表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/78

41 なんだか疲れた

「これはこれは聖女殿に魔女殿。ようこそいらしてくれた」


 そう言って私たちを出迎えてくれたのは40代くらいの男性だ。

 部屋のなかにもかかわらず鎧を身にまとっており、もし何かあればすぐにでも戦場に駆け付けることが出来る恰好だ。

 オークの殲滅には成功したとはいえ、まだ警戒しているという事だろうね。


「まあ、あなたが領主様だったのですね」

「あれ、ミラ知り合いなの?」

「ええ。先の防衛戦で指揮をとっていた方です。その時に少しお話いたしました」


 なるほどね。

 自ら前線に立って指揮をとるなんてやるねこの人。

 いい意味で貴族らしい人みたい。

 私の知っている貴族なんて町にオークが攻め込んできて勝つ見込みがない場合は絶対に自分だけは逃げようとする人たちだもんね。

 なのにこの人は町の住民を見捨てないで自ら指揮をとった。

 うん、信用してもいい人だと思う。

 私に対するいやらしさとかも感じないし。


「この節は本当に感謝する。魔女殿のお力のおかげでこの町を蹂躙しようとするオークどもを殲滅することができた。また、聖女殿のお力もこの耳に及んでいる。お二方がいなければこの町は見るも無残な姿になっていたことだろう。この町を代表して申し上げる。本当にありがとう」


 そう言って頭を下げる領主様を見て、本当に素晴らしい人格の持ち主だと思った。

 こういう人ばかりなら私もいろいろと警戒しないですむんだけど。


「いえ、旅の途中たまたまオークの姿が見えたので。間に合ってよかったです」

「旅とな?」

「はい。訳あって大陸の東の端まで旅をしているのです」

「東の端。なんと過酷な」

「そこでとりあえず東北にあるというリゲルというところに向かっている最中です」

「リゲルか」


 領主様は難しい顔をしている。


「何か問題でも?」

「うむ。リゲルには今不穏なうわさがあってな」

「噂?」

「どうもあそこで夜な夜な不審死が続いているらしい」

「......それは物騒ですね」

「うむ。この町の恩人としてはそのような危険なところには行って欲しくないものだ」


 と言っても今の所アルデバラン王国に向かうルートとしてわかっているのはリゲルに向かうことだし。


「うーん、じゃあアルデバラン王国って知っていますか?」

「いや、聞いたことがないな」


 以前と同じように知りうる限りの国名を聞いてみたけどだめだった。

 シェダル王国自体私が伝聞でなんとか聞いたことがある国だからね。

 一番遠い国だが場所は大陸の端という事以外把握していないし思ったよりも遠いのかも。


「となるとやっぱりリゲルに行かないとダメみたいだね」

「向かうのか?」


 一応ミラを見る。

 するとミラは私の目を見て頷いた。

 うん、決まりだね。


「はい。行きます」

「わかった。ならば止めまい。だが、この町を救った礼はさせてくれ。リゲルの領主に手紙を書こう。領主の元なら安全のはずだ」

「ありがとうございます」

「あとは旅に必要な物もそろえておこう。必要な物があれば屋敷の者に言ってくれ」

「はい。なにからなにまでありがとうございます」

「なに、この町を救ってくれたお礼だ。これくらいお安い御用だ」


 という感じで領主様との会談は終わった。

 そして次の日。


「聖女様ーー!! 魔女様ーーー!! ありがとうございます!!」

「ありがとう!!」

「いつでもいらしてください!!」


 などと住民に見送られながら私たちはこの地を去った。


「良かったですわねスピカ」

「うん」

「町を救う事も出来ましたし、いっぱいもらえましたし」

「うん」

「ユニコの馬具も馬車もいただきましたし乗りやすくなりましたね」

「うん」

「......スピカ、どうしましたの? 朝から元気がありませんでしたし」

「ごめん。ちょっと休憩させてもらえるかな」


 どうやら張りつめていた糸が切れたみたい。


「メーティス、後は任せた」


 そう言ってメーティスを顕現させ、私は馬車の中に入った。


 ー▽ー


「スピカは大丈夫でしょうか」

『しばらくすれば治るんじゃないかしら』


 スピカが馬車の中に入り、ミラはユニコを走らせる。

 ミラには馬車の操り方なんてわからないが、ユニコはとても賢いのでできるだけ馬車を揺らさないように走ってくれる。

 そんなことよりもミラはスピカが心配であった。

 町を出てからスピカの様子が変で、つい先ほど休憩すると言って馬車の中に入ってしまったのだ。

 あの元気なスピカが。


「どうしたのでしょうか」

『だぶんだけど緊張の糸が切れたんじゃないかしら』

「緊張の糸?」

『ええ。スピカの回復魔法のすごさは知っているでしょ?』

「はい」

『あれほどの回復魔法が使えるならあの町のように聖女さまとして崇められてもいいと思わない? それこそミラの耳にも届いてもいいくらい』


 確かにとミラは思う。


『でも彼女は力を隠していた。力が知られれば余計に狙われるから。利用されるから。幼いころに私がそうするように言ったのだけれど、賢いあの子はちゃんと理解してくれたわ。もっとも、さりげなく怪我をしている子を治してあげたり、不治の病にかかった女の子を癒してあげたりしていたんだけどね』


 優しすぎるスピカは力を隠そうとしてもその力で誰かを救ってきたのだ。


『それで今回のスピカの様子なんだけど、大勢に力を見せてしまったことが原因ね。知らない土地で旅をしているのだから最悪逃げればいいやと思ってそれこそ聖女さまと呼ばれるくらいに力を使ってけど、今までが今までだったから変な形で周りを警戒したりしてストレスがたまったんだと思うわ。それで町を出て緊張の糸が切れたんだと思うわ』

「つまりスピカは緊張の糸が切れたことによる精神的な疲れが原因で休憩していると?」

『その通りよ。だから少し休憩すればすぐに復活するわ。こればかりは回復魔法じゃどうにもならないからね』

「スピカ」

『これからもこんなことが起きるかもしれない。その時はスピカの事よろしくね頼むわミラ』

「はい、もちろんです!!」


 スピカだって万能じゃない。

 自分だって力を得た。

 守られるだけじゃなく、私もスピカを守ろう。

 そう決意したミラであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