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44 正体

 さて、黒い宝玉探しが始まったわけだけど、夜まではあまりやることがないんだよね。

 やることと言ったらせいぜいが今までの現場を見ることと、死体の検分くらいだ。

 死体を見せてもらったけどこれはなかなかにむごい。

 ギリギリ原型は保っていたけどドロドロに腐り落ちていた。

 なるほど確かに不審死だ。

 こんなの人の死に方じゃない。


「ミラ、本当に見るの?」

「はい」

「無理しなくてもいいんだよ?」

「大丈夫です」


 ミラには見せない方が良いと思ったけど、逆にミラは見ると言ってきかない。

 ミラにはミラの考えがあるのだろう。


「じゃあ気持ち悪くなったら言ってね」


 そう言って体をどかし死体をミラに見せる。


「うっ」


 案の定ミラは顔を青ざめて口を押える。

 しかし、すぐに冥福を祈るように手を組んだ。


「大した女性だな。騎士団の中でも吐く奴は大勢いたのに」

「まったくだよ」


 ちなみにソリストさんには普通に話してもいいと言われたので普通に話している。

 私も調査に加わるにあたって彼は私たちのような子供には危険だと言ってやはり反対されたが、先ほど軽く手合わせしたことによって認められたからかもしれないね。


「俺から言わせればスピカ殿もだがな」

「私はある程度慣れているから。ミラは数か月前まで箱入り娘だったんだけどね」

「そうか。故郷に帰っているんだったな」

「うん」

「帰れるといいな」

「帰るよ必ず」


 そんなことをソリストさんと話していると祈りを終えた帰って来た。


「ミラ大丈夫?」


 そう言いながらミラに軽く回復魔法をかける。

 気休め程度にはなるからね。


「ありがとうございます。覚悟はしていたつもりでしたがお見苦しいところをお見せしました」

「全然そんなことないよ」


 本当に吐きもしなかったんだもん。


「もういいか? さっさとこんな所出よう。夜まで休息を取ると良い」


 ソリストさんの言う通り私たちは夜に備えて休息を取ろうと館へ戻ろうとする。

 帰り道、騎士団の人やらなんやらを見て、町中に入った時からの疑問をふと思い出しソリストさんに聞いてみる。


「ねぇソリストさん、この町やけに剣を持っている人たち多いよね。騎士の人たちも冒険者っぽい人たちもみんな比較的軽装だし」

「ああ、それはな、この町が剣聖の生まれ故郷だからだ」


 ふむ、剣聖とな。


「100年ほど前に剣聖と呼ばれるほどの男がいてな、その方が編み出した天心流が伝えられて以来、この町は女も子供も天心流を皆習う。ここは天心流の総本山という訳だな。むろん俺も天心流を修めている」

「天心流かぁ」

「天心流には7つの奥義があってな、その内の1つでも習得することが出来ればかなりの実力者だな。騎士の中でも習得できてる奴は少ないがな。俺でも今の所2つしか習得できていない」

「なるほどね」

「そう言えば手合わせして思ったが、スピカ殿の動きも天心流に似ているところがあったな」

「え、そうなの?」

「いや、ほんの一部の動きに似ているところがあったからすこし思っただけだ。もしかしたらスピカ殿の故郷にも少し伝わっていたのかもしれないな」


 まあ、そういう事もあるかもしれないね。

 師匠も昔いろいろと旅をしていたみたいだし、天心流を習ったことがあるのかもしれない。


「それにしても剣聖か。あってみたかったな。100年前じゃなきゃ無理だろうけど」

「フッ、そうだな」


 ?

