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21 嫉妬の凶行

 学府に編入してから数ヶ月経った。

 もう直ぐ二年次である。

 一部以外はなかなかに楽しめていると思う。

 その一部さえなければなー。


 まあそれはいいとして。

 しかし、本来の目的である黒い宝玉の手がかりは一向に掴めていない。

 何度か気配を感知する事は出来ているんだけど、全て一瞬だし、誰が保持しているのかわからなかった。


「ふむ、手紙?」


 机の中に入れられた手紙を発見する。

 内容は指定の時間に指定の場所に来るようにとの事だけだ。

 そして、その差出人の名前はミラであった。


『……これ、ミラのだと思う?』

『違うんじゃないかな?』


 やっぱりメーティスも差出人はミラではないと思ったみたい。

 今まで数度ミラに呼び出された事はある。

 もし、呼び出しに応じないといつまでもその場で待っていそうなのでちゃんと行っている。

 呼び出しに応じないなんて可哀想な事は私には出来なかった。

 そして、その呼び出し全てで人からいついつどこに来るように言われているのだ。

 手紙で呼び出された事は一度もない。


『念のため、行っておかないとね』

『そうだね』


 万が一ミラだったらと思うと可哀想だし。

 ちゃんと行こう。

 そして、時間になったので指定の場所に向かおうとした、


「やあ、スピカ。今日も君は美しい。やはり、僕に相応しいのは君しかいないよ」


 んだけど、ウザい男がやってきてしまった。

 本当にこいつはなんなのだろうか? 

 毎回私の邪魔をして。

 毎回毎回よくそんなに言葉が思いつくものだなー。

 はあ、いい加減にこりて欲しい。


「ーーーー。ーーーー。ーーーー。」


 まあ、最近は私も慣れてきたものだ。

 レオナルドの言葉をシャットアウトする事に成功している。

 ウザさを半減させる事には成功したのだ。

 もっとも、それでもウザいものはウザいし、気持ち悪いんだけど。


「申し訳ございませんレイフォールド様。私はこれから用事がございますので失礼いたします」

「それは、僕よりも大切な用事なのかな?」


 え、なんでこの人こんなに自信満々なの?


 レイフォールド様以外大切な用事なんてありません!!


 なんて言うとでも思っているのかなー。

 ないわー。

 キモいわー。


 コレより大切な事なんていくらでもある。

 まだ花壇に水でもやったほうが遥に有意義だと思うよ。

 今度からお花にお水をやりに行くの、って言って消えようかな。

 あ、だめだ、普通についてきそう。


「ええ。それでは失礼します」


 もちろん私は即座にその場から離れた。

 私がいつも最後まで話を聞いているのは、結果的にその方が早く終わるのと、会話をするのが嫌だったのだ。

 レオナルドの話など、ウザくて気持ち悪いとしか認識していない。


「はあ。いい加減にして欲しい」


 呟きながら指定された場所に向かう。


「いやぁぁーーーーーーっっ!!!」


 これは!!


「悲鳴!? それにこの気配!!」


 その途中、向かっている場所の方から悲鳴と不浄の気配を感じた。


 学府では基本的に常に気配を探っている。

 いつでも不浄の化け物が現れてもいいように。


 なのに、くそっ!!

 レオナルドに絡まれて萎えていたからか鈍っていたかも。

 不浄の気配の察知に遅れた!!

 最悪だ。

 

