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遅くなってしまいました

「そうか」


 ガルスさんは目を瞑り無表情でそう言った。

 館に戻り翌日、ガルスさんが目を覚ましたので遺跡での出来事を話した。

 騎士たちは全滅してしまっていたこと。

 途中でカイエンさんと合流したこと。

 トリスタンとカイエンさんが戦ったこと。

 トリスタンが黒い宝玉に飲み込まれて不浄の化け物となったこと。

 それを倒したこと。

 そしてトリスタンが死んだこと。

 黒い少女のことも。


 ガルスさんが意識を取り戻したこと自体は昨日の夜だという事なので恐らくソリストさんからある程度報告をだろうけど、やっぱりこういうのは私の口からちゃんと言わないと。

 ガルスさん自身、息子であるトリスタンを殺そうとはしていたけど、最後に関わったのは私たち自身だし。

 まあ、これは私個人の考えなだけでこの場にいないカイエンさんを責め立てる言葉では決してない。

 さっきソリストさんに聞いたところカイエンさんはまだ寝ているらしい。

 もう大丈夫だろって言いたい所だけど、いくら回復したといっても元々一番重傷だったし仕方ないかもしれない。

 それに、私たちは他人だが聞いた話によればカイエンさんはガルスさんたちの血縁者らしい。

 というかほぼ直系の先祖との事。

 最終的に殺したのはアークだけど、合わせる顔がないと思っても仕方のない事だよね。


「スピカ殿、ミラ殿。この度の件誠に感謝する」


 そう言うとガルスさんはふぅと息を一つ吐いてからポツリポツリと言葉を紡ぎ出した。


「トリスタンは責任感が強くさら才能に溢れた子だった。それでいて才能に驕ることなく修練を続けていた。まず間違いなく天心流においてカイエン様に迫る実力者となっていただろう。だが数年前、とある狂暴な魔物が町を襲い掛かった。最終的にカイエン様が撃退したがその時にトリスタンは多くの仲間と婚約者を失った。自身も復帰不可能な大けがを負い剣士としての道も絶たれた。思えばそこをアークや黒い宝玉とやらに突かれたのだろうな。責任感の強いあいつの自責の念と後悔、そして自分自身への怒りが強さというものを過剰に求めたのかもしれん。だからと言ってトリスタンのしたことは許されるものではない。だが、これであの子も救われる。重ねて感謝する」

「うん......そうだね。救われているよきっと」


 もちろんそんなのは私にはわからない。

 でも、その言葉によって救われる人がいるならそう言う事にしておこう。


「彼の遺体はもうないけど、使っていた剣なら遺跡の最奥にあるから代わりにお墓にでも入れてあげて。供養になると思う」


 トリスタンは紛れもなく大罪人だ。

 でも、ある意味ではアークや黒い宝玉の被害者だし、死んだ今となっては安らかに眠ることも許されるはず。

 たとえ遺体がなくても剣士ならばそれで十分なはず。

 彼らにとっても。


「そうだな。そうしよう。ソリスト」

「すでに遺跡内部の騎士たち遺体の回収に当たっている。伝令を飛ばせばトリスタンの剣も回収してくれるだろう」


 おお、仕事が早い。

 事前にソリストさんに騎士たちの遺体の話はしていたけど、まさかもう回収作業にあたっていたとは。


「お前は本当に優秀だな。俺ももう引退を考えるべきなのかもしれんな」

「まだまだ父上は現役で行けるだろう。それに俺はまだ結婚もしていない若造だ。継ぐにはまだ早い」

「そうは言うがな。というより何故まだ結婚しない。早くしろとあれだけ言っているのに」


 とりあえずのけじめをつけたのか話題はトリスタンの話からソリストさんの結婚話に変わった。

 ていうかソリストさん年の割にまだ結婚していなかったんだ。

 そう言えば前の夕食会の時も奥さんいなかったしそもそも結婚していなかったんだ。


「出会いがないのだ」

「いや、お前そこそこお見合いをしているだろう。なのに全部断りやがって探すのも大変なのだぞ」

「うっ、その、何と言うかあのようなおとなしくて控えめな女性は苦手で」


 えーと、私たち帰っていい?


「ならばそこのスピカ殿ならばどうだ」


 ちょ、なんかこっちに飛び火してきた!?


「聖女に相応しい見た目と力を持ちながら剣術も相当なものだし何より果敢で今回の一件を解決した立役者だぞ」

「ふむ」


 ふむじゃないよ。

 なにありかな見たいな目で見てきているの。


「あーと、私この通りアルビノだし見ての通り虚弱体質だからやめておいた方がいいよ。子供にも遺伝するかもしれないし、うん」


 ここぞとばかりに弱弱しい見た目を全面に押し出す。

 ここ数日行動を共にして分かったけど、ソリストさんはいい男だ。

 どこかのレオ何とかと比べるまでもないくらいいい男だ。

 だからと言ってこの人と結婚したいかと言えば違う。

 友人関係がちょうどいい。

 まあ、だからこそきっぱりと断りづらくて変にごまかそうとしてしまうのかもしれない。

 こうなったら奥の手を使わないといけないね。


「だったらミラ何てどう? 私と違って健康そのものだし、貴族の娘として教育をうけているしとても美人だし。街を救った英雄でもあるよ」

「ちょ、スピカ!?」


 奥の手として間髪入れずにミラを売る!!

