32 泉の守護者
「今日はここで寝ようか」
集まってきたユニコーンの子供達の対処と治療をひと段落終えた私はそう切り出した。
「まだ日は高いですわよ?」
「そうだけど、数時間もすれば日が暮れるからね。それなら明日朝早くから移動を開始した方がいいよ。ここなら下手な場所で野宿するよりも安全だし。最初からハイペースだとね。それにミラ疲れたでしょ?」
墜落したりユニコーンの子供達に囲まれたりとした為、箱入り娘であったミラの体力はかなり消耗しているのだ。
仮にすぐに出発しようものならすぐに疲れはててしまうと思う。
「と言うわけでここで野宿しようと思うんだけどいいかなユニコーンさん?」
「ユニコーンだと不便であろう。私の事はユニケルと呼ぶがいい」
あ、この方名前があったんだ。
まあ、しゃべるくらいだしね。
「わかった。私はスピカだよ。よろしくユニケルさん」
「私はミラですわ」
「うむ、スピカにミラだな。それで、ここは我らの縄張りではあるが、我らだけの縄張りではない。好きにするとよい」
ユニケルさんが言う通り、周囲にはユニコーンが目立っているけど、リスとかの小動物もそこそこいる。
綺麗な泉の周りだし、ここは動物達の憩いの場でもあるみたい。
「ただ最近何者かがこの辺りをうろついていてな」
「何者かって人?」
「おそらくは。もしかしたら悪意のある者かもしれん。この付近にいる間は気をつけるのだぞ」
「了解。ありがとうね」
こうして私たちはユニコーン達のいるこの泉の側で休む事になった。
ー▽ー
夜、不思議と目が覚めた。
「むう。まだ暗い」
もうひと眠りしようと思ったけど、残念ながら目が覚めてしまった。
隣ではミラがユニコーンの子供たちと一緒になって寝ている。
あの宿よりも快適そう。
「どうしようかな」
『散歩でもしてくれば?』
「そうだね」
こんな森の中にミラを置いていくなんてと思うかもしれないけど、ユニケルさんが言うにはこの辺りには結界が張っていて悪意あるものは中に入ることが出来ないらしい。
だから問題はないのだ。
それにそんなに遠くに行くつもりもないし。
という事でちょっと泉の周りを歩いてみる。
泉は月明かりに照らされてとても幻想的だ。
周りの気も清純だし、ここにいるととても落ち着く。
お、ユニケルさん発見。
まだ起きていたんだ。
聞きたいこともあるし行こうかな。
「ユニケルさん」
「む。スピカか。まだ起きておったのか」
「あはは、さっき目覚めたところ。ユニケルさんは?」
「私は眠れなくてな」
まあ、それも仕方ないかもね。
「やっぱりお腹の子?」
「気づいておったのか」
まあね。
一応命には敏感だし。
それに、
「もうすぐ生まれそうでな。そう思うと眠れぬ」
やっぱり。
「まあ、数えきれないくらい生んでいるから問題はない。それよりお主に聞きたいことがあったのだ」
「なに?」
「お主、精霊の巫女じゃな?」
「え、わかるの!?」
見せてもいないのにメーティスに気づく存在なんて初めて会った。
「うむ。以前にも精霊の巫女に出会ったことがあるしな。なんとなくわかる」
「へぇー、すごいね。だったら、出ておいでメーティス」
隠していても意味がないのでメーティスを顕現させる。
『こんばんわユニケルさん。私はメーティス。スピカと共にいる精霊よ』
「ほう、これは驚いた。精霊を具現化させるとは。相当な魔力と精密な魔力操作は必要だろうに」
一目見ただけでそこまでわかるとか。
ユニケルさんってすごいよね。
そう言えば、結界もユニケルさんが構築しているんだっけ。
何て事をメーティスを加えて3人で話していると、
「む、これは来たか」
「ユニケルさん?」
ユニケルさんはゆっくりと横になった。
「どうやら生まれようとしているようだ」
「本当!?」
もうすぐだとは思っていたけど、思っていたよりも結構早い。
「うむ、まあ、私も慣れたものだ。何も心配は......」
