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23 不浄の蛇その2

『ジャアァぁァ』


 不浄の蛇はおぞましい声をあげる。

 聞くものを不快にさせ恐怖させる声だ。


 やっぱり出てきてしまったか。 

 もしかしたらとは思っていたけど。


「ス、スピカさん、あ、あれは何なのですか」


 ミラは困惑している。

 まあ、仕方ないか。

 友人に化け物をけしかけられたと思ったら、今度はその本人がさらにおぞましい化け物になったしね。

 気を失っていないだけ大したものだよ。


「私にもわからない。でも、とても良くないもの。今から倒すから、絶対に私から離れないでね」

「た、倒すってスピカさんがですか!? む、無理ですわ、あんな化け物」


 まあ、あんな大きくておぞましい化け物に勝てるとは思えないだろうけど。


「に、逃げましょう。あんな化け物には敵いませんわ」

「逃げればアレは私たちを追いかけてくるはずだし、そうすれば他の人たちを巻き添えにしてしまうから無理だよ。かといって、あなた一人を逃がしてあげたいところだけど……」


 不浄の蛇が出現するまでに、他のアンデッドは全滅させたけど、不浄の蛇は再度アンデッドを創り出した。


「さすがにこれら全部を相手にしながらあなたを逃すのは難しいよ。大丈夫。絶対に勝つし、守るからっ!!」


 不浄の蛇や魔物たちに向かって回復魔法を飛ばす。

 魔物の方は簡単に消滅させることができるけど。

 やっぱり不浄の蛇は消滅しないか。


 ヒトを過剰回復させるほどの威力があっても、アンデッドの魔物を簡単に消滅させるほどの威力であっても、不浄の蛇には多少のダメージを与えるくらいにしかなかった。

 本当に私しか勝てないんじゃないかな。

 私の回復魔法でこれだし。


『ジャアぁッ!!』


 私を敵と認識したのか不浄の蛇は突進してきた。

 その速さは以前戦った不浄の化け物とは比べものにならないほどの速さだった。


「舌噛まないでねっ!」

「え?」


 まあ、そんな見え見えの突進に当たらない。

 ミラを抱えて素早く跳躍する。


「きゃあああああああ!!」


 抱えられて数メートル跳躍するという恐怖を味わったミラから悲鳴をあげる。

 飛べない人には怖いだろうね。

 もっと恐ろしい存在が真下にいるけど。


「っと」


 着地し、ミラを降ろして体勢を取り直す。

 多少、乱雑に降ろしてしまったが仕方がない。

 ゆっくり丁寧に降ろす暇なんてないし。


「ううう、どうしてわたくしがこんな目に」


 ごめんね。

 でも準備は整った。 


「さてと、反撃開始だよ」



 ー▽ー


 バサリと純白の竜の翼と尻尾とツノを生やす。

 人竜形態だ。

 人形態でいるよりも、人竜形態の方が能力が上昇するのだ。


 相手は不浄の化け物と同類。

 油断なんて出来ない。

 ここにはミラしかいないのが幸いだね。


「ス、スピカさん……そのお姿は……」


 私の姿を見てミラは驚く。

 当然か。

 驚かないはずがないよね。

 まあ、今はそんなことにかまっている暇はない。


「ヒールサンクチュアリ」


 ミラの言葉を無視して、半径2メートルの聖なる聖域を作り出す。

 これは、その聖域内の対象を回復し続ける回復魔法だ。

 私の作った超高密度の聖域である為、並のアンデッドではそこから漏れ出る光だけで消滅してしまうと思う。

 その聖域内にミラを入れる。

 ミラに対しては回復しないように細工もしている。

 過剰回復してしまうから。

 だからそれなりに構築に時間かかったんだよね。


「そこから出ないでね。中には魔物は入ってこれないから」

「わ、わかりましたわ」


 ミラを抱えながら戦っていては、両手を塞がれて剣が使えなくて厳しいからね。

