31 不時着
「んー、あれは?」
「どうしましたの?」
「なんか見えるなーって」
今は森林地帯の真上にいるんだけど、前方に黒い影が見えたんだよね。
「どこですか?」
「ほらあそこ」
「あ、見えました。なんでしょうねあれは」
うーん、なんか嫌な予感がするんだよね。
「どんどん大きくなっていってません?」
確かにどんどん大きくなっていっているね。
いや、違う。
こっちに近づいてきているんだ。
『ってあれはドレイクの群れよ!!』
メーティスが叫ぶ。
ドレイクとは、竜族に似た形をしているが、彼らと違って知性のない魔物だ。
つまり、竜型の魔物である。
リュウモドキともいう。
竜族とは違う。
なんて考えている場合じゃないね!
『このままじゃぶつかるわよ!!』
「でもこんなにスピードだして飛んでたら軌道修正なんてできないよ!!」
『何とかしなさい!』
無茶を言う。
「ミラ! 私にしっかりと掴まっていてね!!」
「は、はい!!」
私に掴まるミラの力が強まるのを感じる。
これだけスピードを出していたら急には止まれないし、方向も転換できない。
できないこともないけど、確実にミラが投げ飛ばされる。
何とか下に行くしかないね。
もう時間もない。
ドレイクの群れも迫ってきている。
「ぐぐぐぐ」
少しでも下に行こうとする。
その甲斐あってか何とかドレイクの群れにぶつからずに済んだ。
けど。
「やばい、制御失った。これ、墜落する」
「え?」
経験からわかる。
これ、落ちる奴だ。
「やばいやばいやばいやばいやばい落ちる落ちる落ちるううわああああああああああああああ!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫しながらも何とか体制を立て直そうしたけど、抵抗虚しく私たちは森林地帯に落下したのであった。
ー▽ー
「うぅ、痛たた。ミラ、大丈夫?」
落下した私たちだけど、多少抵抗に成功した事と木がクッションになった事によりなんとか地面に降り立つ事ができた。
降り立つと言うよりは完全に落下だけど。
「ええ、大丈夫ですわ」
私をさらにクッションにしたミラも無事であった。
全ての衝撃を私が負ったおかげだ。
代わりに私の内臓は破裂したけど問題はない。
とっても痛いくらいだし。
「もう、二度と空は飛びたくありませんわ」
ごめんなさい。
いや、まさか墜落するとは思ってなかった。
誰かを抱えて空を飛ぶなんて慣れないことをするもんじゃないね。
「あと、何回か空を飛んで行こうと思っていたんだけど」
「勘弁してくださいまし」
まあ、また何かにぶつかって墜落するかもしれないしね。
陸の方が安全かなあ。
その時、複数の馬の鳴き声が聞こえてた。
その声がする前方を見るとそこには、幻想的な湖と一本角が生えた複数の馬がいた。
「ユニコーン?」
ユニコーンは観測例がとても少ない超希少な幻獣種である。
それが、目の前に何頭もいるのだ。
初めて見た。
って、あれ?
「あ、ミラ、降りて!!」
「どうしましたの?」
「落下した時、何頭か巻き込んでる!!」
「ええ!?」
たぶんさっき何頭か轢いてしまった。
たしかにいろいろぶつけた感触はあったけど。
「ごめんなさい。今、治すね」
死んではないものの、落下時の体当りで倒れているユニコーン達に急いで回復魔法をかける。
「これでよしと。誰も死んでなくてよかった」
「よかったではないぞ小娘よ」
まだ治療していない倒れていた内の一頭がむくりと起き上がり、言葉を放った。
「え、喋れるの?」
「うむ。私も長生きしているからな。このくらいわけもない」
そのユニコーンは、群れの中でも一際大きく、不思議な存在感を放つ者だった。
「お主は竜ぞ......人......まあいい。して、少女たちよ。この地にいきなり突撃してくるとはいったい何ようか?」
「あははは、えっとね。私たち、旅をしていてね。それで空を飛んでいたんだけど途中でバランスを崩してね。そのまま墜落してしまったんです。はい」
あーどうしよう。
まずいなあ。
何しろ事故とはいえこちらは加害者だ。
死人が出なかったし、怪我も自分で治したとはいえ気まずくもなる。
「ふむ、なるほど。それは災難だったなと言うべきか。まあ、幸いこちらに死者はおらんし怪我も治してもらった。突撃してきた事は許そう」
「ありがとうございます」
ホッ、よかった。
何しろユニコーンはその希少性もさることながら驚異の戦闘力を誇るらしいし。
もし、暴れられでもしたら自分はともかくミラが危険だしね。
しかし、このユニコーンは理性的であり寛大だった。
ごめんなさいすればきちんと許してくれる大人なユニコーンとは。
きっと良いユニコーンだね。
「迷惑ついでにいくつかいいかな?」
「何かね?」
「私達、旅をしているって言ったけど、アルデバラン王国に行きたいの」
「アルデバラン王国とな」
「しってるの?」
「うむ。私も昔は旅をして世界中を回ったものだ。当然アルデバラン王国にも寄ったことがある』
「だったら大まかでいいからルートはわかる?」
「うむ」
やった。
アルデバランへは方角しかわからなかし、ここで大まかでもルートが聞けるのは助かる。
情報を地道に集めないと行かないと思っていたからね。
それに、人竜形態になってひとっ飛びすれば楽だけど、ミラに拒否されたし陸路で旅するつもりだったからね。
「今、ここは人でいうゲンマ王国だ。まずは東に向かってリゲルという港町に向かうといい。そこから東の大陸に渡り、北東に向かえば霊樹がある。確かエルフがその元で暮らしていたはずだ。そこから南東に行けばアルデバラン王国のはずだ。すまぬがその他の道中の国の名前は知らん」
「ううん。十分だよ。ありがとう」
「ヒヒーン」
聞きたい事が聞けたその時、一頭のユニコーンが私の側にすり寄ってきた。
「わっ、おっきいね。よしよし」
そのユニコーンは今話しているユニコーンさんほどではないが、他のユニコーンよりも一回り大きく、私が撫でると嬉しそうに嘶いた。
「ふむ。好かれたようだな」
「そんなにすぐに好かれるようなものなの?」
「我らユニコーンは清純な気を好む。お主達の気は我らにとってとても心地よいものなのだ」
どうやら私から漏れ出す癒しの気配が第一印象を良くしてくれたようだ。
空から突然自分たちの安寧の地に突撃した上に、治療したとはいえ怪我まで負わした相手にここまで親切になるのもそのお陰かもね。
「うう、いいですわねスピカ」
「ミラも撫でたらいいじゃない」
「だ、大丈夫ですの?」
「大丈夫だよほら」
ミラの手をとって、ユニコーンの首筋を撫でさせる。
ユニコーンは不機嫌になるでもなく気持ちよさそうにしている。
ちゃんとミラも好かれているみたい。
「おや、いっぱい集まってきたね」
その様子を見た他のユニコーン達は私達を無害だと判断したのかだんだんと集まってきた。
「あわわわ。どうしましょうスピカ?」
「これは子供達かな?」
「うむ。ちなみにその子もまだ子供だ」
「えっ、そうなの?」
「赤ん坊の時から大きくてな。でも体は大きくてもやんちゃ者だ。子供達の中でも特に好奇心が強い」
ユニコーンの子供達が集まってきて慌てているミラを眺めながらそんなことを話していた。




