病院からの脱出
ボロボロのカーテンをあけたら、眼下に緑が広がっていた。
自分の入院した病院は都心の一等地にあったはずだった。
大きな企業の重役だった父、良い所のお嬢さんだった母。
そんな二人のもとに生まれた僕は、病気になったときにお金をかけるだけかけてもらっていた。
だから病院も都内でも有名な病院だった。
高層階の病室で、ありったけのことをしてもらっていた。
たしか病室は21階だったと思う。
目の前に広がるのはそれくらいの高さの距離。
ただ、建物らしきものは緑の隙間からちらりと見えるくらいで。
つまり、街全体が緑に埋もれていた。
「まずは、ここから降りよう」
非常階段を探して、21階を降りていく。
途中の階で人がいないか、人がいた痕跡がないかさがしたけれども残念ながら見当たらなかった。
1階に降り立つと、がらんとしたガラスでできた玄関ホールが広がっていた。
この建物が活躍していたときであれば、燦燦と陽の注ぐ気持ちの良い場所だっただろう。
けれども今は、いつ割れるともしれない怖い場所だ。
なるべく安全そうな場所を選び、歩いていく。
ドアもそっと開けたが、外の風を受けてばたん、と閉まった衝撃で
ガシャンガシャンと何枚ものガラスが建物から落ち。砕けていった。
とりあえず無事外に出られたことに安堵し、周りを見渡す。
アスファルトで舗装されていた道路はあちこちから木や草が出てぼこぼこになっていて、見る影もない。
建物前のバスの時刻表は風化して、それでもかろうじて立っている感じであった。
ふと思いついて、建物の右に回ると、自転車置き場があった。
雨風にさらされてさび付いているものがほとんどだったが、
1台、ママチャリと呼ばれる自転車が雨よけのシートをかぶっていて、タイヤもどうやらパンクしていないようだった。
調べるとラッキーなことに鍵がついたままだったので、それを使うことにする。
前のかごに買い物袋を入れてとりあえず凸凹の道を漕ぎ出す。
まず目指すは自宅だった。