 なんだかソリストさんの笑いに含みがあるように感じた。


 ー▽ー


 そして夜、騎士団はいくつかのチームに分かれ、町中に配置された。

 もちろんそれとは別に警備隊も動かしているようだ。

 住民には外出を控えるようにお触れを出している。

 まあ、そもそも夜に外に出歩くなんていくら町中とはいえ危険だし襲われても文句言えない気がするけどね。

 そして私の仕事と言えば、ソリストさんたちと共に警戒しながら不浄の気配を探知することだ。

 いると分かっていれば方角くらいはわかるかもしれないから集中しないと。


 数日は覚悟しないとと思っていたけど、その時はとても早く来た。


 ーーゾクリ


「ソリストさん!! あっち!!」


 私は探知は得意ではない。

 だけど、今回は不浄の気配がはっきりと感じられた。

 黒い宝玉から不浄の気配が一瞬漏れ出たのではなく、今も使われているからなのかもしれない。


「来たか! スピカ殿案内を頼む」

「任せて!!」


 正確な位置はわからないけど、これだけ強く不浄の気配を感じているとおおざっぱな場所や方角くらいはわかる。

 その気配の元に私たちは急いで向かった。

 幸い大した距離ではないのですぐに着くことが出来た。


「この中から気配を感じる」

「ここは」


 私も驚いたけどソリストさんはもっと驚いている。

 何しろ私が気配を感じている場所は館の中からなのだから。

 正確に言えば館の一角になる騎士団の詰め所だ。


「スピカ殿、ミラ殿、急ぐぞ!!」

「うん」

「はい」


 驚きのあまりに一瞬立ち止まるがすぐさま中に入る。

 向かった先は騎士の訓練所を兼ねた広場。

 そこには多くの腐敗した死体と、ガルスさんと数名の騎士。

 そしてフードで顔を隠した黒ずくめの男だった。


「父上!!」

「ソリストか! それにスピカ殿とミラ殿も」

「これはあいつがやったのか?」


 鋭い眼光をもって黒ずくめの男を見るソリストさん。

 何しろ騎士のものと思われる死体の中心に奴は立っているのだから。

 元々市民を殺害した憎むべき犯人だが、配下である騎士たちを殺されてその気持ちは余計に強くなったのだろう。


「あの人から瘴気を感じるよ。アレが不審死の犯人で間違いない」

「そうか。スピカ殿たちは下がっていてくれ。ここは俺たちが」


 私たちを守るように前に出るソリストさん。

 ガルスさんたちも同じように配置につく。

 確かに彼らが私たちに依頼したのは不審死事件の解決の手伝いで不浄の気配を探知することだけど。

 でもね、


「冗談。私たちも戦うよ」


 そう言って剣を抜く。

 ミラも扇を構えている。


「すまない」

「そういうのは今はいいから。行くよ!!」


 跳躍して空中から振り下ろすように切りつける。

 こんな事隙が多すぎて普段しないけど、今は周りに味方がいるから初手としてちょうどいい。

 本当はここから連撃につなげたいのだけど1本では無理だしね。

 黒ずくめの男はどこからともなく取り出した禍々しい黒い剣ではじいてきた。

 その勢いに身を任せて空中で一回転しながら少し距離を取る。


 それと入れ替わるようにソリストさんとガルスさんが黒ずくめの男に攻撃を加える。

 2人とも鬼気迫る表情で剣を振るうが、黒ずくめの男には届かない。

 2人ともかなり強いはずなんだけど、それほど黒ずくめの男が強いのか。

 それともそれほどに黒い宝玉で強化されているのか。


 それにしても何だろうこの違和感。

 なんか変だ。


 そう思っている内に戦いは動く。

 2人に加勢しようと騎士たちが攻撃を仕掛ける。

 だが、まだ、少し距離があるうちに黒ずくめの男は2人から少し距離を取り剣を腰だめに構えた。

 禍々しい瘴気が剣に集まっていく。

 アレはまずい!!


「みんな避けて!!」


 私が叫んだ瞬間、黒ずくめの男の剣が横なぎに振るわれる。

 瘴気をまとった斬撃は広範囲に蝕み切り裂く。

 直撃した2人の騎士は即死した。

 他の騎士たちは何とか防御するも瘴気に蝕まれて危ない状態だ。

 ソリストさんとガルスさんは何とか回避したが、かなり強引に回避したので体制を崩している。

 瘴気の斬撃は私たちまでは届かなかったがその分ソリストさんやガルスさんとの距離は少し離れている。

 ここからじゃカバーが間に合わない。


「ミラ!」

「わかっています!! ロックジェイル!!」


 ミラが魔法を発動させ、黒ずくめの男の周りを檻のように5本の土柱が囲う。


「そのまま潰れなさい!!」


 そしてそのまま勢いよく土柱が黒ずくめの男を潰さんする。

 しかし、次の瞬間には土柱がバラバラに切り裂かれていた。

 強度も相当だろうに何という。

 だけどおかげで黒ずくめの男の間合いまで接近出来た。


「ていやっ」


 右手で逆手で持った剣を振るう。

 当然のように防がれるが本命はそれじゃない。

 あんまり人のいるところで使いたくなかったけど仕方ない。


「ヒールブラスター」


 手のひらを黒ずくめの男に向け、癒しの魔力を放出した。

 至近距離からの癒しの魔力。

 回復魔法みたいに形態化されていないものだし回復魔撃とでもいう一撃。

 これには流石の黒ずくめの男も直撃した。

 常人なら軽く過剰回復で死んでるはずだけど。


「ぐぅぅ」


 忌々しそうな声をあげながらよろめいただけであった。

 それを見て、私は体を回転させ右手の剣で切り上げる。

 しかし残念ながら距離を取られてしまった。

 一応、顔にかすらせることはできた。

 剣に癒しの魔力も載せていたしダメージを与えることはできただろう。


 そうダメージである。

 過剰回復ではなくアンデットに対するのと同じような手ごたえがあった。

 おそらく黒い宝玉とかなり結びついているのだろうね。


「きっさまぁ」


 黒ずくめの男は顔を手で押さえながら忌々しそうに私を睨みつける。

 先ほどの私の攻撃の衝動でフードが外れたため、例え傷を手で押さえていても表情は丸わかりだ。

 それにしても、思ったよりも人だった。

 ここまで黒い宝玉と結びついているとどうなっているかわからなかったからね。

 ただ、なんか見たことがあるような。


「お前は!!」


 後ろからガルスさんの声が聞こえる。

 知っている人なんだろうか。


「何故お前が」


 横ではソリストさんがわなわなと震えながら信じられないような光景を見たような表情をしている。


「クックックック」


 それを見て黒ずくめの男は嗤う。


「どういうことだトリスタン!!」


 ガルスさんは怒りの感情をこめて自らの息子の名前を叫んだ。




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