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45 哀れな彼らに福音を

 トリスタン。

 ガルスさんの息子でソリストさんの弟だったはず。

 障害を負っていて昨日の夕食会にはいなかった人だけど。

 障害のある人の動きじゃないんだけど。

 いや、黒い宝玉で無理矢理動かしているのかな?

 それとも本来できる動きにさせているのかな。

 ああ、となるさっきの違和感が分かった。

 ガルスさんやソリストさんの動きに似ていたからだ。

 黒い宝玉で強化されているんだろうけど基本的な動きは彼らの流派のそれなのだろうね。


「クックックこういう事ですよ父上」


 トリスタンからさらに瘴気が溢れ出る。

 くっ、気持ち悪い。


「俺は力を得た。誰にも負けない力を。俺はさらに強くなる。剣聖にも負けないほどの」


 そう言ってトリスタンは剣を地面に突き刺した。

 剣から地面を伝って瘴気が死体に絡みつく。

 すると死体はゆっくりと立ち上がって動き出した。

 ゾンビか。


「今日はここまでだ」


 そう言い残すとトリスタンは逃げていった。

 やっぱり黒い宝玉で強化されているんだろうね。

 人間の動きじゃなかった。


「まてトリスタン!!」


 ガルスさんが止めようとするもすでにトリスタンの姿はここにはなかった。

 あるのはゾンビだけだ。

 数が多いね。

 あんまり見せたくないけど回復魔撃も見せているしいっか。

 死して守るべき主人を襲うのは騎士たちにとってこれはあまりにも酷いしね。

 ガルスさんたちにとっても彼らは配下だし。


「せめて安らかに眠って。”ゴスペル”」


 憐れな騎士たちに聖なる福音を与える。

 不浄のゾンビは浄化され、爛れ腐りきった体は元の肉体に戻る。

 決して生き返ることはないけどアンデットとして主人や同僚に討伐されるよりも遥かにいいだろう。

 せめて綺麗な体で眠るべきだ。


『随分と思い切ったわね』

「さすがにこれは可哀そうだからね。彼らはアンデットじゃなくて人として眠るべきだよ。そうじゃないと報われない」

『そうね』


 ただの同情や自己満足と言ったらそれまでだけど、私がこうすべきだと思ったからこうした。

 後悔はない。

 例えこの後厄介ごとが舞い込んでくる可能性があっても。


「スピカ殿」


 私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ガルスさんかソリストさんか。

 その両方かもしれないし或いは別の人かもしれない。


「スピカ」


 今度はちゃんとわかった。

 ミラの声だ。

 ゴスペルを使っている間に私に近づいてきていたみたい。


「その、大丈夫なんですか?」

「うん。いざとなったらなったらで何とかするし」

「そうですか。わたくしはスピカの判断に従いますわ」


 ミラがそう言ったのは私の身を案じてくれてのことだと思う。

 いくらガルスさんやソリストさんが信用できそうな人だといっても、こんな規格外の魔法を町中で使うことの危険性を分かってくれているんだろうね。

 本当にミラは優しいな。


「スピカ殿」


 と今度はガルスさんに呼ばれた。

 ソリストさんはなんだか悩んでいるようでよくわからない顔をしている。

 仕方ないと思うけど。


「素晴らしい魔法だな」

「まあ、得意なので」

「なるほど、聖女と呼ばれるだけの事はある。部下たちを救ってくれて本当に感謝する。後の事は私たちに任せてくれ。屋敷に戻って休んでいてくれ」

「わかりました」


 魔法の事を言われた時に少しビクッとなったけど、嫌な感じで見られることはなかった。

 やっぱりいい人なんだろうね。

 もういろいろ見せてしまったしこれくらいはいいか。


「その前に少し、瘴気に触れて辛いでしょう。”パージ”」


 ガルスさん、ソリストさん、そして倒れている騎士たちに浄化の回復魔法をかける。

 特に倒れている騎士たちはかなり深刻に瘴気に侵されていたし、ダメージもかなりあったので普通の回復魔法も一緒にかけた。

 気絶したままだけどこれで死ぬことはないだろう。


「ガルスさんも大変だと思うけど頑張ってください」

「ああ、本当に感謝する」


 そう言い残して駆け付けてきた他の騎士たちの元に向かい指揮をとるガルスさん。

 息子であるトリスタンがあんなことをしたことだし。

 本当に大変だろうね。

 でも私たちに言えることはないか。


「いこうミラ」

「ええ」


 とりあえず屋敷に向かう。

 場合によればガルスさんたちと敵対してしまうかもしれない。

 何しろ黒い宝玉の持ち主はトリスタンだ。

 アレは必ず倒さなければならない。

 でも、それはつまりトリスタンと戦うという事だ。

 万が一ガルスさんたちがトリスタンを止めることが出来ないで私たちと敵対してしまったら。

 そうなると嫌だなぁ。


 とにもかくにも明日だね。

 もうトリスタンの居場所はわからないし、ミラも疲れているだろうから今日はもう休んで明日に備えよう。



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