28 精霊顕現
突如現れた妖精のような女の子にミラは目をみはっている。
「えっ、ス、スピカ? このこは?」
「このこはメーティス。私に宿っている精霊だよ」
「せ、精霊!?」
「ミラ、声大きい!」
ミラは思わずと言った感じに大きな声を出してしまっていた。
無理もないかな、精霊とはおとぎ話だけの存在だと思っていただろうし。
そんなのが実際に目の前に現れたら驚きもするでしょう。
私も迂闊だったな。
「ご、ごめんなさい。それで、スピカは精霊の巫女ですの?」
「うん」
精霊の巫女とは、精霊を宿した存在の事である。
おとぎ話では、私のような者は精霊の巫女と呼ばれていた。
ちなみに、男なら精霊の神子だ。
『ま、精霊なんて宿している本人以外には普通感じられないからね。自己申告しなければ精霊の巫女かなんてわからないし。おとぎ話の中だけの存在と思われても仕方がないわ』
メーティスの言う通り、精霊は目に見えないのだ。
だから、大半の人が架空の存在だと思っているはず。
『それで、私はこうしてスピカの魔力で具現化する事に成功しているからこうして精霊の証明に成功する事が出来ているってわけ。もっとも、この姿を見たのはミラで4人目だけどね』
一人目はもちろん、実体化させた本人である私だ。
二人目はアントン。
三人目は師匠。
そして、ミラが四人目だ。
「そう、なのですの? どうして皆様に見せないのですか?」
とりあえず、メーティスを精霊と認識したミラだけど、自身でまだ四人目だという事に疑問を持ったみたい。
まあ、メーティスが実体化した以上、私が精霊の巫女であると証明する事ができる。
おとぎ話に出てくるような存在なのだ。
もし、公表すれば、大事に扱ってくれるかもね。
でもまあ。
「冗談じゃない。ただでさえ狙われるのに、そんな事したら余計に狙われるだけだよ」
精霊の巫女なんて、私の容姿よりも希少な存在だ。
そんな事知られたら益々誰かに狙われる。
精霊の巫女は希少の力を持つという。
実際に私は無限の魔力と大いなる癒しの力がある。
それを独占するために誰かしらは必ず狙ってくるであろうね。
貴族や王族に保護を求めようと、結局、それらに力を求められ、囲われる。
そんなの絶対に嫌だ。
「なら、どうしてわたくしに教えたのですの?」
「そうだね。ミラが私と来るなら長い旅になるだろうし、ずっと隠すのもね。それに、ミラは誰にも言わなさそうだし。元々メーティスとミラが来るなら存在を明かそうって相談していたんだ」
「そうですの」
まあ、ミラが誰かに言ったところで私がメーティスを顕現させない限り証明することはできないしね。
『という訳で、これからよろしくねミラ』
「よろしくお願いしますわメーティス様?」
『呼び捨てでいいよ』
「えっと。よろしくお願いしますわメーティス」
こうして、ミラとメーティスの顔合わせは終わった。
ー▽ー
数日後、私とミラは大勢の見送りに見送られていた。
「スピカちゃん、ありがとう!!」
「この恩はわすれないよ」
「二人とも達者でね」
必要な物を買い揃え、準備が整った私とミラをあそこから助け出された人たちがが見送ってくれている。
「みんなじゃあねー」
「みなさまお元気で」
そして、彼女らと別れ、町を出て歩き出す。
「まずは東の町に向かおっか」
「わかりましたわ」
私たちがとりあえず目指すべきは港だ。
町長から港の位置は聞いている。
直線距離は大した距離ではないようだけど、ここと港との間に大きな森林地帯が隔てているらしい。
そこを超えるにせよ迂回するにせよ、とりあえずは森林地帯の間近にある町に行くことにしたのだ。
1日ほどで着くだろうけど、まあ歩くとなると、箱入り娘だったミラには非常に遠い距離みたいだね。
「つ、疲れましたわ」
「まだそんなに歩いていないじゃん」
以前、2日かけて盗賊のアジトから町まで歩いたけど、それは子供達のペースに合わせてゆっくり歩いたし、こまめに休憩も挟んでいたからなあ。
「どうしてスピカはそんなに平気ですの」
「そりゃ鍛えているし、ミラが体力なさすぎるだけだよ」
