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ガオラ

コールランド大陸。台形のような形をした世界最大の大陸を東西に二つ、大国が座している。


西に領土を持つ皇国。東に領土を持つ帝国。


皇国。彼の国は独特の文化を持つ、侍という戦士が治める国だ。帝国とは何度も衝突を繰り返しその都度幾人もの人が死んでいる。今も昔もそれは変わらず数百年争い続けており、帝国では彼らを野蛮人の国と呼び、忌み嫌っている。



コナイ村は帝国領の西端、そんな野蛮な国との国境付近にある村である。大陸の南側とはいえ村の近くが戦場になることはそう珍しくもないのだという。


そんなこの国に属する者なら知っていて当然だとでも言うようにガオラは疲れたようになって説明を終えた。


「あとの詳しいことは俺は知らないよ。帝都にでも行けばもっと詳しい事は分かると思う。さあこれでいいだろ?早くその危なっかしいもんをしまってくれよ!」


ガオラは現在とても危険な状態にあった。森で狩りをしていたら突然、背後から剣を突きつけられたのだ。挙句、ここはどこだ?と意味不明な事を聞いてくる。


最初は盗賊の類だと思ったが、どうも様子が違う。


殺意は感じるもののどうやら殺されることはないようだ。まあサクッと刺されるかも知れないが。


「帝都はどこにある?」


剣は引かれず、質問は続く。


「ここからひと月と半月走ればたどり着くよ」


直線距離ならば。と付け加える。


「お前の家はどこだ?」


「は?」


ガオラは不意にそいつを見た。


そいつは、あまりにも若かった。ガオラは現在17になるが、間違いなくそいつはガオラより若い。と言うか男なのか女なのかもわからなかった。


少年のようにも見えるし少女ようにも見える。幼さを残す中性的な顔立ちはなかなかに美形と言える。


「うちに来るの?」


それは勘弁してもらいたい。美形ではあってもいきなり人に剣を突き立てるような奴を誰が家に招きたいだろう。ガオラはごめんだった。


「とりあえずお前の村は近くにあるんだろ?そこに連れて行け」


ガオラは嫌そうな顔をした。けれども剣の威圧感には敵わない。これは仕方なく、脅されて連れて行くのだと自分自身を納得させることにした。仕方なく。


嘆息しつつガオラは先導し始める。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「ところであんた、どこから来たんだよ」


ガオラの問いは仏頂面で返された。とりあえず剣はすでに背中の鞘に収められており多少状況は改善してもらえたことにから寒い感謝する。


返事はない。しかし視線は常にガオラの背に突き刺さっており予断を許さない状況だ。


なぜ俺がこんな目に合わなきゃならない?


背後の男女だか女男だかわからない奴に言葉にならない、と言うか出来ない恨み事を延々と連ねる。それがガオラの出来る精一杯の反抗だった。


鬱蒼と茂る森に道などない。しかしガオラには迷う様子は無く淡々と道無き道を行く。


風景は一向に変わらず、森を出る気配はない。


進み続けてどれくらい経っただろう?ようやく木々も途切れ始め木漏れ日も大きくなり始めた。


「もうすぐ着くよ」


ガオラは久しぶりに口を開く。どうせ返事などないのだろうけど。


けれどそれは妙な問いに阻まれることになる。


「お前の村は常に何か燃やしているのか?」


「は?」


何を言っているんだこいつは?苛つきを覚えながら肩越しに振り返ると、すでに剣は抜かれており切っ先はこちらに向けられている。


「僕を騙したのか?」


剣が段々と近づいて来る。ガオラは手と首を全力で振り違う!と声を上げる。


「何が違うんだ。木が燃える匂い、それに血の匂い」


血?


血の匂い?


ガオラの脳裏に過ぎったのは怖気がする想像だった。彼は目の前の狂人を無視して走り出した。自分の生まれ故郷に向かって。


「あ、待て!」


背後でそんな声がしたがその声の主などこの際どうでもいい。背後から切りつけられるかも知れない。だがそんな事より自分の想像が杞憂であって欲しい。そう願いながら彼は村へと至る道を全速力で走り抜けた。


のどかな村だ。森が、近くの山々がこの村を戦場にする事を避けてきた。これまでも、そしてこれからも。コナイ村が戦場になることはない。そう信じてきた。そう信じていたかった。


だからこそその光景はにわかには信じられないものだった。


村が燃えていた。


鎧を着た人間が泣き叫ぶ村人に切りかかっていた。村のいたるところで人が倒れている。斬りかかる人間は笑い声をあげている。


「やめろ」


それは陳腐すぎる表現ではあるが、地獄。


「やめろおおおおおおおおおっ!!!!!」


そう形容せざるおえない惨状だった。


今まさに切りかからんとする鎧の男に向かってガオラは狩猟用の矢を放った。


矢は男の脇腹へと突き刺さり、苦悶の声を上げ男は崩れる。が倒れてはくれない。


「あんた、早く逃げろ!」


ガオラの声に呼応するように女はその場から走って逃げようとした。が、次の瞬間、現れた違う鎧の男に女の逃げ道は塞がれ、そして男の持つ剣が女を切り裂いた。


「あーあー、何やってんだよお前は」


今しがた現れた男が射られた男に笑いかける。矢は無造作に引き抜かれた。


「クソが!獲物のくせに、一丁前に反抗しやがって!!」


確かに矢は突き刺さった。しかしそれは鎧に阻まれ致命傷にはならなかったのだろう。ガオラは冷静に、なら頭を狙えばいい。そう考えた。


逃げる。そんなことはありえない。ガオラは再び弓を構える。次は頭を。引きしぼる手に汗が滲む。


外さないように。狙いを澄ませて。


ガオラ自身、ここまで集中するのは初めての狩りをした時振りだった。自身の出来る極限の集中。だからだろう。自分の背後に白刃が迫っていた事に気が付かなかったのは。


鮮血が舞う。ガオラは感じた事のない鋭い痛みを背中に感じながら、身をよじって切りつけてきた相手に矢を放つ。


しかし矢は無情にも宙を切り裂くだけ。男はすでに二撃目の態勢に入っていた。


ガオラの頭によぎるのは幼い頃から今までのたった17年の思い出。これが俗に言う走馬灯というやつだろうか。わかっていたことではあるがあまりにも風情がない。


まあ、風情もクソもないのは承知ではあるが。


男の剣が、ガオラを再び切り裂いた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







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