 ターゲットをミラにすり替えることによって私から意識をずらさせる。

 さらに今言った事は私にもほぼ当てはまるけど、私を否定してミラを全面に押し出すことによってミラを強く意識させる。

 完璧なミスディレクションだね。

 ソリストさんの目線も私からミラに移っているし。


「ふむ」


 ......ていうか何だろうなんとも言えないこの気持ち。


『スピカもミラも16歳だし、ソリストさんともだいたい10歳差くらいだから年齢的にはありっちゃありのはずなんだけど何なのかしらこの犯罪臭がする感じは。なんだか悲しくなってくるわね』

『そうだね』


 正に私が感じていた気持ちをメーティスが代弁してくれた。

 うん、問題はないはずなんだけどソリストさんが私たちを結婚相手にどうかと考えているのを見るとなんだか犯罪臭がするんだよね。

 ソリストさんがいい人なだけになんだか悲しくなってくる。


「あの、あ、そうですわ。わたくし、故郷に婚約者がいるので申し訳ございませんがお応えできませんわ」


 そして私のキラーパスをミラは見事にスルーした。

 ていうかミラ、今まで自分に婚約者がいることを忘れていたみたいに言ってる。

 あれだけ好き好き言っていたのに。

 まあ、その方が良いと私は思う。

 いくら友達とはいえ人様の色恋に対してあまり言いたくないけどアレはやめておいた方が良いよ。

 ミラならもっといい人が見つかるから。


「そ、そうか」


 ソリストさんが若干傷ついたような顔をしている。

 いくら誤魔化したようにしたって否定と変わりないし、ミラに至っては完璧に否定してるし。

 しかも私もミラも勧められただけでソリストさんは何も言っていないのにフラれているし。

 あ、なんだかソリストさんが急に不憫に思えてきた。


「クックック。フラれたなソリスト。まあ、恩人に無理強いすることはできないからな。残念だが諦めろ」

「俺はまだ何も言っていないのだが」


 こんな残念な人だったかなこの人。


「さて、スピカ殿にミラ殿。此度の件報酬の話をしよう」

「ああ、そう言えばくれるって言っていたね」

「先ほどミラ殿が故郷に婚約者がいると言っていたが、その故郷に帰っている途中なのだろう?」

「うん」

「確か別大陸の端だったか」

「うん」

「そこで特別に船を出してやろう」

「おお!!」


 大陸を渡るとなっては船が必要だし、それを提供してくれるなんて最高だね。


「と言っても海図も無しに知りもしない海を渡ることはできないからな。送れるのはここから別大陸に渡った先の国、シュダル王国になるがいいか?」

「うん、願ってもない事だよ」


 元々シュダル王国を目指していたんだからね。

 まだまだ距離はあるけど同じ大陸に戻れるなら帰還はより現実的なものになってくる。


「わかった。すぐに手配させよう。明日には出港できるはずだ」

「本当!? ありがとう!!」

「礼を言うのはこちらの方だ。これはせめてもの礼だからな。さて、いろいろと準備するものもあるだろう。必要な物が他にあれば可能な限り用意する。さあ、行きなさい」

「はい。行こうかミラ」

「ええ」


 ......ガルスさんは笑えるような話も混ぜながら感謝する感謝すると何度も私たちに恩義を感じているように言葉を繰り返していた。

 それはまず間違いないと思うけどたぶんそれだけじゃない。

 ガルスさんはトリスタンを自分で始末しようとしていた。

 だけど、トリスタンは自分の息子である。

 正直私には親への愛情何てわからないし親の子への愛情なんかもっとわからない。

 だけど一般的には親は子を大切にしている。

 愛している。

 ガルスさんもそうだろう。

 私の弟や妹たちへの愛情と似たようなものと思えばある程度は理解できる。

 いくらトリスタンが許されない罪を犯したからといって、自分で始末をつけようとしたからといってトリスタンが心底憎かったわけではないはず。

 いろいろと私たちに良くしてくれているけど思うところはあるかもしれない。

 私たちがトリスタンを殺したようなものだから。

 なのにこんなにも良くしてくれている。

 大人だなぁ。


 ......さて、明日となると早く準備を済ませないとね。


 ー▽ー


「カイエン様、この度は尽力していただいてありがとうございます」

「いや、いい。それよりもあいつらはどこかへ行くのか?」

「ええ。故郷に帰るそうで別大陸に向かうそうです。明日には船に」

「そうか。一人追加で乗るくらい問題ないよな?」

「まさか、彼女たちに同行するつもりで?」

「ああ。俺もまた旅をしようと思う。あいつらについて行くのもいいだろう。それに」

「それに?」

「けじめは俺が付けてやる」

「!?」

「あいつらの前では大人ぶっていたようだが、今回の件の黒幕、アークに思うところがあるだろう?」

「ははは、あなたには敵いませんな。......仕方ないと思ってはいるんですよ。トリスタンは許されないことをして始末をつけなければならなかった。なのに俺に力が無いばかりにあなたやあの子たちに負担をかけてしまった。だからあなたたちを恨みはしません。だけど、トリスタンに人の道を踏み外させやがったそのアークとやら許せねぇ!!」

「...これは俺のカンだが、アイツらについて行けばいずれまたアークと出会う気がする。そうなったら俺が始末をつけてやる」

「...俺自身が始末つけてやりたい所ですけど。分かりました。カイエン様、どうかトリスタンの仇を。そしてあの子たちを頼みます」

「任せろ」


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