「ぐぅ」
「はあ、仕方がないね。これでどう?」
回復魔法でミラの体力を回復させた。
「あ、楽になりましたわ。ありがとうございます。」
「どういたしまして。それにしてもこれはアレだね。ミラも鍛えなきゃ」
体力もなく、力もないもんね。
いざという時にそれはまずいかも。
「わたくしもスピカみたいに剣をですか?」
「違うよ。これは数ヶ月でどうこうなるものじゃないし。まあ、極たまに生まれつき戦いが得意な人がいてどうにかなる人もいるらしいんだけどね。それは置いておいて、ある程度の体力や体の動かし方なんかも鍛えてもらうけど、ミラの場合はそうだね……魔法かな」
「魔法……ですの?」
「うん。だよねメーティス」
そう言ってメーティスを呼びかけて顕現させる。
『そうね。あなた、かなり魔力があるって言われた事ない?』
メーティスは見抜いていた。
ミラに内側に存在する魔力量が膨大である事に。
「ええ。昔言われた事がございますわ。でも、必要ございませんでしたのでほとんど使えませんわ」
ミラの言う通り、ミラは貴族の令嬢であり、一般常識的な簡単な魔法を習う事はあっただろうけど、戦う為の魔法を習う事はなかった。
確か、ミラの実家って武官じゃなくて文官より家だったしね。
また、魔法の訓練に誘われる事はあったが、ちょうどレオナルドとの婚約も決まった為にその道を歩む事はなかったらしい。
なんてもったいない。
『心配いらないわ。私が教えてあげるから』
メーティスは、かつて私に直接回復魔法の知識を植え付けたくらいだし。
それ以外にも様々な魔法の知識を持っている。
空納の魔法を私に教えたのもメーティスだから先生にはなってくれるだろう。
まあ、問題もあるけどね。
「私がいつも側にいるとは限らないからね。もしもの時の為にも旅をする上では自分の身を守る為の手段は大事だし、出来るだけ鍛えておいて欲しいんだ」
「そう、ですわよね。わかりましたわ。メーティス、よろしくお願いいたしますわ」
『任せなさい』
「あと、実演したい所なんだけど、ほとんど無理なんだよね」
「そうなのですの?」
「うん。私ね、回復魔法以外の魔法はほとんど使えないんだ」
問題はこれなんだよね。
知識がある限りの回復魔法の全てを使える。
オリジナルの回復魔法までも含めるとその数は膨大だと思う。
一般的な術者よりは絶対に多い。
それはいいとして、他の魔法はあまりにも適正がないんだよね。
適性がないどころか、どんな魔法を使っても回復魔法になってしまうし。
火属性の魔法を使えば火属性の回復魔法に。
水属性の魔法を使えば水属性の回復魔法になってしまうんだよね。
クリアオーラとかも実は火属性の魔法を使おうと思ってやったらできた魔法だし。
体がポカポカする以外火属性の要素ないし。
例外は空納の魔法くらいかな。
アレにしても普通よりもかなり魔力が必要なんだよね。
しかも私が持てるくらいのものしか使えないし。
まあ、結論から言えば、基本的に私に他者を傷つける攻撃魔法は使えないのだ。
「それでも、出来る限りはするよ」
回復魔法であっても魔法は魔法だし。
構成は違えど魔力制御などの参考くらいにはなるはずだ。
『あとは、私が口伝で教えるくらいになるけどがんばってね』
「わかりましたわ」
「早速練習といきたいところだけど、杖がないね。私持っていたっけ?」
魔法を使うのに杖は絶対に必要というわけではないが、あった方がいい場合が多い。
特に初心者のミラには。
『持ってないわよ。そのかわりアレがあったじゃない』
「ああアレね」
そういえばアレがあったね。
空納の魔法でアレを取り出す。
「はいミラ。杖代わりにこれあげる」
「これは?」
「杖の代わりになる扇。おもしろかったから昔買ったんだった。結構頑丈だし魔力伝導率もよかったはずだよ」
「いいのですの?」
「うん。元々私には必要がない物だしね。ミラが使えるならそれでいいよ」
「ありがとうございますスピカ。わたくし頑張りますわ!」
ミラは気合を入れて魔法の特訓を始めるのであった。




