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39 癒しの聖女

「ミラは大丈夫かな」


 外をミラに任せたはいいものも、やっぱり心配になってしまう。


『大丈夫よ。彼女強くなったもの。スピカが一番わかってるでしょ』


 まあ、そうなんだけど。

 この短期間であんなに強くなるとは思いもしなかった。

 大魔導士と言ってもいいレベルになっていると思う。

 しかもまだ成長途中っていうところが恐ろしいね。

 ただ、やっぱり実戦経験に乏しいから心配。

 せいぜい修行中に何度か結界の外で魔物の相手をさせていたくらいだもんね。


「きゃああああああ!!」


 む、悲鳴。


『ミラなら心配ないから。あなたは今やるべきことをやりなさい』

「だね!」


 外はミラに任せて私は町の人たちを救う。

 そう決めたんだ。

 悲鳴の元に向かうとそこには看護師のような恰好をした女の人と、その人に抱きしめられるように守られている小さな女の子。

 そしてこん棒をもった大きな二息歩行する豚。

 オークだ。

 オークは醜悪な顔をこれまた醜悪に歪ませながら腕を振るいあげた。


「危ない!!」


 それを見て慌てて飛び込むが、このままじゃ間に合わない。

 仕方ないね。

 女性とオークとの間に割り込んで腕をクロスさせる。

 そして振り下ろされたこん棒の衝撃を自らをクッションにしつつ利用して後ろにいる女性と女の子と一緒に吹き飛ぶ。


 ーーーバキバキバキ


「ぐぅぅ」


 女性と女の子の距離をとる事には成功した。

 しかしその代償に私の両腕はぐちゃぐちゃだ。


「いったいな!!」


 でも、そんなことは気にせずに体制を整えてオークに蹴りを入れる。

 それと同時に回復魔法を打ち込む。

 過剰に回復魔法を打ち込まれたオークはその場で絶命して倒れた。

 本来、過剰回復は人前ではあまり見せたくないし実戦でも使う気はなかったが、オークの分厚い脂肪は私じゃ斬るのに苦労する。

 それにふつうは過剰回復で敵を倒すなんてことは見ても分からないはずなので、今回は過剰回復を使って倒した。


「ふう。大丈夫?」

「あ、ありがとうございます。ごめんなさい。私のせいで腕が」

「ああ、これは大丈夫。治る」


 ぐちゃぐちゃの腕に回復魔法をかけて元に戻す。


「すごい!!」

「それにしてもなんでこんな時に外に出てんの?」


 戦えもしないのにこんなオークが町中に侵入してるしているときに外にでるなんて信じられない。


「それが、領主様の館で負傷者を一か所に集めて治療を行っていたのですが、薬が切れてしまって。それで病院に取りに行ったのですが途中この子を見つたんです。ついでにオークにも見つかってしまったんですが。あはは」


 笑いごとじゃないでしょうに。

 でもすごいねこの人。

 戦えないのに人のために命を張るなんて。

 素直に尊敬する。


「よし。なら私をそこに連れて行って」

「え、でもまだ薬が」

「そんなもんいらないから。ほら時間がないでしょ。行くよ行くよ!!」



 ー▽ー


「おい! 薬はどこだ!!」

「もうありません!!」

「回復魔導士は!?」

「魔力切れで倒れています!!」


 人々の怒号が響き渡る。

 ここは彼らにとっての戦場だ。

 突然侵攻してきたオークによって負傷した兵や一般人の治療を行っている。

 彼らによる治療で確かに命をつないでいる人たちもいる。

 しかし、負傷者の数があまりにも多かった。


 未だに響き渡るうめき声。

 医者も、回復魔導士もあまりにも負傷者に対して数が足りない。

 そしてとうとう薬も切れてしまった。

 一人の勇敢な看護師が薬を取りに行ったが一向に戻ってこない。

 もしかしたらオークに見つかって。


 治療の手段がなくなり、誰しもがあきらめかけた時、奇跡は起こった。


「ただいま戻りました!!」


 件の勇敢な看護師が戻って来たのだ。


「おお! 戻ってきてくれたか!! 薬は!?」

「薬はございません」

「なんだと!!?」


 医者は薬がないと聞き咄嗟に怒鳴りそうになるが、無理もないと思いとどまる。

 オークが徘徊する町で生きて戻って来ただけでもむしろ奇跡なのだ。

 むしろ良く帰って来たものだ。


「ですがもっとすごい人を連れてきました!!」

「すごい人?」


 そう言うと看護師の影からひょっこりと白い少女が現れた。


「どうもすごい人です」

「スピカさん、お願いします!!」

「わかった」


 スピカが頷くと次の瞬間奇跡が起きた。

 この場にいる全員に向かって広域回復魔法が放たれたのだ。

 そして次の瞬間、うめき声は消え失せ、患者が起き始めたのだ。


「あれ? 痛くない」

「治ってる?」

「死んでない?」


 起き上がった患者たちは奇跡を実感した。

 先ほどまで致命傷で死にかけていたのだ。

 それが一瞬で治った。

 奇跡と思っても仕方ない。


「みんなアレを!!」


 そして一人の患者が奇跡の正体に気づく。

 先ほどの奇跡の回復魔法を放ったスピカに。


「彼女が俺たちに回復魔法をかけてくれたんだ!!」

「そんな」

「うそ」

「本当か!!」


 その場にいる全員がスピカを見る。

 スピカは可憐で美しく、そして儚げだ。

 弱々しい外見から、戦うとなると信じられないように思うが、逆に、人を癒す様は非常に似合う。

 そんなスピカを見て皆が思うことは一致した。


「聖女さまだ」

「聖女さまが俺たちを助けてくれてぞ!!」

「うおおおお!! 聖女さま!!」

「聖女さま!!」

「聖女さま!!」


 聖女さまコールが響き渡る。

 そしてその聖女であるスピカは、


「あれ、どうしてこうなった」


 と首を傾げながら顔を引きつっていた。



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