56 船出
「わぁ、すごい船」
翌日、ガルスさんたちに連れられて港に向かうととても立派で大きな船があった。
ガルスさんたちが所有する船であり、これに乗せてもらえるらしい。
「さて、スピカ殿、ミラ殿、忘れ物などはないか? 俺たちはここまでだ」
「うん大丈夫。本当ありがとう」
「なに、例には及ばんよ。だが、せっかく知り合えたのにもうお別れとは非常に残念だ」
「そうだね」
「難しいだろうが機会があればまた是非来てくれ。街をあげて歓迎する」
「うん、楽しみにしてる」
まあ、距離的にここに来るのは本当に難しいだろうけど、ミラをアルカイド王国に無事送り届けてまた旅をするなんてことがあれば来てもいいかもしれない。
一人なら空を飛んで来れそうだしね。
「そろそろ出港しまーす。はやくお乗りください」
別れの挨拶をしていると乗組員から声がかかった。
「では行くといい。これで別れだ」
「旅の無事を祈っているぞ」
「うん、じゃあね」
「お世話になりました」
ガルスさんとソリストさんたちと別れて船に乗り込む。
「出港するぞぉぉぉ!!」
野太い声の男の声が響く。
たぶん船長だろうね。
後で挨拶しておこう。
船が陸から離れていく。
「お世話になりましたー!」
離れていく彼らに手を振る。
船は徐々に加速していき、すぐに彼らは見えなくなった。
ー▽ー
「わぁ綺麗」
潮風が私の長い髪を靡かせる。
海が太陽の光を反射してキラキラと輝いて見えてまるで宝石みたい。
それが波にユラユラと揺れて変化するものだからずっと見ていても飽きない。
初めて海を見た時も感動したけど、こうして大海原の真ん中から見る景色も本当に素敵。
「......ス、スピ...カ」
船頭の方で景色をうっとりとしながら見ていると隣にいるミラが顔色を悪くして口を押えながら気持ち悪そうにしていた。
「酔ったの?」
「はい。気持ち悪いですわ。助けてくださいまし」
ミラの方も最初は船旅は初めてという事で私と同じようにはしゃいでいたけど、途中からおとなしくなっていたと思ったら船酔いをしていたみたい。
馬車とか大丈夫だったし平気かなって思ったけど船はダメみたいね。
仕方ないから回復魔法をかけてあげる。
「はい。これでどう?」
「あ、楽になりましたわ。ありがとうございます」
「いいよ。でもあれだね。このままじゃミラずっと船酔いしたままになってしまいそうだね」
「え」
「いくら回復したからっていっても一時的な事だし。たぶんしばらくしたら酔ってしまうだろうね」
あくまでも私がしたことは回復なんだから。
酔い止めでもないし。
「そんなぁ」
「んー、ミラが酔う度に私が回復してあげてもいいんだけど、それじゃミラもしんどいだろうし継続するタイプの魔法を作ってあげるよ」
予定では1ヶ月ほどの船旅だしね。
「お願いしますわ」
「うん。たぶんそんなに時間かからないと思うからちょっと待っててね。それまでは気持ち悪くなったら私に言って。回復してあげるから」
「はいですわ」
まあ、リジェネの応用で作ればいいしすぐに術式も完成するでしょ。
「おう、お前たちこんなところにいたのか」
後ろから男性の声が聞こえてきた。
後ろを振り向くとそこには壮年の筋肉質な男性がいた。
「ああ、カイエンさん」
「よう」
なんだカイエンさんか。
急に声かけられたしびっくりした。
...え、カイエンさん?
「うわっ、なんでカイエンさんがいるの!?」
普通にびっくりした。
昨日ガルスさんたちの館から姿を消したって言っていたのに何でここに。
ミラも驚いた顔をしているし。
「あ? ガルスたちから聞いていなかったのか? いやなに、お前たちが旅をしているって聞いてな。俺もその旅に加えてもらおうかと思ってな」
「思ってなって」
カイエンさんの言葉を真に受けるなら私たちの旅の仲間になりたいってことみたいだけど。
「まあ、理由はいろいろあるが、これはカンだがお前が不浄の化け物と呼んでいたあの魔物。お前たちと旅をしていたあれと同類の奴と巡り合う気がしてならないのだ」
それは、何と言うかまったく否定できる気がしない。
これまで何度も偶然とはいえないほどに不浄の化け物、黒い宝玉と対峙してきたわけだし、私自身も今後不浄の化け物と出会うって確信に近いレベルで思っている。
黒い宝玉がどれだけあるのかは知らないけど、たぶんまだある。
あんなのとは出来れば出会わずにいたいけど、黒い宝玉があるってわかったら放っておくわけにもいかないからね。
「あれとは少なからず因縁を感じるからな。だからお前たちの仲間に加えてくれ」
そう言えばこの人師匠とも関りがあるし、トリスタンの事も含めると2人も黒い宝玉の被害にあっていると言えなくもないか。
それにこの人、めっちゃ強いし頼りになる。
一緒に旅をしてくれるならこれ以上ないくらいありがたい。
むしろこっちからお願いしたいくらいに。
「うん。わかったよ。でも私たちの目的はあくまでもアルカイド王国に帰ることだよ。それでもいいの?」
「ああ、十分だ」
「ミラもいい?」
「ええ。カイエン様なら大歓迎ですわ」
「メーティス?」
『わたしもいいと思うわ』
「よし。じゃあカイエンさんこれからよろしく」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
手を差し伸べて握手する。
『テレテレテテレン、テレテレテテレン、テレレレレレレレレテン...テン。カイエンが仲間に加わった!』
「何してんのメーティス」
『んー、様式美?』
なにそれ。
「む、まだ誰かいるのか?」
「あ、しまった」
そう言えば普通に声出してメーティスとしゃべっていた。
最近ミラがいても声に出して会話していたからなあ。
油断してたかも。
まあ、でもいっしょに旅をするなら知っておいてもらった方がいいかな。
それに、私の回復魔法の事とか人竜化の事とかもっとヤバい事知られてるし、今さら精霊の巫女って知られても問題ないかな。
「えっとね、私の中には精霊がいるの。メーティスっていう精霊が」
周りに人がいないことを確認してから、一応誰にも聞こえないように小声で言う。
「ほう、精霊の巫女って奴か」
「そう。で、この事は秘密にしているから黙っていてね」
「なるほど、わかった。ではよろしく頼むぞメーティス」
『うん、よろしくね』
「よろしくだって」
さすがにこの場でメーティスを実体化させるわけにはいかないから口頭で伝える。
「それにしてもよく信じてくれたね」
精霊なんて基本的に実態がないもの普通はなかなか信じられないと思う。
私の場合はメーティスを実体化できるので例外だと思うけど、それでも今は実体化させていない。
「お前の規格外の回復能力や人型の竜のようになる力を見ているからな。精霊の巫女だとしても今さら驚かんし信じるに値する」
まあ、そうかもね。
自分でも思うけど特異な力を持ちすぎなんじゃないかな私。
だからこそ面倒なことにならないように隠しているんだけどね。
最近は隠しきれてないような気がするけど。
なにはともあれ私たちの旅に新たな仲間が加わった。
これでこの章は終わりです。
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