第二十話 女たちの決着
亜王たちを待っていたのは二人の男だった。
亜王たちがたどり着いた部屋はワンフロアを貸し切った会社のオフィスのような場所だった。
エントランスなどの監視カメラの映像と天気図以外はいたって普通の会社のようだった。
パソコンにデスク、コーヒーメーカー、とてもテロ組織の本拠地には見えない。
奥にある扉の向こうに殺戮のための道具が詰め込まれているのだろうか。
「キリル!」
アレックスはそう嫌悪感をあらわにして叫んだ。
「知ってるのか?」
亜王は銃を構えたままアレックスとエレベーターを降りながらそう言った。
「天候操作開発チームのリーダーさ」
アレックスがそう苦そうに言うと、こらえていたものが噴き出したようにキリルは笑い始めた。
しまいには額に手を当て大笑いした。
志紀も隣でくすくすと不気味に笑っている。
「お前にロックをかけられた時には絶望したぜ。だが、こうも簡単に舞い戻ってくるとは」
亜王には理解できない言葉だった。
天候操作の技術を販売し、莫大な金を手に入れようとしていた彼らにとって、コピーが取れないというのは致命的な問題だった。
ともに開発した技術者は逃げ出したり、自らの手で殺してしまったりしてしまったため、一から作るのも困難を極めた。
金銭的な問題もある。最初の開発はロシア政府の金を使っていたのだから。
キリルは亜王を殺すように志紀に指示を出した。
「さて、やっとお前を殺せるぜ。いつの日か俺の喉元にナイフを突きつけると思って生かしておいてやったんだ。楽しもうぜ」
志紀は気色悪い笑みを浮かべそう言った。
亜王の背筋には寒気が走った。
一方そのころエントランスでは血と硝煙のにおいの中、張りつめた空気が流れていた。
誰が合図したわけでもないが、ケリーとメグは同じタイミングで相手に向かって突進した。
お互いの間合いに入る。
ナイフを持っているメグが先に手を出す。
急ブレーキをかけてケリーがのけぞりナイフをかわす。
ナイフはケリーの鼻先をかすめた。
のけぞった勢いを殺さず、ケリーはメグの顎を蹴り上げた。
壁にぶつかったようにメグの頭が後方に弾け倒れた。
ケリーは蹴った勢いそのまま、後ろに華麗に宙返りをした。
おそらく口の中を切ったのであろう。
起き上ったメグの口からは血が垂れていた。
口にたまった血をメグはその場に吐き捨てた。
ケリーはかなり大きく肩で息をしていた。
明らかに腹部にあいた穴がケリーの体力を削っていた。
メグに容赦はなかった。
自分の体に刻まれたどうということのないダメージを確認して、再びケリーに襲い掛かった。
次の刹那、ケリーが繰り出した頭部への右ストレートとメグが放つ腹部へ向けて突き出されたナイフが交差した。
メグは数歩後ずさった。大きく悲鳴を上げたのはケリーの方だった。
メグのナイフが弾丸によって空いた風穴に重なるように刺さっていた。
出血の量が増えた。
ケリーは耐えかねてその場にうずくまってナイフを握った。
「ずいぶんとしぶとかったけど、もう終わりね」
メグはとどめを刺そうとナイフを握りなおした。
ケリーは苦しそうにうめいている。
ゆっくりとケリーに近づいた。
ついにナイフを振り下ろせばケリーに突き刺さる位置まで来た。
「さよなら」
メグがナイフを振り上げる。
「生きたい……」
ケリーは歯を食いしばりそうつぶやいた。
メグの動きが一瞬止まる。
「命乞い? ありがとう。そういうの最高に興奮するわ」
メグがそう言ってナイフを振り下ろそうとしたとき、ケリーは突然力を振り絞り逆立ちした。
メグが面喰っているうちに、ケリーは首に足をからませメグの体を投げた。
メグはケリーの足に巻き込まれるように回転し、床にたたきつけられた。
メグは受け身をとれず激しくせき込んだ。
メグが反撃しようとしたときにはすでに、ケリーが自分の腹部から抜き取ったナイフがメグの喉に深々と突き刺さっていた。
ケリーはためらうことなくナイフを抜き取り、そのまま床に仰向けに転がった。
メグの首からは命の鼓動とともに血液が噴き出していた。
ケリーは何とかジャケットを脱ぎ、シャツをめくって止血剤を傷口に張った。
ケリーは高い天井を見つめていた。
いろいろな思いが彼女の心の中で渦巻いている。
その中でも一番強かったのはこんなところでは死ねないという思いだった。
もう一度四人そろって笑いたいと、心の底から思っていた。
死にたくないとは思っても生きたいと思ったことのなかった彼女が、初めて感じた生への執着だった。
その思いだけが彼女の意識を繋ぎ止めていた。
メグは何も発することなく息絶えていた。




