表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/78

15 王都オーレリア

「お、親分がやられちまった」

「う、うそだ」

「にげろーーーっっ!!」


 最大戦力と精神的な柱を壊させてしまった盗賊達はただ本当に逃げ惑うだけの存在になった。

 求心力のある統率者がいなくなったら盗賊なんてだいたいこうなるんだよね。


 まあでも、逃げられると思っているのかな?


「逃がさないよ。"クリアオーラ"」


 辺り一帯がオーラに包まれる。

 暖かで優しいオーラで、全ての盗賊の顔を地面につけた。

 盗賊達を対象として全体回復魔法を放った。

 もちろん、過剰回復で。


「むう。まだ何人か意識はあるね。やっぱり瞬時に発動できる全体回復魔法じゃまだ出力がたりてないね」

『そこらへんは今後の課題ね。とりあえず、ゲルテさんの所に戻りましょう』

「だね」


 やれやれ。

 まあ過剰回復なんてめったにやらないからね。

 だいたい剣技使うし。

 とにかく戻ろうか。

 何にもなかったらいいけど。


「はっはー、すげぇな嬢ちゃん。めちゃくちゃつぇーじゃねーか」


 まず、最初に回復させた護衛が私を上機嫌で迎え入れた。

 よかった。


 自身を回復させた上に、盗賊達を全滅させたのだ。

 恐れられるか、敬われるかのどちらかされるかなーって若干思ったけれど、恐れられる事はなかったみたい。

 まあ、最後の過剰回復についても、何か不思議な力を使ったんだなぁとしか思わなかったんじゃないかな。

 過剰回復のかの字も思いつかなかったと思う。

 普通はありえない事だしね。


 そして、他の護衛やゲルテさんまでも礼を言ってくれた。

 誰一人私を変な目で見ないで。

 本当にいい人たち。


「嬢ちゃん。ありがとう。また助けられてしまったな」

「いいよいいよ。それより、まだ何人か意識はあるみたいだけどどうしようか?」


 彼らの処遇について問う。

 町まで連れていくのか、この場で殺すのか。


「ふむ。意識がある者は縛って荷台にでも乗せておこう。次の町までもう少しじゃし」

「だな。あとは、他の盗賊達の身ぐるみを剥いでおこう。それでいいですよね旦那?」

「うむ」

「これじゃあどっちが盗賊なのかわからないね」

「まったくだ」


 はっはっは、護衛のリーダーは笑う。

 つられる様にみんな笑う。

 ふふっ、いいなこういうの。


「嬢ちゃん、後はワシらに任せな。嬢ちゃんのシュリの所に戻ってやってくれ」

「わかりましたー」


 ゲルテさんに言われた通りにシュリちゃんの所に向かう。


「スピカお姉ちゃん、大丈夫?」


 そこでは、大きなぬいぐるみを不安そうに抱えるシュリちゃんがいた。


「私はこの通り大丈夫だよ」

「悪い人たちは?」

「私たちでみんな倒しちゃったよ」

「本当!?」

「うん。だからもう安全だよ」


 と、シュリちゃんを安心させる。

 こんな小さな少女をこんな時に一人にさせてしまったので心配だったけど、大丈夫だったみたい。



 ー▽ー



 その後、衛生面を考え、死んだ盗賊達を集めて燃やした。

 と言っても、ある程度は手加減したしそんなに死んではいない。

 盗賊とはいえ、皆殺しっていうのもね。

 だからって殺して申し訳ない気持ちにもならないけど。

 盗賊なんてただ害悪だし。

 中でも、少し強かった大男はけっこうなお尋ね者らしく、討伐証明のために首だけ切り取った。

 そして、生き残った者達は縛られて、荷台に入れられて、次の町で町の警備隊に引き渡された。

 他にも、ゲルテさんが盗賊達の装備を売却したり、大男の討伐の報奨金をもらったりして、私もその分け前をもらった。


『そういえば、お金全然なかったね』

『うん。宝石とかはあるんだけど現金が無いのは危なかったわね』

『あんまり宝石とかは売りたくないしね』

『あんた、本当に宝石好きね』


 別に宝石が好きなわけじゃない。

 キラキラ光るものが好きなんだよ。


 幸い、師匠との修行の過程で冒険者には登録しているので身分を証明する事は出来るし。

 もっとも、ただのスピカで登録されているけど。

 どちらにせよ、現金は領地にいる時とは違い、自分で支払わらないといけないし早く必要だね。


 まあ、その間、シュリちゃんと遊んでいるだけであったので楽なものだったけど。

 全てシュリちゃんのおじいちゃんがやってくれました。

 その後も、町について宿屋に泊まりを繰り返して、ついに王都オーレリアに到着した。


「ここって、おとぎ話の勇者の名前から付けられたんだっけ」

