名前
『オイシイ』
インスタントスープ(昨日スーパーの跡地から持ってきたもの)をお湯を沸かして入れて、マグカップを持たせると、最初はおそるおそる、そして慣れてくると嬉しそうに飲み始めた。
「君の名前は?」
『ナマエ?』
「他の人が君を呼ぶとき、なんていう?」
名前ときいて、首をかしげる彼女に説明すると、しばらく考えたのち
『ナイ』
と、答える
「誰かを呼んだり、呼ばれたりしないの?」
と聞くと
しばらく考え込んで
『ナイ』
と答える。
人に名前を呼ばれたことがない、ということは、彼女はあの卵の中で一人でずっといたのだろうか。
「お父さんとかおかあさんは?」
と聞くとゆっくり首を振るだけだ。
なんだか聞くのがかわいそうになって、話題を変える。
「あの卵みたいなやつって、乗り物だったの?」
そう聞くと
『しぇるたーッテイウモノ』
と答えが返ってきた。
シェルターということは、何かから彼女を守っていたのだろうか。
シールドがかかっていたということはそういう事なのかもしれない。
「シールドがかかってたっていってたけど、シールドってどういうもの?」
『しぇるたーヲ守ルタメニ発動スルモノ』
「シールドってどれくらいの距離を守るのかな?」
『…分カラナイ』
いくつか質問をしたけれども、彼女は自分のこともあの卵のこともほとんど何も分からず、あれに乗れば家に帰れる、とだけわかっていたようだ。
しばらくすると彼女がもじもじしはじめた。
「どうしたの?」
と聞くと
『トイレ…』
と言ってきた。
なるほど、トイレは使うのだな、と変に納得しながらトイレに連れて行く。
電気が通じていないので、水を桶に用意して流すようにしていたのでそれを説明すると、わかった、といってドアを閉める。
鍵も閉めたので、日常的な常識は知識としてあるのだろう。
まるでうまれたての雛のようでもあり、普通の女の子のようでもあり。
でも自分とは明らかに違う彼女が何モノなのか、わからないながらも、今日は少し遠出をしよう、と思うのだった。