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9 師匠との死合い

 翌日、約束の時間に道場に向かった。

 そこでは、師匠が背を向けて瞑想をしていた。


「師匠来ましたよ」


 気がついていないはずがないと思うが一応声をかける。

 しかし、師匠からの反応はない。


「師匠?」

「スピカよ」

「はい」


 師匠はゆっくりと立ち上がる。

いつもよりも威圧感がすごい。


「剣を抜け」

「はい? えーと、打ち合うのですか? でも師匠が……」

「いいから剣を抜けっ!!」

「はいっ!!」


 師匠の聞いたこともない大きな声に私は言われた通りに剣を抜いてしまう。

 いつも叱られたりするけどこんな声は初めてだ。

 いったい師匠はどうしたんだろう。


「スピカよ。今日で儂とお主が出会ってちょうど十年。今日ほど相応しい日は無いとは思わぬか?」


 師匠は懐かしむように静かに語りだす。


「えーと、何の話です?」


 師匠の意図が見えず、問いかけるけど師匠はそれを無視して話し出す。


「儂は悩んでおった。これをするべきかしないべきか。お主の為を思うのならばしないべきなのであろう。しかし、儂にはそれができなかった。実行するしかなかったのだ」

「師匠?」


 その瞬間、師匠は黒い輝きを放つ。

 かつて、私が竜さんから加護を受け取り、人の竜となった時との対比のように。


「ふむ。力が漲るわ」

「し、師匠?」


 そして、私は一層強い黒い光を放ち現れた師匠を見て戸惑う。

 先ほどまでいつ死んでもおかしくない老人であった師匠が若がったのだ。

 おそらく全盛期であった頃の年齢に。

 それだけでも異常でだけど、私が異常を感じ取ったのは別のところである。


『とても良くない気配を感じるわ!!』


 メーティスに指摘されるまでもなく私が感じ取っていた異常は、師匠から感じられる気配がとても禍々しくおぞましいものなのだ。


「ど、どうしたんですか師匠? そんなに若返って。それに…その…気配…」


 次の瞬間、私の右腕が地面に落ちた。

 困惑した私問いに対して返って来たのは言葉ではなく、斬撃。

 師匠が一瞬で間を詰めてすれ違いざまに私の右腕を切り落としたのだ。


「っっつ!? な…にする…んですか」


 私は突然の事に驚きながらも失った右腕を回復魔法で再生させる。

 メーティスと出会って十年。

 回復魔法の研鑽も積んでいるしこの程度なら一瞬で回復する事ができる。


「スピカよ。これより最後の稽古を始める。お主にはこれよりわしと死合ってもらう」


 師匠は調子を確かめるようにブンブンと剣を振りながら言う。


「死合ってって、嫌ですよ。私、まだ師匠には教わっていない事がたくさんありますよ」

「そんな事はない。お主にはわしの技術を全て教えた。そして、これが最後だ」


 師匠は語る。

 十年前に私を弟子にした時よりこの時は待ち望んでいた。

 私に己のすべてを、最後にはその命すら糧にして私に継承させようと。

 そして、寿命ではなく剣士としてその命をまっとうすると。


「そんなこと、止めてくださいよ。私、師匠と戦いたくなんかありません」

「ふっ、お主はやはり優しいの。だが、今日だけはお主の優しさはわしには毒にしかならぬ。わしの寿命は残り僅かだ。すぐに朽ちる。ならば最後は剣士として、弟子であるお主と死合って死にたい!!」