「くそっ、間に合え!」


 悪態をつきながら全力でダッシュする。

 悲鳴の元へ一瞬でも早く着くように。



 ー▽ー



「このような所まで連れてきてどうしたんですの?」


 ミラは自身の取り巻きにとある場所に連れてこられていた。

 その取り巻き、エステルは自身の家とも家格が近く、レオナルドの幼馴染の少女であった。


「ここは薄暗くて怖いですわ」


 ミラの言う通りここは薄暗く、さらに人気が少ないどころか周囲には誰一人として存在しない。

 基本的に他の人に迷惑が掛からないようにと人気が少ない場所にスピカを呼び出すミラであったが、それですら取り巻きを連れて行っているのだ。

 それが、自分とエステルの二人だけでこんな不気味な場所に連れてこられたミラは怖がってしまう。


「最近、レオ様とはどうですか?」

「レ、レオナルド様ですか? 最近は、お話すら出来ていません」

「……」

「ふふふ、わかっております。レオナルド様の御心はスピカさんにあると。否定したいですがそれは間違いございませんわ」


 ミラはエステルに悲しそうに言う。


「だって、スピカさんは可愛くて美しいですし、勉学も優秀ですし、敵ながら思わず守らないといけない気がしますわ。レオナルド様が惹かれてしまうのも無理もないですわ」


 でも、とミラは話を続ける。


「わたくしはきっとスピカさんからレオナルド様の寵愛を取り返してみせますわ!!」


 ミラはエステルに強い意志を持った目で宣言する。

 ミラは確かにスピカに嫉妬にしている。

 しかし、姑息な手は使わない。

 正々堂々とレオナルドの寵愛を競い、そして勝つつもりでいた。

 今はスピカに負けていようと、レオナルドの為に必死で努力している。

 彼に見劣りしないように、美しく、気高くなるように。

 ミラは嫉妬を乗り越え糧とする強い意志を持っているのだ。


「何それ。婚約者の余裕?」

「エステル……さん?」


 しかし、そのミラの宣言に対するエステルの反応は憎悪に満ちた目であった。


「いいわよね。たとえ嫌われていても婚約者でいられるのは。あの女にレオ様を取られても婚約者でい続けられるのは」


 ミラは今まで見せた事がないような態度をとるエステルに困惑する。


「何を、いって」

「何であなたがレオ様の婚約者なのよ!! レオ様を本当に愛しているのは私!! 小さい頃からレオ様を愛しているのは私なのよ!! なのに、なのにっ!! どうしてあなたがレオ様の婚約者になるの!!」


 エステルは幼馴染のレオナルドがずっと好きだった。

 エステルはレオナルドとずっと結婚するのだと思っていた。

 なのに、実際に婚約者となったのはミラであった。

 もちろん政略結婚である。

 しかし、エステルにはそんな事どうでも良かった。

 レオナルドの隣に立つのは自分じゃないと許せなかったのだ。


 だから、その関係を壊そうと思った。

 政略結婚すら出来ないように仲違いさせ、後釜に自分が居座ろうと画作した。

 その為に、嫉妬と屈辱に耐えてまでミラの取り巻きになったのだ。

 その画作は順調に成功していた。

 スピカが来るまでは。


 ミラとレオナルドの仲は学府祭の時点でそれほど良好ではなかった。

 エステルが行動した結果であった。

 誤算はミラが思ったよりもレオナルドに執着していること。

 それでも、いずれは上手くいくと思っていた。

 しかし、そんな時、スピカが現れた。

 レオナルドの心は急速にミラから離れていく。

 それはエステルが望んだ事であった。

 しかし、レオナルドが心を向けた相手はエステルではなく、スピカであった。


 エステルは許せなかった。

 だから、ミラをけしかけてスピカを追い詰めようとした。

 しかし、ミラのその性格からスピカを追い詰める事には失敗した。

 だから、自分で実行した。

 ミラがスピカを呼び出している間にスピカの教科書を破ったりと。

 スピカを追い詰めて学府をやめさせようと。

 しかし、スピカは一切ショックを受けなかった。

 すぐに泣き出して、ショックを受けて倒れてそのまま死んでしまいそうとすら思っていたのだ。

 エステルがそう思ってしまうほどスピカは儚げであった。

 実際は、やり過ぎるなら犯人を潰そうと思っていたのだが。


 そして、レオナルドの心がスピカに完全に向かい、いじめをものともしないスピカを追い詰める事は不可能だと悟ったエステルは凶行に走った。


 邪魔者を直接始末する。


 エステルはそれを可能とする物を持っていた。

 ずっと使おうか悩んでいたが、もう迷わない。

 レオナルドの心を奪ったスピカも、婚約者であるミラも始末する。

 エステルは黒い宝玉を取り出した。


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