「ほう。嬢ちゃんは物知りじゃな。そう通りじゃよ。かつて、邪神を封印した勇者の一人の名前から付けられたのじゃ」


 私の独り言に反応したゲルテさん。

 王都民であるゲルテさんはともかく、どこからともなくやってきた私がそれを知っている事には驚いたみたい。


「さてと、ゲルテさん達、ここまで乗せていただいてありがとう」


 馬車から降りて礼を言う。


「礼を言うのはこちらの方じゃ。シュリの病気を治してもらった上に、我らの命まで救ってもらったからな。こちらの方こそ感謝してもしきれぬ」


 そう言うゲルテさんの言葉に護衛達は頷く。


「スピカお姉ちゃん。お別れなの?」


 そして、シュリちゃんは相変わらずぬいぐるみを抱きしめて泣きそうになっている。

 別れるのが寂しそうだ。 

 あの子たちも寂しそうにしてなかったらいいけど。


「そうだね。でも、しばらく王都にいるつもりだから、また会えるよ」

「うん」


 別れを惜しんでいるシュリちゃんの頭を優しく撫でる。


「あ、そうだ。どこかいい宿屋を知らない?」

「ふむ。そうじゃな。ワシの知り合いがやっている『止まり木亭』という宿屋がオススメじゃな。飯もうまいし部屋もいい。どれ、少し待っておれ。今、紹介状を書いてやろう」


 そう言って、ゲルテさんは紙を取り出し、文書を書いて渡してくれた。


「ありがとうございます」

「何、これくらい容易い事だ。お嬢ちゃん。本当にありがとう。何かあればエーデル商会に来てくれ。息子に会長の座は譲ったが、ワシにもまだまだできる事はあるからな」

「うん。何かあればお願いするよ。それじゃみんなバイバイ」

「スピカお姉ちゃんバイバーイ!!」


 ゲルテさんやシュリちゃん達と別れた。

 本当にいい人たちだったなあ。

 また会いたいな。

 

 確かエーデル商会だっけ。 

 あれ、それって。


「エーデル商会って、確かこの王都で三指に入る大きな商会だよね」

『そうね』


 重病とはいえ、孫娘一人のために様々な医者に見せたり隣国まで行ったりとしていたのでかなりの金持ちだとは思っていたけど。

 しかし、まさか隣国の領地に引きこもっていた私までも知っているほど大きな商会の元会長とは思いもしなかった。

 すごい人と出会ったものだね。


「さて、これからどうしようか?」

『紹介状も貰ったんだし、とりあえず宿屋に行きましょう』

「そうだね」


 ご丁寧に簡単な地図まで書かれた紹介状を手に、『止まり木亭』に向う。


「それにしても大きいね。さすが王都って感じ」

『私達、領地からほとんど出た事ないものね。自国の王都よりも先に他国の王都に来るなんてね。それよりもあんまりキョロキョロしないでよ。田舎者に思われるわよ』

「了解です」


 私、と言うよりはメーティスが大きく発展させたリンカネーシア領だが、やはり、王都には劣ってしまう。

 だから、少し物珍しさを感じてしまう。

 まあ、今はフードを被っているし、多少キョロキョロした所で誰も気づかないと思うけど。


「うーん。目移りしちゃう。明日は観光でもしよっか」

『いいわね。後はお買い物もしましょ』

「うん。と、ここだね」


『止まり木亭』に到着したので早速中に入る。


「すみませーん」

「はいはい、ただいま」


 出迎えてくれたのは、ふくよかで人の良さそうな中年の女性だった。


「泊まりたいんだけど、お部屋空いている?」

「ああ、空いてるよ。お嬢ちゃん一人かい?」

「うんそうだよ。それと、一応紹介状をいただいたのだけど」


 持っていた紹介状を渡す。


「おや、ゲルテさんからの紹介かい。お嬢ちゃん、小さいのにすごいねぇ。これはサービスしなきゃね。それで、何日泊まるんだい?」

「とりあえず、10日ほどお願い」


 受付を済ませお金を支払う。

 ちなみに、私は確かに小さいが、実際はこの年齢の平均より少し下程度だ。

 確かに成人はしていないけどそこまで小さくはない。


「朝食は5時から7時。昼食は無しで夕食は6時から9時までの間だよ。それから、お湯は個別料金だから気をつけておくれ」

「了解しました〜」


 鍵を受け取って部屋に入る。


「おー、簡素だけどかなり綺麗だね」

『そうね。確かにいい宿屋ね。ゲルテさんもいいところを紹介してくれるわ』


 さすがに、妾腹とはいえ、貴族の令嬢にして屋敷内では実質トップであった私の屋敷の部屋には遠く及ばないけど、十分満足できる部屋だった。


「持ち物を確認して、明日は観光しながら必要な物を買いに行こうか」

『そうしましょう』


 さてと明日から楽しみだなあ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