1ヶ月と2日目
物凄くうるさくて目が覚めた。
かん高い鶏の声と重低音のモーという声。
疲れてた体はもうちょっと、と深い眠りへと誘うけれども余りにもうるさ過ぎて目がぱちりと開く。
『オハヨウ』「モー」
たまが挨拶をしてくる。
それにかぶさって牛の鳴き声が聞こえ、昨日のことを思い出す
「たま、牛乳のもう!」
『ギュウニュウ!!!』
部屋を飛び出して、階段をおりて一階へ。そして靴をつっかけて木につながれた牛のもとに行く。
牛たちは昨日の夜と同じように木に繋がれ、ゆっくりと草を食べている。
犬がその横で見張るように寝そべっていた。
「見守りありがとう」
頭を撫でると、ちょっと誇らしそうな顔で尻尾を振る。
牛の近くにいって乳しぼりに挑戦だ…とおもったところで、入れ物を何も持ってきていないことを思い出す。
急いで家に引き返し、鍋を探し出して、きれいに洗うと牛のところに戻る。
『ドウスルノ?』
たまが興味津々に覗いてくる。
TVで見たことがあるけれども、実際にやるのははじめてだ。
牛の横にまわって、おそるおそる乳首を握り、ぎゅーっとやると、お鍋にミルクが落ちてくる。
『コレガ牛乳?』
たまが聞いてきたので、そうだよ、と返事をした。
『コレ、牛ハ痛クナイノ?』
「どうだろう。痛いってことはないとおもう。逆に乳を搾ってあげないと辛いらしい、って聞いたことはあるけど」
『ソウナンダ…タマモヤッテイイ?』
といったので、いいよ、と場所を交代する。
『アッタカイ!』
こわごわミルクを絞りながら、たまが順調にミルクで鍋を一杯にしていく。
「もうそれくらいでいいよ」
鍋一杯になったので、とりあえず止める。本当はある程度絞らないといけないらしいけれど、そのためには大き目のバケツが必要だ。
とりあえず、いまある鍋を一杯にしたので、家へと戻るとランが目を輝かせて鍋を見つめてきた。
「これが牛乳ね!これがあればバターもチーズも作れるわ!」
ランとたまはこの1月でありとあらゆる食材の知識を本やDVDから学んだみたいで、実践する気満々だ。
味噌と醤油のために、蔵を作ろうといっているくらいだ。
「ベーコンもお肉も隣の家にいるしね」
リンも嬉しそうに言う。
リンやラン、ルーもそうだけれども、本やDVDからモノを学んで吸収する能力が優れているようで、ちょっと読んだだけでも、理解して実践できる才能があるようだ。
「今日は、お昼過ぎから豚と鶏を1頭1羽ずつ潰して、お肉の加工をしようと思うんだ」
リンが食肉加工の勉強をしてくれて、やれる、と言っていたので、みんなでそれをやろう、という話になる。
簡単なご飯とお味噌汁で朝ご飯を済ませると、畑、鶏、豚牛の世話をする。
昨日もってきたユンボと耕耘機で隣の廃墟になって崩れていた左となりの家を壊して、ざっと廃材などを横によけるとテニスコート2面くらいの広さになったので、鶏小屋を作った余りで残っていた針金と廃材で簡単な囲いを作る。
中央に豚と牛用に別々に餌箱を作りと、廃墟のあとにでてきた水道管から引いた水場を作り、牛と豚を囲いの中に入れる。
4時間くらいかかったけれど、けっこう良い出来だと思う。
「一回休んでお昼ごはんにしようか」
「そうだね!」
「わーいおひるー!」
リンとルーと作業を終えて、井戸で汗と泥を軽く流して、家に戻るとたまがご飯の準備をしていてくれた。
「あれ?ランは?」
と聞くと、ランはどうやら牛乳からバターを作るのに格闘中だという。
「ものすごくかきまぜないといけないから、大変なの!」
と、ランが言いながらちょっぴりだけできたバターを小皿に入れて持ってくる。
今度ホームセンターで何かいいものがないか、探してこようという話になった。
お昼は小麦粉と牛乳と玉子で作ったホットケーキ&ランの作ったバターだった。
甘いものはオヤツ派、ご飯と認めない!という主張を持った僕だけれども、久しぶりのホットケーキはめちゃくちゃ美味しかった。
牛乳って大事だなって思った。