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弐話『意外な展開』

  


「…あ、あの!やっぱり私…」


「駄目だ」


瑞希に有無を言わせない徹矢は、腕を掴んだまま気付けばエスカレーターを降りていた


ああ、どうしてこんなことに…!


瑞希は掴まれた右手首を見ながら先ほどのことを思い出していた








──数分前──


徹矢に無料券を渡した後、転がしたナイフを拾いに行った瑞希


「───っ」


が、拾ったハズのナイフはカランッと音をたててまた転げ落ちた


「瑞希?」


「あ、あはは……すみません。少し手元が狂っちゃいました」


そう言って、左手から右手に変えてナイフを拾う瑞希


違和感に気付いた徹矢は、ツカツカと無言で瑞希に近づいた


すると、微かに左手だけが麻痺したように震えていたのが分かった


「……怪我したのかっ」


その声は、怒っているような悲しんでいるような声だった


「え?怪我?なんのことですか」


「とぼけんな。いつだ?いつから怪我してたんだっ!」


「……………」


目を逸らし何も言わない瑞希に、徹矢は記憶を遡る(さかのぼ)


そういえば、買った本を右手に持って左手はポケットに入れていた


今思えばそれは不自然にみえる


となれば、引ったくりを一本背負いする前か?


……………まさか、あの時か!?


「…あの時、机にぶつかった時に捻らせたのか?」


徹矢がそう口から零すように言うと、瑞希の肩がピクリと動いたのがわかった


どうやら図星のようだ


「っんで言わなかった!」


「大丈夫だと、思ってて…」


低い声に肩をビクリと震わせて、申し訳なさそうに言う瑞希に少し言い過ぎたと頭を抱え反省し、冷静になるため息を吸って吐いた


瑞希からしたら呆れられたと感じとれてしまい、なんだか心が痛んだ気がした


今にでも鼻がツゥンとして涙が出そうなのを我慢している瑞希


「…行くぞ」


「───っえ?」


先ほどとは違い少し優しくなった声は、瑞希の右手首を掴んで歩き出した


引ったくり犯とナイフはやっと来た警備員に徹矢が預けた


「あ、あの!徹矢、さん?」


「…その手、骨にヒビが入ってるかもしれない。病院に行くぞ」


「え?そんな、私は大丈夫ですから!それに今手持ちが……」


「金なら俺が出す……元々、俺が巻き込んだんだしな」


その声は、どこか傷付いたように悲しそうに聞こえた


…徹矢はなんで、こんなにも辛そうにするんだろう?


不思議だった


最初に会った時から、徹矢の背中がどこか寂しげに感じていた


私の勘違いだと思ったけど、でも今も感じる


今、この手を振り払おうと思えば簡単だけど……それじゃあ駄目な気がする


瑞希がグルグルと頭で考えていると、いつの間にか一階に降りるエスカレーターに乗っていた


我に返った瑞希はやっぱりいいと何度か断ったが、その度に有無を言わさない「無理だ」など「駄目だ」などの言葉で返される


そして今に至るというわけだ


「徹矢?私、本当に大丈夫だから!」


「……俺がイヤなんだ」


また徹矢は傷付いたような声でそう言ってくるのだから、もう諦めて仕方なくついて行く瑞希


そして、外に出ると自転車置き場まで迷いなく歩いていく


すると、次第に騒がしい声が聞こえてきたことに気づき瑞希はなんとなく徹矢の真後ろに隠れるようにして歩いた


「テメェまた俺の菓子勝手に食っただろ!?」


「あっ?俺が食った証拠でもあんのか?あ”ぁん」


敦士(アツシ)竜哉(タツヤ)も食うかよ!オメェしかいねぇんだっての!!」


「あー、うるせぇチビ!」


「っんだとコラ!?」


不良達が言い合っているのを瑞希は呆れながら聞いていた


…て言うか、内容がくだらないんだけど


あまりのくだらなさに怯えていた自分が馬鹿らしくなった瑞希


その時、掴まれていた右手首から徹矢の手が放れて何故か不良達に近寄って行く


瑞希は声をかけれず気づけば徹矢がしゃがんでいる不良達の一人に蹴りを入れていた


「いってぇ!!…って、徹矢!」


「…くだんねぇことでモメんなアホ」


「あ”ぁ?そもそもテメェを待ってこうなったんだろーが!」


不良の一人がそんな言いがかりをしながら蹴られたであろう背中をさすっていた


ふと、その不良の顔が見えた私はハッとあることに気付いた


「えっ?巳透さんじゃないですか」


「……あ?誰だテメェー」


「私ですよ!“紅桜”でバイトしてる瑞希です」


私の言葉に巳透は頭からつま先までマジマジと眺めながら首を傾げる


周りの人達も何が起こっているのか把握出来ていないらしく、その光景を黙ってみていた


…あれ?なんで気付いてくれないんだろう………あ、そういえば今“アレ”じゃなかったな


「あぁ、ちょっと待って下さい」


そう言うと私は彼らに背を向けて俯き、あるものを鞄から出してセットする


「はい!これで分かりますか?」


セットが出来た私は彼らに振り向いた

 

