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青空をつかむ闇   作者: ジーン
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第二十一話 決着

「お前が父さんを!」


 亜王はこころの底から怒りがこみあげてくるのを感じていた。

事あるごとに亜王を蝕むトラウマ、自分の前で起こった悲劇、あの日からずっと探し続けていた相手の前についに自分がたどり着いた。

今思えば、亜王の父は決して亜王には伝えなかったが、世界が天候操作システムにより混乱させられることを知っていたのだろう。

悪に対峙し続けた男はこの世から抹消された。


「俺がお前の父親を肉塊に変えたんだ! 復習してみろ! どれだけの牙を持つか楽しみで生かしておいたんだ!」


 いつも悪夢の中でこだましていた声が、今は現実の世界で亜王を包んでいた。

志紀という男は殺しに取りつかれていた。

亜王は一度目を閉じ深く呼吸した。

疲労で悲鳴を上げている体の隅々にありったけの酸素を送り込む。

再び彼が顔を上げた時には、彼の目に怒りの色はなかった。

亜王の頭は必死にこの状況を打開するために働いていた。


「憎いさ。でも、今の俺はそんなものより重いものを背負っているんだ」


 亜王はそう言って銃を構えた。

志紀も亜王とほぼ同じタイミングで銃を構えた。

亜王はアレックスに体当たりし、倒れこみながら引き金を引いた。

亜王たちは床に倒れこんだ。

二人はすぐさま机の裏に隠れた。机にもたれかかりながら亜王が顔をのぞかせ様子をうかがう。

亜王が撃った弾は志紀の顔をかすめていた。

流れ出る血とともに志紀の顔には笑みがこぼれていた。

亜王は自分の手が震えていることに気付いた。

まぎれもなく死の恐怖だった。

彼の頭はフル回転していた。

しかし思考を焦りが妨げた。

このまま殺されるのだろうか。

それだけは絶対に嫌だ。

でも、ただ飛び出して撃ちあっても殺されるだけだ。

近づいて来ているぞ。

どうする? 