 そう言う師匠の瞳はどこまでも真摯だった。

 その気配は禍々しいが願いはとても純粋だった。


 いやだ、いやだ、戦いたくない。

 師匠と殺し合いなんてしたくない。


 でも、この目、見たことがある。

 竜さんと同じ目だ。

 最後の願いの目だ。


「……わかり、ました」


 ギリッと歯を食いしばって剣を抜いて構える。


『スピカ!?』

「お願いメーティス、力を貸して。最後には師匠の望みを叶えてあげたい。それが私にできる唯一の事みたいだから」

『そう。わかったわ!!』

「ありがとう」


 フーと息をついて、先ほど腕と共に落とした剣を拾い上げ、師匠を見つめる。


「話し合いは済んだか?」

「はい」

「ふむ、では」


 私も師匠も剣を構えて臨戦態勢をとる。

 まったく同じ構えである。


「いくぞ!!」


 そして、私たちは同時に地を蹴った。



ー▽ー



「はあああああ!!」

「ぬおおおおお!!」


 剣と剣が入り乱れる。

 二人とも左右の剣を同時に振るう。

 それは舞うように美しく、同時に苛烈であった。

 師匠はかつて『流星』と呼ばれた。

 その剣技は苛烈で美しく、あらゆる敵を屠り殺してきた。

 相手に反撃の暇さえ与えない攻撃的な剣技だ。


 そしてその剣技を使うのが二人。

 隙間なく連続する剣閃と金属音。

 傍から見れば、戦いは苛烈を極めていたと思う。


「ふっ、っっつつっつつ!!」


 純粋な身体能力では大差がない。

 しかし、私にはとある才能が欠如していた。


 私は闘気を練る事が出来ない。

 闘気とは、魔力を物理的なエネルギーに変換したモノだ。

 故に、闘気を身体に巡らせば常軌を逸した身体能力を発揮し、拳と共に放てば岩をも砕く。

 そして、剣と共に鋭く放てば鉄をも切り裂く。

 程度に差はあれ、近接戦闘を生業とするものには必ず必要となってくるモノだ。


 しかし、私にはそれができない。

 私は竜さんより加護を受け取った時に身体構造が変わっている。

 故に、生身でも常人よりも高い身体能力を保有している。

 さらには、魔法による強化もしている。


 しかし、それは身体能力だけ。

 闘気を扱う事のできない私はどうしても単純な攻撃力では劣ってしまう。

 といっても、剣術だけが私ではない。

 剣を使わずとも能力を十全に使えば師匠に勝てると思う。

 しかし、それでは意味がないのだ。

 弟子として剣で師匠に勝たなければいけないのだから。

 それが師匠の願い。


 と言ってもやっぱりジリ貧だ。

 師匠は身体能力でこそ若干私に劣るものの、私を上回る技量と私にはない闘気の扱い、何より全盛期の体に慣れてきたのか師匠は徐々に優勢になってきた。


「そんなものかあああ!!」

「っっつ、くっ」


 師匠の苛烈さはさらに増す。

 捌ききれなくなり、全身にかすり傷をつけ始めた。

 回復魔法によって一瞬で治るとはいえ、劣勢である事には違いない。


 時間が経つと余計に不利になる。

 何かしないと。

 

 その瞬間師匠が消えた。


 やっばい!! 

 "星崩し"だ!!


 師匠は私のの目の前から消えるようにしゃがみ込んでいた。

 気づいたときにはもう遅い。

 師匠の剣は回転しながら私の両脚を切り落とす。

 そして、両脚を切り落とした事によって落ちてくる私の体に合わせてその首を切り落とす技"星崩し"。


 しかし、私の両脚を切り落とす事には成功したがその首に剣が届く事はなかった。

 私は両脚を切り落とされた瞬間、背中から竜の翼を生やし、上空へと逃げたのだ。

 普段やらないこの形態になって何とか助かった。


「ふむ。そういえばお主には翼があるのだな。忘れておったわ」

「ええ、おかげで助かりました」

「ぬかせ。お主なら首を切り落とされても終わりではないであろう」


 それはありそうだなぁ。

 さすがに首と胴体がさようならした事は無いけど、何度も致命傷から回復してきたし。

 それ位は出来そう。

 まあやりたくはないけどね。


 何て事を一瞬考えながら、失った両脚を回復させる。


 それにしても。

 今の私じゃ師匠に勝てない。

 でも……私は師匠を倒す!! 

 それが私に出来る唯一の恩返しだからっ!!


「はああああ!!」


 竜の翼と尻尾を生やし、角がある状態、人竜とも言える状態で師匠に突っ込む。


「ああああ!!」

「技量は良し、速さはわし以上、闘気を使う者よりも遥かに強い!! だが、その程度ではわしを止める事は出来ぬぞ!!」


 師匠はふた振りの剣に闘気を込めて十字に振り抜く。

 正面からは止められない。

 回避もできない。


「はぁっ!!」


 ならば同時にと、私はそれを敢えて避けながら受けた。

 片方の翼で。

 師匠の技を受けた翼は綺麗に切り刻まれるが、胴体は軽傷だ。

 技を放った師匠には少しの隙ができる。

 翼を犠牲にして作った隙。

 これを見逃せばもう勝てない。


「これでぇぇぇっっ!!」


 師匠の隙を突いて剣を振るう。

 確かに師匠を切り裂いた。


「くっっつっ!!」


 だけど、それと同時に師匠の剣もまた私を切り裂いた。

 私の攻撃よりも深く。

 明らかに致命傷。


 でも、ついに師匠に届いた。


「はあ、はあ、はあ。翼を盾にするとはやるな。その様な動きわしには一回も見せなかったのに」

「いえ、とっさに思いついただけです。それにしても、隙を突いたはずなのに何で私が致命傷を受けているのですか」

「ふんっ。お主にとってその程度致命傷でもなんでもなかろう。わしの方が危うい」


 師匠の言う通り、私は既に回復済みだ。

 先ほど受けた致命傷も翼も元どおりだ。

 致命傷を受けようが私は何度だって回復できる。

 相手にとっては反則極まり無いと思うけど、私からすれば闘気が使えないという代償があるようなものだし。

 師匠もそれを理解しているから不快にはなっていない。


「この傷では次で終わりだな。スピカよ、次で終えるぞ」

「はいっ!!」


 二人は同じ構えをとる。

 師匠は闘気を極限まで練り上げている。

 私はジッと師匠を見つめ、その時が来るのを待っている。


「いくぞぉっ!!」

「はいっ!!」

「おおおおおおおお!!」

「はあああああああ!!」


「「"流星閃"っっっ!!」」


 二つの影が交差する。

 それは二人にとっての奥義。

 相手が視認できない速度で一瞬で六度斬りつける神速の必殺技である。


「がっばぶっごはっ!!」


 交わった二つの奥義。

 胴体の半分以上斬られた私はその場に倒れこんだ。


「ううっつつ、はあ、はあ、はあ」


 でも、この程度ならば回復できる。

 パックリと開いた腹は何事もなかったかのように繋がった。


「……見事だスピカ」


 師匠の声につられて振り返る。

 師匠は私と比べると軽傷だった。

 あくまで私と比べるとだけど。

 明らかに致命傷。


 技の打ち合いではほぼ相打ちだが、殺し合いに勝ったのは私だった。


 ドサリと倒れる師匠。


「し、師匠!!」


 師匠の元に駆けつけようとする。


「ぐっ、がっ、す、スピカよ、離れろっ!!」

「え?」

「オォォォォ、ぐっ、ガアアアアアアアアアア!!」


 突然、師匠の身体は黒い靄に包まれる。


「これは、瘴気?」


 それは徐々に密度を増していき、巨大になっていく。

 そして、


『グオォォォォオォォォォオォォォォ!!』


 そこに現れたのは爛れた肉体を持った巨大な熊のような化け物であった。



流星閃:技のイメージとして飛◯御剣流の九頭◯閃と御庭番さんの回転剣舞・◯連を足して2で割った感じ。

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