野菜
温泉につかり、受付にあったいつのか分からないシャンプーとコンディショナー、あと石鹸で頭と顔とカラダを洗い、スッキリとした気持ちで上がると、たまがびしょびしょの状態で廊下から歩いてきた。
上がった後タオルで拭く、というのを言い忘れていた。
(トイレの鍵はかけるのに、こういうのは知らないのか)
どういうカテゴライズなのかは分からないが、変なところを知っていて、変なところを知らないたまに、ため息をつきながら受付の重なってた中から奥の方のタオルを出す。
たまの肩くらいまでの髪から水が落ちなくなるくらい拭いてやった。
8時くらいに家をでて、2時間くらい走って、1時間くらい風呂にはいったので、おそらくいまはお昼くらいだろう。
車に戻り、発電機を使いお湯を沸かしてカップラーメンと缶詰の簡単な昼食にした。
日没までには帰りたいが、あと少しだけここでやりたいことがある。
街中を走ると、やはりいくつか桃の実が生っていた。
残念ながらさくらんぼの時期は終わってしまっていたが、何本かの苗木らしきものを見つけて、それを掘り起こしてトランクに積む。
他にも畑だったところと思しきところで見知った野菜らしきものを幾つか見つけ、手近な籠一杯根ごと抜いていく。
キャベツにアスパラガス、紫蘇、ソラマメや枝豆、半ば野生化したズッキーニやキュウリ、茄子やコーンなどもある。
人参やジャガイモの育ちかけもあったので、これももっていこう。
野菜を物色していると、茂みの向こうからゴソゴソという音がした。
手を止めて息を鎮める。
横にいたたまにも動くな、と目で合図をする。
じっとしていると叢をかき分けて猪の子供、ウリ坊が顔をのぞかせる。
人間を見たことがないのか不思議そうな顔で見ると近寄ってくる。
手をだすとふんふん、といぬのように嗅いでくるので、撫でてやると嬉しそうにカラダを擦りつけてきた。
『ハルカ、コレ、持ッテ帰ロウ!』
たまが興奮したように言うが、近くに親がいるかもしれないし、猪はあっという間に大きくなるし、作物を荒らしたりするので、持って帰っても飼うのは難しい。
首を振って、最後に頭を撫でると、籠をもち、車へと戻る。
猪の子供がいるということは猪もいるだろうし、犬やウサギ、鹿もいるかもしれない。
人の姿は見当たらないが、動物がいることは、間近で確認ができた。
牛や豚、鶏がいたらいいのにな、と思いながらたまと帰路につく。
ギリギリ暗くなる前に家へと帰れた。
風呂に入ったあとで畑仕事をしてしまったのでカラダがどろどろだったので、トイレ用に汲み置きをしていた水でカラダを流す。
一回綺麗になることを覚えると、どうしても風呂に入りたくなってしまう。
たまも水で綺麗にしたあと、そろそろ飽きてきてカップラーメンの味にげんなりしつつ、ベッドにもぐりこんだ。