そこでユニケルさんの言葉が止まった。
そして、
「し、しまった!! 結界が!?」
「え、どうしたの?」
「スピカよ、よく聞け。今から子供たちを起こしてここに連れて来てくれ。結界が破られてしまった」
結界ってアレだよね。
悪意あるものの侵入を拒むっていうやつ。
それが破られたってことは。
恐らく意図的に悪意ある何かが結界を破ったのだ。
ユニケルさんの出産の隙に乗じて。
「ミラが危ない!!」
つまり、悪意あるものがこの結界の中に来ているってことだ。
早くミラの所に行かないと。
急いでミラの所に行く。
幸いそんなに距離はない。
そして、ミラもユニコーンの子供たちも無事であった。
「みんな起きて!!」
全員叩き起こす。
緊急事態だと気づいていないユニコーンの子供たちはのそのそと起き始める。
「むう、なんですの?」
ミラもそんな感じだった。
「説明は後! みんな私についてきて!!」
なんだかんだで子供たちは素直でちゃんと私について来てくれた。
言葉も理解しているようで助かる。
「連れてきたよ!」
「おお、ありがとうスピカよ」
戻って来た時にはユニケルさんは息が荒く苦しそうだった。
「みな、私の近くに集まれ。スピカとミラもだ」
「どうするの?」
「防御壁を作る。今の私には侵入者を撃退することはできないからな。他のユニコーンに侵入者を撃退させにいっているが、万が一があるからな。だから出産が終わるまでここで耐える」
なるほどね。
だから私たちを一か所に集めたのか。
「だったらミラだけお願い。私は外でここを守っているよ」
「良いのか?」
「うん。これでも私、強いからね」
ミラを守るためってのもあるけど、ユニコーンたちも守りたいからね。
出産しているんじゃ防御壁もやぶられるかもしれないし。
だったら私が守った方がいい。
「スピカ...」
「私なら大丈夫だよ。ミラはユニケルさんと子供たちを見ていてあげて」
「...わかりましたわ」
ミラが一瞬悔しそうな顔をする。
うーん、これが終わったら頼んでみるかな。
「よし、じゃあ、お願い」
「うむ、スピカよ、頼んだぞ」
そう言ってユニケルさんは泉を背に防御壁を構築した。
地面から木の根が生えて、絡まって作られた壁だ。
でも十分な防御能力を備えているみたい。
ただ、ユニケルさんの状態を見るにいつ不安定になってもおかしくないな。
無理をすれば赤ちゃんにも影響が出るだろうし。
私が外に出てよかった。
そして、いつ敵が来てもいいように防御壁を背にして待っていると、案の定敵さんがやって来てしまった。
「なんでここに女がいる?」
木々の隙間から現れたのは人。
1人や2人じゃない。
何人もいる。
たぶんこういう事かな。
ユニコーンは希少な存在。
幻獣って言われるくらいである。
つまり価値があるのだ。
その素材に。
特にツノなんかは薬や芸術品としての価値が非常に高いらしいからね。
一本売れば一生遊んで暮らせるんじゃないかな
となると、手に入れたいと思う人がいる訳で。
それがこいつらってことか。
たぶん他にもいるね。
いや、ユニケルさんは他のユニコーンを侵入者の撃退に向かわせたって言っていたし、そいつらを囮にしてこっちに来たんじゃないかな。
ユニコーンを倒したにしては誰も傷がないし早すぎる。
それで、敵わない大人を相手するんじゃなくて、弱い子供を狩ると。
まあいい。
「さて、あなたたちの目的はだいたいわかる」
たぶんこの人たち冒険者。
私自身冒険者だし、魔物も数え切らないくらい殺してきた。
これも自然の摂理だから否定はしない。
けど、私はユニコーンたちと仲良くなってしまった。
彼らを見殺しにはできない。
「最初に警告してあげる。このまま帰るなら見逃してあげる。そうしないならここで殺す」
相手が、味方を囮に使う薄汚い冒険者なら私はユニコーンの方をとる。
これで向かってくるなら殺されても仕方ないよね?