 ここなら、不浄の蛇が創り出した魔物は近づくことも出来ないでしょう。

 さすがにあそこには突っ込まないはず。


 これで、不浄の蛇に集中する事ができる。

 あとは、ミラに気を配りながら戦い、もし、不浄の蛇がミラの方に向かったら、急いでミラを回収してまた同じ事をするだけだ。


「よし、メーティス。全力でいくよ!!」

『ええ。いくわよ!!』


 高速で移動し、不浄の蛇に斬りつける。

 闘気の代わりに癒しの力を存分に纏った攻撃は大いに力を発揮し、斬りつけたところを浄化していく。


「ジャアァ!!」


 負けじと、不浄の蛇は体を捻りその長い尻尾を叩き助けるけど、そんな見え見えの攻撃は回避して、さらに斬りこむ。

 闘気の代わりに癒しの力を使った剣技は対アンデッドとしてとても強力。

 技や状況にもよるけど、普段修練しているからか、普通に放つ回復魔法よりも威力が高い。

 

 何より私は師匠の弟子。

 こんな奴に負けてたまるものですか。


 次々と不浄の蛇を攻撃して浄化していく。


「流石にこいつらはしぶといね」

『でも、こっちの方が有利よ。このまま油断せずに決めちゃうわよ!!』


 どれだけの人数を過剰回復させられるのかわからない程の攻撃を与えたけど、不浄の蛇は一向に消滅する気配はない。

 でも、大きなダメージを与えているのも確かなはず。

 不浄の蛇が生み出し続ける魔物を倒しながら油断せずに挑む。


 不浄の蛇はこのままではまずいと思ったのか、私から距離をとり、大きく息を吸い込む。

 ブレスか。


『ジャアァ!!』


 そして、予想通りその大きな口より巨大で穢れた呪いのブレスが吐き出される。


「だったらこっちもぉ!!」


 それに対抗するように私も口から淡く輝くブレスを吐く。

 竜人族の中には竜と同様にブレスを吐く事ができる者もいる。


 本来、血がかなり薄くなり外見は人族とほぼ変わらない私には不可能なはずなんだけど。

 でも、人竜形態の私ならブレスを扱う事ができる。


 私が放ったブレスは不浄の蛇のブレスをも飲み込み、不浄の蛇に直撃する。

 タメは必要になるけど、ブレスは私が出せる技の中でもかなりの出力を誇るのだ。

 こんな奴にはまけやしない。


「ジャアァッッ!!!」

「このままトドメ!!」


 そして、私は己に出来る最高の技を放つ。

 師匠に名付けられた技。

 闘気を使う事が出来ない私が師匠に致命傷を与えた技。

 私だけの奥義。


「"竜星閃"!!」


 竜星閃が炸裂する。

 不浄の蛇にそれを防ぐ術はなく、その長い胴体をバラバラに切り裂いた。



 ー▽ー



 不浄の蛇から離れてミラの元に向かう。

 不浄の蛇は消滅せずにまだ存在しているが、死に体だ。

 頭の方だけしか残っていないとはいえ、死に際の生物ほど怖いものはない。

 アンデッドである不浄の蛇も同様だろう。

 だから、何があってもいいようにミラの側にいないと。


「た、倒しましたの?」

「まだだけど、ほとんど死んでいる。でも、油断しないで。何するかわからない」


 わたしは自分に言い聞かせるように言った。

 自分一人ならちゃんとトドメを刺しに行けるけれど、ミラの命もかかっているし。

 軽率な行動をとることは出来ない。

 しかし、その慎重さが仇になってしまった。


『ジャ、ジャアァ』


 真っ二つにされたところから浄化され消滅していっている不浄の蛇の体が突如膨れ始めた。


『あれは……まさか自爆!?』


 そのまさかであるかのように、それはどんどん膨れ上がっていく。


「させない!!」


 右手の剣に魔力を最大限込めて不浄の蛇に投擲した。

 自爆する前に殺すために。

 しかし、それは一瞬叶わなかった。


 辺り一体が光に包まれて、私の意識は消え失せた。



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