51 溢れる瘴気
えーと、なにあの化け物。
何て言うか強いなんてレベルじゃなかった。
私と戦った時は本当に手加減していたのだろう。
大した時間じゃない攻防だった。
いや、攻防じゃないねあれは。
ただカイエンさんが技を受けてあげてから倒しに行っただけ。
もはや戦いとすらいえないかもしれない。
それほどにカイエンさんは意味が分からなかった。
ていうか最後のなんなの?
明らかに斬ってないように見えたんだけど。
「ほう、あれを受けてもまだ生きているのか。とんでもなく頑丈だな」
構えを解いたカイエンさんはトリスタンを見下ろしながらそう言った。
「ぐ、ぎぎぎぎ」
全身血まみれでなんで生きているのか分からないほどの重傷を負っているトリスタンは地に伏せつつもまだ動こうとしていた。
なんでこれで死んでいないの?
それほどまでに黒い宝玉と結びついている?
なんだか嫌な予感がする。
「カイエンさん! 早くトドメを刺して!!」
もう戦えないだろう人にトドメを刺すのはあまりいいものではないけどそうも言っていられない気がする。
その証拠にトリスタンから瘴気があふれ出る。
「なんだ?」
「カイエンさん早く!!」
「ああ」
私の声とトリスタンの様子に気が付いたのかカイエンさんはトドメを刺そうとトリスタンに剣を振るう。
「がああぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっ!?」
だけど遅かった。
あと一歩というところでトリスタンから尋常じゃないほどの瘴気があふれ出す。
「カイエンさん!?」
そして間近にいたカイエンさんはもろに瘴気を受け、こちらに弾き飛ばされてしまった。
「何とか大丈夫だ」
空中で回転して受け身を取ったカイエンさんであったけど、瘴気をもろに受けた影響か皮膚が所々変色している。
ていうかこの人もこの人だ。
あれだけの瘴気をもろに受けてなんでこの程度で済んでいるのか。
普通は死んでいるはず。
「じっとしてて」
それでもかなりのダメージなのには変わりない。
回復魔法をカイエンさんにかける。
くそっ、やっぱり瘴気に影響されたものは回復魔法が効きづらい。
思ったよりも回復しない。
私自身ならともかく、他人に使う場合はただただ魔力をこめればいいってわけではないし。
そんなことをすれば最悪過剰回復してしまう。
それでも効かないという訳ではないからできるだけ早く治るように回復魔法をかけ続ける。
「助かる。それにしてもなんだアレは?」
「詳しくはわかない。でも、これまで黒い宝玉の持ち主が何らかの形で追い込まれた場合、持ち主を核にして化け物が生まれてくる」
「化け物だと?」
「うん。大きな熊みたいのだったり、蛇みたいのだったり。異常なまでの瘴気の化身。不浄の化け物」
そう言っている間にもトリスタンからあふれ出た瘴気は凝縮され、形作られていく。
感じる気配はこれまでの不浄の化け物と比べてかなり強い。
そして不浄の化け物はその姿を現す。
『グォォォォォォ!!』
その姿を見て私は呆気に取られた。
本物は見たことがない。
姿かたちは爛れ腐っていてもドレイクを人は想像すると思う。
でも私から見てそれはドレイクを模した姿ではなかった。
見たことはないけど確信はあった。
「竜?」
その不浄の化け物は竜のようなものだった。
何だろうこの感覚。
目の前に現れた不浄の竜はどうしようもなく懐かしくて近くて怖い。
久しく忘れていた恐怖という感情が私を支配する。
それと同時にこの竜を汚す存在を許してはならないという気持ちもあふれ出す。
『スピカ! スピカ!!』
「はっ」
気持ちが整理できずに思考の渦に飲み込まれそうになっていたけどメーティスの呼び声に目を覚ます。
『何ボーとしているの。しっかりしなさい』
「あ、うん。ありがとう」
そうだ考えるのは後だ。
まずは目の前の不浄の竜を倒さないといけない。
相変わらず謎の恐怖がわいてくる。
でもそれがどうした。
ここにはミラがいるしユニコがいるしカイエンさんもいる。
何よりメーティスがいる。
なのに私が、この私が怯えている場合じゃない。
呼吸を整える。
「カイエンさん、見ての通りアイツヤバいから流石に私たちも一緒に戦うよ」
覚悟を決めてとりあえずはカイエンさんが一人で戦わないようにする。
いくらカイエンさんでもアレはまずい。
なんとなく勝ってしまいそうな気もするけど流石にそんなこと言ってられない。
「うーむ仕方ないな。まあ、確かにアレは俺の手にもあまりそうだ」
「うん頼んだよ。もういけそう?」
「おう」
もう秒読みで戦闘が始まるので体の調子を聞く。
全快ではないだろうけど大丈夫そうだ。
「よしじゃあ、カイエンさんは前衛お願い。あいつの攻撃回復しづらいだろうからできるだけ受けないように。ミラとユニコはそのまま後方から魔法をお願い」
「おう」
「かしこまりましたわ!!」
2人に指示を出す。
それと同時に不浄の竜は悍ましい咆哮をあげる。
「みんないくよ!!」
不浄の竜を打ち倒すべく私が剣を持って駆けだした。




