っているのか、それともそこまで気配を消せるのか。
どちらにせよ、ミラとユニコを守らないと。
いくつもの矢が飛んでくる。
いくら移動しても矢が飛んでくるし、木の後ろに隠れても、真上から矢が飛んでくる。
おそらく射手は一人。
だけど、居場所は検討もつかない。
ただ、一つ違和感がある。
これだけ、意味不明な技で正確に私たちを狙って矢を放っているのに、そのすべてが足元に突き刺さったり、せいぜいがかすり傷程度。
こんな事が出来るなら脳天に一発放てるだろうに。
『もしかして、追い出そうとしている?』
そう言われてみればそうかも。
殺すなら、普通は脳天に一発で終わりだし、捕まえるなら、手足を狙う。
だけど、最初からせいぜいがかすり傷程度。
狙っているようにしか感じない。
しかも、最初にミラを撃って下がって以来、ミラには一度も矢が飛んで来ていない。
つまり、これは威嚇射撃でこのまま追い出そうとしているってことになる。
「だとしても、このまま引くわけにはいかないよ」
『そうね。だからと言ってこのままじゃどうにもならないし、無理やり進むのも危険だしね』
いくら私が回復できるからって、無理やり進むのは論外である。
私はともかくミラやユニコにそんな真似はさせられない。
カイエンさんは自力で何とかなるだろうけど。
現にこうして防げているし。
それもいつまで持つかわからないけど。
この射手の怖いところはどこからどのタイミングで飛んでくるかわからないところだ。
猛スピードで蛇行しながら矢が飛んでくるとか意味がわからない。
『何とか敵を引きずり出せればいいんだけど』
敵を引きずり出すね。
敵は威嚇射撃で追い出そうとするくらいには、これ以上私たちに進まれたくないってことだよね。
だけど、殺そうとはしない。
もしかして優しい性格?
「...一か八かの策を思いついた」
リスク自体はほぼないし、やってみる価値はあると思う。
「みんなよく聞いて」
私は思いついた策をみんなに話す。
ミラには大いに反対されたけどこれしかないので何とか納得してもらった。
「じゃあやるよ」
私の合図とともに矢がカイエンさんめがけて飛んできた。
カイエンさんはそれをいつものように剣で防いだ。
だが、剣ではじかれた矢は方向を変えて、私に向かって行き。
私はその矢に腹を貫かれた。
ー▽ー
「あっ」
エルフは思わず声を上げた。
予想外に粘られた焦ったが、それでもいつかは引いてくれるだろうと森の侵入者たちに矢を射続けた。
一人はちょっと違う感じだったが、3人の人族と1頭の馬だった。
何度も矢を防ぎ続けた彼らだったが、はじかれた矢にとって一人が貫かれるというイレギュラーが起こった。
それによって一人の白い女の人が倒れた。
致命傷かもしれない。
それを見た他の人たちはすぐさま退却していった。
白い女の人を置いて。
「...薄情者」
その様子にエルフは嫌な気持ちになる。
致命傷かもしれないけど、まだ生きているかもしれない。
なのに置いて行くなんて。
「やっぱり人族は悪い奴らなのかな。それともあの人たちだけ」
どちらにせよもうあの人たちと関わることはないだろうとエルフは思った。
だけど、彼女はどうしようかと思った。
倒れている白い女の人はまだ生きているかもしれない。
手当すれば助かるかもしれない。
死んでいるにしても、このままでは魔物や動物の餌になってしまう。
せめて墓くらいは作ってあげよう。
エルフはそう思い、倒れている白い女の人の元に向かった。
しばらく走り続け、白い女の人の元にたどり着いた。
ずっと見ていたが動くようすはなかった。
やっぱり死んでいるのだろう。
「ごめんなさい」
一言そう呟いて白い女の人を回収しようとした瞬間、
「やっと出てきた」
白い女の人は何事もなかったかのように起き上がて来た。
腹に矢が深々と突き刺さったまま。
 




