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邂逅

遠くで泣いている声が聞こえる。


病気になった直後、夜よく聞こえた泣き声を思い出す。

一階のリビングで母が泣いていたのだろう。

父が慰めていた。


普段は僕に優しく接してくれていた父も母も、僕が病気になって、きっと心では悲しんでいたのだろう。

でも、僕の前でそんな顔は一回も見せなかった。

でも僕は知っている。

二人が夜中に僕について話し合っていた事を。

母が泣いていた事を。




目が覚めた。


辺りは夕方でもうすぐ日が落ちる時分だ、ということをぼんやりと覚醒した頭で思う。


夢の中で聞こえていた泣き声が、目が覚めても聞こえる。

起き上がると、足元で座り込む女の子が泣いていた。


「どうしたの?」


何で泣いているのか、と聞いたのだが、びっくりした顔をしてこちらを見た後で、今度は僕の首にしがみついてもっと激しく泣き出した。


『シンダカトオモッタ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ』



頭の中に直接声が響く。


「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど。この通り大丈夫だから」

そう言って、しがみついていた女の子の腕を解くと、ちゃんと顔を覗き込む。


「君はいったどこからきたの?」

『…遠イトコ。タブンスゴクスゴク遠イ』

「どうやってきたの?」

『乗リ物二乗ッテ。デモ壊レチャッタミタイ』

卵型のソレがあったところを振り返り、悲しそうにする。


それに呼応するように、チカチカと点滅していた卵の残骸である内部がシュン、と音を立てて動きを止める。


「それ、僕が壊しちゃった…ごめん」

さっき、石をうちつけて粉々にしたことを詫びると

『チガウノ。トックニ壊レテタ。本当ナラ、家二着イテルハズダッタカラ』

そういって、僕の所為じゃないと首を振る。


『デモ、ドウシヨウ。帰レナイ』


そういった時、空を覆う影が頭上を通り過ぎる。

それは鴉かハトかそれとも違う鳥なのか。

今までまったく生き物の気配がしなかったこの場所に、突然生き物の気配が時が止まっていたのが動き出すように聞こえてくる。


虫の羽音、鳥。

それだけじゃない何か。


「さっきまで虫1匹いなかったのに」

『しーるどガ無クナッタンダワ』


彼女の話によるとあの卵のようなものを守るために、辺り一帯に防護壁のようなものが貼られていて、生きているものが近づけないようになっていたそうだ。


ということは、人もそれでいなかったのかもしれない。

この卵が落ちてきたので、卵の周りの人や動物がいなくなっただけで、

ひょっとしたら、明日にでも父や母に会えるのかもしれない。


「とりあえずここは危険だし、夜になる前に俺の家においでよ」

車の助手席の荷物を整理して、彼女を車へと案内する。


おそるおそる車に乗ったが、エンジンをかけて走らせると楽しそうに窓の外を見ていた。


自宅に着いて、車の中の物を家の中に運ぶのを手伝ってもらう。


遠くで犬の遠吠えが聞こえた。

生き物が近くで生きている。それだけで希望が持てる。


彼女と布団を分け合って、水と缶詰と発電機を使ってお湯を沸かし、カップラーメンを食べて、寝ることにした。


明日には人に会えるかもしれない。


そう思いながら。

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