背中くらいあった黒髪から茶髪の首筋まで短い髪へと変わっていた


茶髪の髪はウィッグで、いつも“紅桜”のバイトはこのウィッグと少しだけ男に見えるように化粧をしている


「………ああ────!!!」


やっと気付いた巳透は指を向けて叫んだ


あまりの煩く喚く巳透に、周りにいた他の不良達が耳を塞いでいた


「やっと気付きました?」


「おお、お前!!女だったのか!?」


「はい…というか、男なんて一言も言ってないんですけどね?」


クスクスと笑う瑞希を見て、巳透は多分過去を思い出しているのだろう


ハッとした巳透は「マジかよ!!」と叫んだ


「でもビックリしました。まさか徹矢の友達なんて思わなかったから」


「イヤイヤ、俺こそビックリだわ!つか、えっ?なんでコイツと一緒なの?」


巳透は、コイツと言いながら徹矢に指差した


瑞希はなんと言ったらいいのか分からず、苦笑いを浮かべた


首を傾げる巳透は瑞希から徹矢へと視線を移す


「──っ!?」


視線を向ければ何故だかかなり不機嫌になっている徹矢の姿があった


しかも巳透のことをかなり睨んでいた


なんだか気まずい雰囲気になりそうな所で、先程まで黙っていたもう一人の男が瑞希の異変に気付いた


「あれ?その子の左手、なんか変じゃない?」


そう言ったのはついさっきまで巳透とくだらない喧嘩をしていたフワッとした可愛らしい男の子だった


「えっ?あ、いやこれは……」


「俺のせいだ」


「「えっ?」」


歯切れの悪い瑞希の言葉を遮った徹矢の発言に巳透ともう一人は驚き固まってしまった


「ち、違います!これは私の不注意で…」


「俺のせいなんだよ!……女から俺を助けようとして怪我した」


「えっ!女ってあのクソ女か!?」


徹矢の言葉に更に驚いて聞き直した巳透に頷く徹矢


「俺が別れ話をして終わった気でいたら、コイツと一緒に居るのを見られた」


先程起きた出来事を徹矢は巳透達に軽く話した


その間、瑞希はウィッグを取って鞄の中に入れ直していた


「だから、これは俺の責任だ」


「……はぁ。相変わらずだな、お前は」


決意に満ちた瞳に、巳透は溜め息をしながら頭を抱えた


「徹矢は一度決めたら頑固だからなぁ」


そう言ってケラケラと楽しそうに笑うもう一人の徹矢の友達


そして残りの不良達は……


(病院連れてけよ!)


と、けして口には出さないが心の中で突っ込んでいた


(面倒臭い事になった…)


瑞希は震える左手を抑えながら成り行きをみていた


もう諦めたのか、逃げることも言い訳をするのも止めた瑞希に一人の男が近付いてきた


「なぁ、名前なんて言うの?」


「えっ?…瑞希、です」


「俺、鈴三(スズミ) 涼太(リョウタ)宜しくな!」


どうやら先程までの可愛らしい男の名前は鈴三涼太と言うらしい


「どうも…」


「じゃあ、行こっか!」


「えっ?」

   

話が急過ぎて頭がついていかない瑞希をよそに、涼太は怪我のしていたい右手首を掴んで歩き出そうとする


「あ、あの?!行くって、どこに…!」


「ん?どこって…そりゃ病院っしょ」


そしてそのまま、私は病院へと連れて行かれた


徹矢と巳透さんが私の付き添いとしてタクシーで病院に行き、後の涼太君達は二人のバイクを先に持ち帰るとか言って「じゃ、またねー」と涼太君は手を振って見送ってくれた


タクシーに乗り込んだのはいいものの、徹矢と巳透に挟まれて居る瑞希は疲れていたのか、数分で眠ってしまった


……巳透に寄り添う形で


「……なんだ、コイツ。寝ちまったのか」


瑞希の寝顔をみて、巳透は何故だか微笑ましくなり面白半分で頬を軽くつついてみる


(意外とやらけぇな…)


もう暫くこの感触に浸っていたいと思っていると、どこからか手が伸びてきた


「…起きるだろ」


徹矢は巳透の手を払うように瑞希から退けると、自分の肩に引き寄せた


そしてその顔は、どこか不機嫌に見えたのは巳透の間違いだろうか


「……お前、まさかコイツのこと…」


「…だったらなんだ」


「っ!」


巳透は驚いた


女に興味が無く、恋愛というものにも興味を示さなかったあの徹矢が、今日一日会っただけの瑞希に好意を示している


信じられない……と、言いたいが瑞希なら有り得るかもしれない


あれは二年前のこと、巳透は20歳で少し荒れていた


徹矢の次に強かった巳透は、暴れれば誰も止められなかった


なのにある日、たまたま立ち寄った店のの前で暴れ出した巳透を止めたのが瑞希なのだ


『きゃっ!』


たまたま、投げた空のビール瓶が一般の女に向かって飛んでいってしまったのだ


気付いた時にはすでに遅く、パリーンと激しい音を立てた


しかし、当たったと思われた女は無事で割り込んで来た少年の背中だけが視界に入っていた


エプロン姿で白いシャツを腕まで捲り上げていた店の店員らしい少年の左足は赤色の液体が流れ出ていた


どうやら足でビール瓶を地面に叩きつけたらしい


『何してるんです!!女性に当たったらどうするんですか?!』


少年は、自分の足の心配より見ず知らずの女の心配をしてた


巳透はそれをみて暴れることを止めた


その後、巳透は少年が働く店に通い詰め常連客となっていた


『アレ?巳透さん、また来たんですか?もう綺麗に治りましたから来なくて良いですよ』


『ウッセェ!誰がテメェの怪我を心配して来てるっつった!!俺はただ、ここの飯を食いにだな…!』


『はいはい。それもう何回も聞きましたから』


『あぁ!?』


『しかも毎日のように来るから、すっかりここの常連客ですからね。巳透さん』


『~~~っいつかシメてやる!!』


今思えば、あの少年は今目の前に居る女の瑞希なんだと巳透は溜め息が出そうになった


(…女って知ってたら、もっと…)








・・・─────優しく女扱いしてやったのに








(…って何考えてんだか)


巳透の瑞希に対する気持ちが変わり始めようとした瞬間だった  

   


 

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