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12 病気の女の子

「よっと」


 周囲に人がいないことを確認してから地面に降り立つ。

 先ほど、背後の山を飛び越えてきたのだ。

 もうここはアルデバラン王国なんだよね。


 通常、あの場からアルデバラン王国に行こうと思えば、背後の山を大きく迂回していかなければならない。

 何故ならあの山、というより山脈を越えようと思えば、何度も山を越えなければいけないし、いくつも並ぶ山々は険しく、人が通るような所ではないからだ。

 しかし、空を飛ぶ事ができる私にかかればひとっ飛び。


「ここからは歩いて行こうか。飛ぶだけじゃ味気ないしね」

『そうね。時間はあるのだしゆっくりしましょう』


 ここまで来たスピードはなんだったのかと思う様なスロースピードで歩き出す。

 まあ、歩くのが遅いのではなく、飛ぶスピードが速かっただけなんだけどね。


「このまま西に進めば王都だっけ。とりあえずそっち方面に行こうか」

『そうしましょう』


 いずれ何処かに着けばいいしね。

 時間はたっぷりあるのだから。

 景色でも楽しみながら歩いていこう。


 数時間歩き、街道を見つけ、それに沿って歩き、景色を眺めるのも飽きたのでメーティスと話したり、本を読みながらさらに歩く。

 お昼も過ぎてお腹がすき、食べ物がない事に気が付いて悲しくなった。

 何の用意もせずに飛び出してきたからなあ。

 あー、考えるのやめよう。

 嫌な気分になる。


 空腹を回復させるという荒技を披露して、何処かの町か村に着くか、夜になる前に狩りをするかと考え、それまで我慢することにする。


「おーーい」


 何てこと考えていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには、いくつもの馬車とそれを引く馬。

 そして、それらに乗る複数の人がいた。

 商人とその護衛かな。


「おーい、嬢ちゃんこんな所で一人旅か? しかも、そんな軽装で危ないじゃないか」


 その中でも人が良さそうな初老の域に入った男性がでてきた。

 なんか注意されてしまったよ。

 まあたしかに、軽装、と言うよりもワンピースにフード付きのケープを被ったくらいだし、腰にふた振りの剣が刺さっているくらいだもんね。


「ワシらは王都に向かっているのだが、良かったら嬢ちゃんも乗っていくかい?」


 うわっ、明らかに怪しい誘い。

 んー、でも悪意はないかな?

 

 たぶん大丈夫だと思うけど、一応メーティスにも聞いておこう。


『メーティス、どうする?』

『嫌な感じはしないし、どちらでもいいわ。スピカの好きにしなさい』


 メーティスも大丈夫と思うと。


「それだったら便乗させていただこうかな。私はスピカ。よろしくおねがいします。」


 最低限の礼儀のため、フードをとり、頭を下げる。


「ほぉー、嬢ちゃん、かなりのべっぴんさんだな。誘ったかいがあったわい」


 あ、やっぱりこの人大丈夫だ。

 変な視線は感じないし。

 やばい人はすぐわかるからね。

 値踏みするようにジロジロ見るから。


「ところで嬢ちゃん、馬車に乗せる代わりといっちゃなんだが、ひとつ頼み事があるんじゃが」

「頼み事?」


 まあ、心変わりするなり私が気づかなかっただけなりするならこの場で全員切り殺す、


「実は、ワシの孫もいるのじゃが病気でな。ここはみんな大人じゃし、孫も暇であろう。だから看病ついでに話し相手をしてくれぬか」


 なんて考えはすぐに捨てた。


『こんな人もいるんだね』

『本当にね』


 はぁ、善人なんだなぁ。

 今まで、最初は敵か味方かで考えていたからね。

 こういう人の方がよっぽど健全だ。

 見習わないとね。


「うん。それくらいならお安い御用だよ」

「ほっほっ。お嬢ちゃんありがとう。孫がいるのはこの馬車じゃ。入ってくれ」


 老人に促されて馬車に入る。

 馬車の中は広く、何より特質すべきなのは大量のクッションとぬいぐるみだった。

 大量のクッションが敷き詰められた馬車の内部は揺れを最大限吸収し、人にとって最高の馬車であった。

 そして、ぬいぐるみも老人の孫の為のものであった。


「おじいちゃんどうしたの?」


 中にいたのはちょうど5歳くらいの女の子だった。


「うむ。偶然このお嬢ちゃんと出会ってな。シュリの話し相手をしてくれる事になったんじゃ」

「ほんとう!?」


 シュリと呼ばれた女の子はパァっと顔を明るくする。

 退屈だったのだろうね。


「わぁ!! お姫様みたいに綺麗!! あのね、シュリはね、シュリっていうの!!」


 フード付きのケープとワンピースといった軽い格好しているのにお姫様って。

 まあ、そういうのに憧れる可愛い女の子なんだろうね。


「シュリちゃんだね。私はスピカっていうだよ。よろしくねシュリちゃん」

「よろしくスピカお姉ちゃん!!」


 シュリちゃんは私をキラキラした目でお姉ちゃんと呼んだ。


「お姉ちゃん、か」

「スピカお姉ちゃん?」

「ううんなんでもないよ。お爺さん、シュリちゃんの事は任せてね」

「ホッホッホ。頼むぞい」


 そうして、シュリちゃんの馬車に入った。


『あの子達が心配?』

『まあね。少し……とても心配。でも、事前に手紙も書いていたしアントンもいるし、シリウスだって他の子だってみんな元気だよ』

『そうね!!』


 なんだかんだでみんな仲いいし、いい子たちだし。

 きっと元気でやっている。 

 次会った時びっくりするくらい成長しているかもしれないな。

 そうだったらうれしいな。



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