水
昨日持って帰った野菜を庭に植えて、今日は前からやろうと思っていたことをする。
どこか拠点を移すにしても、準備が必要なので、その準備だ。
まずは簡単な家庭菜園を作ることにする。
あとは水の確保だ。
自宅は都内23区、武蔵野に近い場所にある。
実は自宅の庭には曾々祖父の時代より使っていた井戸がある。
父の子供のころは家に五右衛門風呂もあったという。
僕が生まれる結構前に井戸は使わなくなり、病院に入院する3年前に家をリフォームした。
けれど僕の住んでいる区は綺麗な源流が近くにあり、工事のついでに井戸の検査をしてもらったときに、飲み水としてのお墨付きをもらっていた。
たしか井戸をそのまま残すだけでなく、日常の水として使えるよう、リフォームの際に井戸から水をとるようにした、という話を聞いていた。
夏でも冷たく、スイカなどを冷やすのによい、と言っていたのを覚えている。
ただ、人がいなくなった原因を考えると、普通に外にあるものを口にしてよいのかどうかためらいがあるため、ペットボトルの水を飲んでいたし、今もまだ安心はできない。
なにより家で水を使うには電源が必要だ。
けれども水が出るかどうかで、野菜を育てるのにも随分と労力が変わってくると思うので、井戸の確認は必須だと思う。
僕はまず裏庭に出る。
案の定、草が背の高さくらいに伸びて、どこが井戸だかもわからない。
これは危険だとおもい、どうしようか考え、車で10分くらいの所にあった、ホームセンターを思い出す。
ひょっとしたら役に立つものが売っているかもしれない。
そう考えてたまを呼ぶ。
「たま、ドライブしよう」
『どらいぶ?』
「車でちょっとお出かけってこと」
車に乗るというとたまは嬉しそうに助手席に乗り込む。
「ちょっと重いもの運ぶから、たまにも手伝ってもらうかも」
あまりあてにせずそう言ったがたまは
「マカセテ!」
にっこりと笑って答えてくれた。