そんなことが頭の中をぐるぐるとまわっていた。

足音が一歩ずつ確実に近づいてきている。

亜王の頭の中で一筋の光がきらめく。

思考が一つの方向へ向かっていく。

亜王たちがいる位置は志紀とキリルからは死角になっている。

そのため、志紀は警戒しつつゆっくりと近づいてきていた。

亜王はケリーからもらってきたグレネードを取り出し、グレネードについているピンを引き抜いた。

しかし、すぐには投げず一呼吸置いた。

そのあと机の陰から身を乗り出し、志紀のいるところ目がけ投げた。

亜王はすぐさまアレックスの腕を引っ張り志紀達がいる方向とは真逆に飛び込んだ。

その直後、亜王たちの後方でグレネードが爆発した。

爆風でさらに亜王たちは飛ばされ、机の列に突っ込んだ。

二人は体の痛みを押し殺し立ち上がった。

おそらく敵は混乱しているはず、このチャンスを逃せば絶望的だ。

案の定、志紀は顔を抑えてのたうち回っていた。

どうやら目がつぶれてしまったようだ。

グレネードを持っていることまでは予測できなかったのだろう。

天候操作システムのコンピュータは一番奥にあるため、爆発のダメージを受けていない。

キリルの姿は見えなかったが、そんなことを考えている余裕はなかった。

二人は一目散に瓦礫の山を掻き分け、コンピュータのもとへ向かった。

だが、素人が考えた即興の作戦など、たかが知れていた。亜王たちの前にキリルが立ちはだかる。

彼は無傷だった。

彼は両手で大きな銀色の銃を持っていた。

その規格外に大口径な銃口が亜王たちに向けられる。


「消えろ!」


 キリルはそう叫び、引き金を引いた。亜王はロシア語の意味は分からなかったが危険は察知した。

キリルの持っている銃の銃口が光り、青白い光が亜王たちを襲う、間一髪、亜王たちはキリルの言葉に反応し左右に飛んでいた。

亜王たちの間すれすれを青白い光が通過した。

通過したところにあったものは文字通り消し飛んだ。

亜王の靴のつま先部分が指ギリギリのところでなくなっていた。

亜王はその威力に恐怖した。


「立ち上がって銃を捨てろ。さもなくば、消す」


 キリルが部屋中に響き渡る声でそう言った。

アレックスがおびえた声で亜王に通訳した。

亜王はなす術なく銃を自分の足元に置き、立ち上がって手を上げた。

アレックスも続いて立ち上がり、手を上げた。


「驚いただろう? 最新のプラズマガンだ。触れたものを原子に変える代物だ」


 キリルが勝ち誇ったように不気味な笑みを浮かべながら言ったことを亜王はアレックスに通訳してもらった。

当たれば原子まで分解される銃など聞いたことがないとアレックスは悪態をついた。

確かに規格外な銃だが、亜王はペンタゴンの極秘ファイルにその事項を見たことがあった。

銃の射程は二十メートル。

亜王たちの後ろの壁に開いた穴が示す通り、この部屋はどこにいてもプラズマガンの射程圏内だ。

一回のチャージに三十分程かかるのが難点だが、4発まではチャージなしで撃てる。

さっきの一発を引いてもあと三発、正直絶望的だと亜王は思っていた。

策はもうない。

ECMもこの距離で使えば天候操作システムに影響が出る。

メアリーは敵の領空にいるため、いつ攻撃されてもおかしくない。


「裏切り者のお前にこんなことが通用するのか疑問だが、この日本人の命が大事ならパスワードを解け」


 キリルの言葉を亜王に訳した後、アレックスは亜王に大きくうなずいて見せた。

銃口は相変わらず亜王に向けられている。

アレックスはキリルのすぐ後ろにあるコンピュータの前まで歩いて行った。

キリルが顎でコンピュータを指しパスワードを解けと、きつい口調で命令した。

アレックスのすぐ横、二メートルぐらい離れたところにキリルがいる。

アレックスの呼吸は荒く、目は血走り、体は小刻みに震え、額には汗がにじんでいた。

アレックスは一つ深く息をついた。次の瞬間アレックスはキリルに飛びかかった。

不意を突かれ、キリルはふらついた。

その瞬間を見逃さず、亜王が床に落ちている自分の銃を拾った。

すぐさま亜王がキリルの腕を撃ち抜く。

亜王の持っていた銃はブローバックを途中でやめ、弾切れを知らせた。

腕を撃ち抜かれたキリルは重量のあるプラズマガンを床に落とした。


「くそっ、貴様らの好きなようにはさせん」


 キリルはアレックスを殴り飛ばし、コンピュータのすぐ横にあったスイッチを押そうとした。

キリルの指がスイッチを押し込む瞬間、亜王がECMのスイッチを押した。

ECMの効果により周りの電子機器の電源が強制的に落ちるよりも一瞬早く、キリルはスイッチを押していた。


「もう終わりだ。北米大陸の西海岸に衛星が落ちる」


 キリルは狂ったように笑っている。

落ちてきたら自分の命もないというのに、正気の沙汰ではない。

彼は笑い続け、突然白目をむいて失神した。


「アレックス、今すぐにコンピュータを再起動しろ!」


 亜王はウォーカーから渡された携帯を取り出しながら叫んだ。

彼は焦りで震える手を何とか制御しながら携帯を起動させた。

画面には携帯会社のロゴが流れ、読み込みを始めた。

コンピュータからアンテナに信号が送られ、アンテナが水面に姿を現してから衛星に信号を送る。

このタイムラグの間に止めることができれば阻止できる。

