33 鮮血の淑女会
「おいおい嬢ちゃん何言ってんだ。そこはあぶねえからどきな」
「どかないよ。あなたたちはこの子達を襲うのでしょ? わたしはそんなことさせないもの」
「そうか、だったらしゃーねーな」
荒々しい見た目の男はため息をつきながら武器を抜いた。
「力ずくでどかさせてもらおう」
はあ。
やっぱりこうなるか。
私、威圧とか威嚇って絶望的に向いていないんだよね。
見るからに弱そうだし、攻撃的な気とか一切ないらしいし。
いや、まあおかげで大抵の相手は油断してくれるからいいんだけどさ。
「待て待て待て」
いざ、荒らしい男が私に襲い掛かろうとした瞬間、別の男が荒々しい見た目の男を止めた。
「なんだ邪魔するな」
「お前はバカか。なに殺そうとしているんだ」
いっけん私を擁護するような言葉に聞こえるけど。
まあ、人を捨て駒にしてここまでやってくるような連中だしね。
「見ろ、あの外見。まだ幼いがかなりの上玉だぜ。殺すなんてとんでもねえ」
つまりこういうことだよね。
ほんと、こういうのばっか。
「俺は金さえあればいい」
「だからあいつは俺たちに任せろって」
「はあ、これじゃ盗賊と変わりないね」
まあ冒険者も千差万別だからね。
ちゃんといい人もいる。
私みたいにね。
「さてと、あなた達覚悟はいい?」
「覚悟はするのは嬢ちゃんだ。これから怖い目にあうからな!」
私に飛びかかる男。
掌を向け、照準を合わせて回復魔法を放つ。
常軌を逸した回復力を持つ魔法を。
結果、男はその場に倒れた。
「は?」
「全力できなよ。でないと簡単に終わっちゃうよ?」
10人。
今一人倒したし残り9人か。
まだ増援が来るかもしれないけど、これなら大丈夫かな。
さて、どうやって倒そうか。
今みたいに過剰回復で倒してもいいけど、クリアオーラみたいな全体魔法は使えないしね。
防御壁があるとはいえ後ろにミラとユニコーンたちがいるし。
巻き込んでしまうかもしれない。
特にユニケルさんは出産中だから、攻撃用の回復魔法で変な影響を出してしまう訳にはいかない。
だったら使えるのは前方に放つ単発系か放出系の魔法か。
んーでも、ここは魔法を使うのをやめておこう。
他の動物とか植物に当たってしまっても過剰回復で殺してしまうし。
こんなに美しい聖域なのに壊してしまうのはね。
それに、片手だけでの戦いにも慣れておきたいしね。
剣が一振りないから二刀流は使えない。
でも、これから先、今みたいに戦いがないってことはないかもしれない。
その時に一刀じゃ戦えませんじゃ話にならないしね。
黒い宝玉のこともある。
今までに二回あの不浄の化け物に出会ったし、もしかしたらまた出会うかもしれない。
となると、剣での過剰回復が一番いいかな。
血で汚れることもないし。
「こいつ、魔法使いか?」
「いんや」
そうと決まればと一番近くにいた男の元に向かう。
「私は一応剣士だよ」
そして無防備な胴体を剣で切り裂く。
しかし、その胴体から血が流れることはなかった。
それでも男は地面に倒れた。
一応切りはしたけど、斬ると同時に傷口も塞いでいるしね。
外傷はないよ。
過剰回復しているけど。
「なんだこいつは!?」
荒々しい男が叫ぶ。
困惑しているけどちゃんと臨戦態勢に入った。
「お前ら、油断するな! こいつはただのガキじゃない」
さらに荒々しい男の号令によって他の冒険者も構える。
油断によるボーナスタイムは終わったかな。
まあ、でも指揮者さえ倒せばたぶん大丈夫。
そして指揮者は恐らくこの男だ。
「バラバラに相手するな。一斉にッッ!!」
だから面倒な指示を出される前に倒す!
ーーガガガガガガガ!!!
剣戟が続く。
強いね。
速攻で倒そうと思ったのに決めきれない。
二刀だったら。
いや、こういう時のために一刀でも戦えるようにならないと。
よし。
「フッ」
右手を振り下ろす。
しかし、それは男の剣に当たることなく空を切った。
当然だ。
何しろ私の右手には剣がないからだ。
「なっ!?」
はい、隙あり。
こっそり左手に持ち替えていた剣を振るう。
男の剣に阻まれることなく私の剣は胴体を切り裂いた。
まあ、外傷はないけどね。
「そんな、リーダーがやられた!」
やっぱりこの人が指揮者だったか。
だけど、倒した今こいつらはもはや有象無象のはず。
「クソがーーー!! あいつは何処にいる!? 高い金払って雇ったっていうのに!!」
「はいはーい。ここだよ」
「え?」
と思っていた時に突如聞こえてきた女の声。
それと同時に目の前からダガーが迫って来るのが見えた。
「っと」
何とか体を捻って避ける。
そしてそのまま体を一回転させて剣を振るうが避けられてしまった。
何この女。
めちゃくちゃ速い。
「てめー!! 高い金で雇ったってのにどこほっつき歩いていたんだ!」
距離をとって奴らの元にいった女を男は怒鳴る。
「ごめんねごめん。休憩しててちょっと遅れた。でも、全滅する前に来たんだしいいでしょ?」
「いい事あるか!! リーダーがやられたんだぞ!!」
「そんなの知らないよ。結界を破って疲れている私を置いていったあんたたちが悪いでしょ。自業自得」
そうか。
結界を破ったのはこの女か。
いくら出産で不安定とはいえあんな結界をそう易々とは解けないはず。
この女、かなりの手練れだね。
「クソが!! ...まあいい。ちゃんと働けよ」
ふざけるなとでもいいそうな気配だったにもかかわらず、男は女を許した。
たぶん、男は女を恐れているからだ。
聞く限り金で雇った身なんだろうけど、女は男よりも遥かに強い。
だから怒らせたくなかったんだろうね。
「で、状況がいまいち掴めないのだけど、あの女の子は敵?」
「ああ、めちゃくちゃ強えー。」
「はいはーい」
飄々と軽い感じに返事をする女。
だけど、全然油断している様子はない。
「あなたは何者?」
嫌な予感がする。
そもそもあんなスピードで攻撃してきたのだ。
警戒しないわけがない。
「私は鮮血の淑女会が一人、雌羊のアリエス」
「は?」
「えっ、もっと反応とかないの? あの鮮血の淑女会だって!? とかって!」
そんな時、自身の存在について問われたアリエスは待ってましたとばかりに格好をつけて自己紹介をする。
いや、そんなこと言われても。
ていうか名前めっちゃダサい。
「だって知らないし」
「知らない、だって? あの鮮血の淑女会よ! たった六名の女のみで構成された伝説クラスの傭兵団よ!? 六名のみで一個旅団の戦闘能力を誇るというあの鮮血の淑女会よ!?」
「ごめん知らない」
だって、大陸の反対側からやって来たんだし。
この辺りの国の名前すらほとんど知らないんだから伝説クラスっていっても傭兵団の名前なんて知るよしもないもん。
「そう、だったらわからせてあげる。私たちの存在を!!」
そう言い残すと、女は消えるようなスピードで襲い掛かって来た。




