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青空をつかむ闇   作者: ジーン
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第十八話 上陸

 岸壁に突き刺さるように停泊する潜水艇の上部ハッチが開き、しばらくして亜王たちが中から出てきた。

アメリカの大地に彼らはついに立った。

服は正装から戦闘用の服装に変わっている。

亜王は父親にもらった銃を胸のホルスターに収めていた。

ケリーは武器のつめられたボストンバッグを肩からかけている。


「メアリーに連絡しなくちゃ」


 ケリーはそう言って胸ポケットから携帯電話を取り出しメアリーに電話をかけた。

3,4回コール音が鳴る。

メアリーはコンクリートで囲われたF・Aの格納庫の中で壁にもたれかかり煙草を吸っていた。

メアリーも胸ポケットから携帯電話を出し、通話ボタンを押した。


「やっとか? 待ちくたびれて寝ちまうとこだったぜ。何分後だ?」


 メアリーが話すたびに紫煙が漂った。


「六十分後にスペリオル湖の上空にいて」


 ケリーは久々にメアリーの声を聞いて安心したのか少し表情を緩ませた。

今日はいろいろなことが起きてケリーの笑顔をあまり見ていなかった亜王はそれを見て少し安心した。

メアリーは空軍にいた時と同じようにケリーに返事を返した。

その時、アレックスがメアリーと話したいと申し出た。

ケリーがメアリーにその旨を伝え、アレックスに携帯電話を渡した。


「や、やぁ、元気か?」


 口調からやけに緊張していることがわかる。


「今のところは……な。何か用か?」


 メアリーは煙を吐き、煙草を指で上に弾き飛ばした。

そして、それが床に着くか着かないかのところで踏みつけ、火を消した。


「え? あぁ、その……、お互い頑張ろう」


 アレックスはおどおどしながら言った。


「用がねーなら変わるんじゃねーよ。時間の無駄だろ? ブルーは元気か?」


 メアリーはそう言いながら、自分の左後ろにあるレバーを下した。

すると、F・Aの機首がちょうど外に向くように壁が開き、その反対側もブーストに備え開いた。

F・Aを頭からなでおろすように風が流れ込んでくる。


「彼は元気だよ」


 アレックスは亜王の顔を見ながら言った。

メアリーはケリーに代わるようにアレックスに言った。

彼女はケリーと作戦の最終確認を行った。

通話を終え、深い息を一つ着き、メアリーはF・Aに乗り込んだ。

ヘルメットをかぶり、そこからコードを伸ばして携帯電話につないだ。

彼女は携帯電話を胸ポケットにしまい、目の前のいくつものスイッチを入れF・Aを起動させた。

電子音とともに各モニターに情報が映し出される。

メアリーは胸の前で十字を切り、人差し指にキスをした。

射出までのカウントダウンが格納庫内に響き渡る。

F・Aの前につるしだされた信号が青に変わる。

メアリーはブースターの出力をフルスロットルにした。

メアリーの体にものすごいGをかけ、カタパルトはF・Aを射出した。

その力を利用し、F・Aは空の彼方へと飛んでいった。

電話が切れた後、アレックスは余韻に浸るように電話の画面を見つめ、それからケリーに返した。


「行こう。もう引き返せないし」


 ケリーはそう言って歩き出した。


「心配するなよ。また会えるさ」


 亜王はアレックスの肩をポンとたたき歩き出した。

亜王が空を見上げると、船上での出来事が嘘のように素晴らしい青空が広がっていた。

しかし、この青空は操作されている。

亜王はこの上なく腹立たしい挑発を受けている気分だった。


「僕は自分のしたことにけじめをつける」


 さっきまでとは打って変わって一片の曇りのない、決意の表情を浮かべたアレックスが亜王の隣に並んでいた。

三人の若く小さいが、しっかりとした世界の砦は他のものには目もくれず目的地を目指した。


 メアリーは不気味に伸びる国境線上の雲と並行して飛行していた。

雲の間には時折雷がほとばしり、雲の下はハリケーンのごとく暴風雨が舞っている。

上空からの景色では細かいところまでわからないが、木に看板、さらには家の破片のようなものが宙を舞っていた。

雲の帯の幅はだいたい十五キロといったところか。

徒歩なんかでは到底渡り切れないが、車を使っても飛来物によってミンチになりそうだ。


「アンテナの存在は確認されているのですが、電波が送られていないときは捉えられないのです。解析の結果によると、湖の中に隠されているそうです。ケリーたちに電波を送らせますので、出てきたところを破壊してください」


 メアリーはウォーカーに出発前にそう伝えられたことを繰り返し思い出していた。

この作戦はケリーたちにも当然伝わっているだろう。

ケリーたちは絶対に成功させる。

だから、この作戦の一番大事なところは自分のタイミング次第だとメアリーは感じていた。

F・Aを操縦する手に力が入る。首謀者の拘束も重要だが、システムを破壊する方が重要だ。

次の瞬間、突然雲が途切れた。

スペリオル湖の上空に着いたのだ。

眼下には静かに波打つ湖面が広がっている。

メアリーは高度を下げあたりを旋回した。


「位置的にはここだな」


 メアリーはそうつぶやいた。

あたり一面水面が広がっていて大型のアンテナなど見当たらなかった。

突然、レーダーが機械音を上げて危険を知らせた。


 ケリーたちはメアリーに危険が迫る少し前に目的地についていた。

フリーダム・タワーと呼ばれるその高層ビルは、アメリカ同時多発テロの追悼のために、グランド・ゼロに建設されたものだった。

亜王たちはその正面入り口前に堂々と立っていた。

亜王はこの作戦が始まる前になぜアレックスが追われているのか尋ねたことがあった。

というのも、完成した技術のために逃げ出した研究者がどうして必要なのか気になったのだ。

答えは簡単だった。

アレックスは逃げ出す直前に天候操作の技術をコピーできないようにロックをかけ、一つのコンピュータの中にしまったのだ。

アルファベット二十文字と数字十二文字からなるパスワードが必要だと彼は言ったが、彼自身もう覚えていないそうだ。

それもそのはず、彼はとっさにキーボードをたたいたのだから覚えているわけがない。

最後の悪あがき程度のつもりだったのだろう。

まさか、その後生き残り、再び命を狙われるとはその時は思ってもいなかった。


「本当に正面から行くんだな?」


 亜王はポケットからライターを取り出しながら言った。

アレックスは一度深呼吸をした。

心なしか、顔が青い。

自分から命の危険へ向かっていくのだから無理もない。


「小細工している時間もないしね。一気に行くよ」


 ケリーの言葉の後、三人は勢いよくタワーの中へと足を進めた。

タワーに着くまでの間もそうだったが、タワーのエントランスでは、今世界で起こっていることなどに目を向ける気はないといった感じの人々が往来している。

時代が進むにつれて、周りの人たちとの関係性が希薄化していき、他人に関心を持たない人々が増えた。

少し意識すれば、亜王たちの服装が浮いていることなど一目でわかるのだが、一部の人を除き、皆全く無関心である。


「できれば民間人は巻き込みたくないな」


 ケリーはため息交じりにかぶりを振り言った。

今回は敵地であるため、そういった配慮が全くできていない。

多少の被害は覚悟しなければならない。

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