だが、コンピューターの起動を待っていれば間に合わないだろう。

狙うとしたらアンテナの方だ。

電波を受信しているのを確認し、すぐさまメアリーに電話をかけた。

コールしたかしていないかわからないぐらいのタイミングでメアリーが電話に出た。


「今すぐにアンテナを破壊してくれ!」


 亜王は半分祈りを込めてそう携帯電話に向かって叫んだ。


「今すぐ? もう少し待て!」


 メアリーは絶妙に機体を操作しながら返した。

彼女は二機の無人戦闘機に追われていた。

もうその無人機は弾切れではあったが、F・Aに対して何度も体当たりを繰り返していた。

はじめは五機いた無人戦闘機はメアリーに三機ほど沈められていた。

しかし、メアリーも残る武器はファランクス・ミサイルのみだった。

メアリーは旋回し、離れてしまったスペリオル湖上空を目指した。

スピードで勝る無人戦闘機が後ろから迫る。

湖面を裂き巨大なアンテナが姿を現していた。

目標をロック・オンし、ファランクス・ミサイルを投下する。

轟音とともにアンテナが跡形もなく吹き飛び、スペリオル湖は激しく波打った。

その直後、メアリーの乗っているF・Aは、後ろから爆風に飲み込まれ、バランスを失った。

しかし、メアリーの華麗なテクニックにより、F・Aは水平飛行に戻った。


「大丈夫かメアリー?」


 無線に気付き後ろを振り返るとアメリカ軍の戦闘機が四機、メアリーを追うように飛行している。

旧友との再会だった。

アンテナの破壊には成功した。

だが、状況は好転しなかった。


「まずい」


 アレックスがコンピュータの画面にかじりつき、苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

間に合わなかったのだ。

衛星の落下が始まっている。

その時、ふらふらとケリーが部屋に入ってきた。

亜王はメアリーとケリーに手短に事情を説明した。

アンテナはもうない。

あったとしてもここからの操作では止まる状況でもない。

残された道は衛星の破壊一択だった。


「ファランクス・ミサイル一発で火力は足りるのか?」


 亜王が言った。


「その他に、我が国きってのトップガンと最新鋭の機体がそれぞれ四機。異論はあるか?」


 メアリーがそう返した。


「それなら何とかなると思う。私が爆破位置を出すからメアリーに伝えて」


 ケリーはそう亜王に伝えてアレックスのところまでふらふらと歩いて行った。

亜王はその旨をメアリーに伝える。

ケリーはアレックスに衛星の様々なデータを見せてもらった。

重さ、大きさ、落ち始めた位置、大気圏への進入角度など、一般人からすれば膨大な量の情報を彼女は頭に叩き込んだ。

すぐさま位置の計算に入る。

しかし、ケリーの思考力は確実に低下していた。

出血の影響だろう。

しかし、彼女は必死に考えた。


「メアリーはN48度47´28、W100度03´52の上空313㎞から、ほかの人たちはそこから東に10㎞離れたところの上空256㎞から、ミサイルを今から十二分後に撃って。撃ったらすぐに離脱して」


 ケリーが導き出した希望を亜王が復唱しメアリーに伝えた。

メアリーからは軍人らしい返事が返ってきた。

亜王もコンピュータの近くまでやってきた。

次の瞬間、ケリーは糸が切れたように崩れ落ちた。

かろうじて亜王が受け止める。


「大丈夫か?」


 そう行った亜王の手にはケリーの血がべっとりと着いた。


「ちょっと疲れたかな」


 彼女は青白い顔で弱々しく答えた。

亜王はケリーの手を握り祈った。

アレックスはコンピュータのー画面を食い入るように見つめている。

衛星がしっかり破壊されれば、衛星の所在を示す画面に「LOST」と表示されるはずだ。

ここに残された三人には祈ることぐらいしかできなかった。

亜王たちの目の前には大きな窓があった。

この十二分間がどれだけ長く感じたかは計り知れない。

パニック映画でラストを飾れそうな巨大な火の塊がはるか上空に確認できた。

火の塊はだんだんと大きくなってきた。

爆破はまだか。

そんな言葉が亜王の頭の中をぐるぐると回っている。

自分一人だったら一目散に逃げ出していただろうと彼は思っていた。

無意識のうちにケリーの手を握る手に力が入る。

一筋の大きな閃光があたりを照らした。

遅れて地鳴りのような轟音が空気を震わせた。

同時にコンピュータの表示が「LOST」に変わる。

アレックスは拳を握りしめ雄叫びを上げた。

亜王も歓喜のあまり叫んだ。

亜王がケリーの顔を見ると、彼女は弱々しくも美しく亜王に微笑みかけていた。

その表情を見て亜王は涙を流した。

爆破の被害は最小限に食い止められた。

公共機関がストップしたが、奇跡的に死者は出なかった。

それとほぼ同じタイミングで、反ハーディー派のアメリカ軍がペンタゴンとホワイトハウスに乗り込み、ハーディー派を確保した。

これにより、入院中の大統領に全権が戻る形となった。

爆破成功から一時間後、四人は感動の再開を果たした。

メアリーは亜王、ケリー、アレックスとそれぞれ抱き合った。

四人はその後病院に搬送された。

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