2ヶ月
牛と豚が来てから1ヶ月近く経った。
毎日絞る牛乳はバターになったりチーズの素になったりしている。
クリームシチューや生クリームにもありつけている。
バターと牛乳ができたことで、パンも作ることができていた。
牛をつぶすのはまだちょっと荷が重いので、そのままにしているが、豚はベーコンだけでなくソーセージにも挑戦して、上手くいっている。
鶏の小屋が狭くなったので、最初に豚を放していた隣の家の周りを整えて、家の中のものを綺麗にして一軒まるまる鶏小屋にした。
新しく生まれた雛も順調に育ってる。
畑も順調に広げて、トマト、キュウリ、ナス、大豆、トウモロコシ、小麦、が順調に育っている。
その他にもジャガイモ、ニンジン、ネギ、玉ねぎもこれから先楽しみな成長ぶりだ。
夏が本格的になってきたので、紫蘇とペパーミント、レモングラスなどのハーブを家の周りに植えた。
ラン曰く、虫よけになるらしい。
来年にはどこか農家だったところにあるだろう種もみを探して、コメを作ることに挑戦しよう、と話をしていた。
けれども、その前に農業用のため池を作らないといけないので、米を作る場所をどこにするかを考えないといけないという話になった。
目が覚めて、人間のいない世界で2か月が過ぎた。
当初の予想通り、春から初夏の陽気だった太陽は夏のソレに替わり、ウサギ耳のリン、ラン、ルーは少し暑さに弱いらしかったので昼の一番暑い時間は作業をやめて家にいることにした。
たまは暑さをあまり感じないのか、たまに長袖を着てみんなをびっくりさせている。
この4人を見ていると人間なのは自分だけなのだなあ、と改めて思う。
重機を取りに行った遠出のあとも、2回ほど2時間ほどの距離の所に車で行ってみたが、人に出会うことはなかった。
この夏であまり高さのない建物は緑に沈んでしまいそうだな、と街道沿いに車を走らせていて思う。
町の景色が成長の早い蔦科の植物に飲み込まれて日に日に家が見えなくなっていく。
けれども僕は寂しさを覚えるより、毎日の生きることのほうが忙しくて、あまりそういうことを気にしなくなっていた。
いまは、みんなで鶏小屋と家の間に冬の間の食糧などを秋に取り込む備蓄庫を建てていた。
秋以降収穫するものをきちんと保管ができるようにしないと、折角収穫したものが腐ってしまうからだ。
備蓄庫はただ建物を建てるだけでなく、ソーラーパネルを屋根に設置し、密封度を高めてマイナス5度くらいをキープできる保冷をできる施設にするため、コンクリート製できっちり作ることにした。
本格的な建物を作るのも、ソーラーパネルを作り、機械を設置するのも初めてだったけれども、リンが図書館に通って、いろいろと勉強し、とうとう回路の設計や工事までもできるようになっていた。
ルーも横で見ていて同じようにできるようになっていて、たまにリンと2人で専門用語で話しているので、僕はそういうときはたまと一緒にお茶をすすっているだけになる。
ランは加工食品と保存食品にハマっていて、いろんな加工食品の試作に忙しい。
シュールストレミングを試しに作ってみたいとバラエティに近い料理番組を見ながら言っていたので、それだけは全力で止めておいた。
そのかわり、僕は嫌いだけど、納豆を作ることだけはしぶしぶ許可をした。
僕以外の4人は納豆がどうやら好きらしい。
人間としてのアイデンティティが崩壊しそうだ。