第十七話 脱出
亜王は男のどすのきいた叫び声と人が殴られる音で目を覚ました。
彼の体は鉄製の瓶を抱かされ縛られている。
瓶の中は空っぽだった。
いまいち状況が把握できない。
気を失ってからどれだけの時間が経ったのだろうか。
「おい女ぁ! いい加減吐きやがれ!」
黒人の男が怒鳴り散らしながらケリーの首をつかみ壁に叩き付けた。
ケリーから小さく苦悶の声が漏れる。
亜王の意識はケリーが壁に叩き付けられた大きな音ではっきりした。
アレックスはケリーを叩き付けた黒人の足元で他の男に銃を突きつけられている。
ケリーは自分の首をつかんでいる男に唾を飛ばした。
黒人の男の頬に彼女の唾がつく。
男は舌でそれを舐め、笑いながらケリーの首をつかむ手に力を込め、壁にめり込むのではないかというくらいケリーの首を壁に押し付けた。
ケリーの気道は圧迫されて空気を求め弱々しく音を立てた。
男は笑っているがこめかみには血管が浮き出ている。
「ちょっと殺す気? まだ何も聞きだしてないのよ?」
女の声だった。
男はしぶしぶだったが乱暴にケリーから手を離した。
ケリーは床に崩れ落ちるように倒れ、空気を求めて激しくせき込んだ。
亜王がケリーの名前を叫ぶ。
ケリーは苦しそうに顔を亜王に向けた。
いつもの笑顔は微塵も残っていない。
先ほどの声の主は亜王の意識が戻ったことに気づき亜王の横にあるベッドに腰掛けた。顔中に絆創膏が痛々しく張られている。
その女はメグだったが、もう穏やかな表情はかけらもなかった。
亜王の前には金ばさみの突き立てられた火鉢が置かれた。
その中には高温で赤々と光る石がいっぱいに詰められている。
メグは亜王の髪をつかみ無理やり自分の方を向かせた。
「私の顔をこんな風にした罪は重いわよ」
そう言ってメグは捨てるように亜王の髪を放した。
「あの女、なかなか今回のことについて話してくれないのよ」
メグはため息をつき、赤々と光る石を一つ取り出しながら言った。
どうやらベンから作戦の詳細までは入ってきていないようだ。
とはいえ、この場をどうにかしないとこの作戦は失敗に終わる。
黒人の男が床にケリーを押さえつけ髪の毛をつかみ亜王の方へ首を向かせた。
「口の堅い人って、周りの人が苦しむのに弱いと私は思うのよね」
メグは笑みを浮かべながら亜王の抱えている瓶の中に熱せられた石を入れた。
もはやメグの笑みに対しては嫌悪感以外のものは感じられなかった。
「まだ余裕よね?」
メグはそう言って五、六個の石を次々に入れた。
瓶の底は石でいっぱいになり二段目に入っていた。
さっきまで暗かった瓶の中が赤々と光っている。
次第に瓶の表面にも熱が伝わっていく。
ふくらはぎ、内腿、そして股間が焼けるように熱い。
亜王は耐え切れず叫び声を上げた。
ケリーは思わず目を閉じた。
アレックスも表情をゆがめていた。
「これでも言わないの? 早くしないと大事な人の大事なところが使えなくなるわよ?」
メグは確実に楽しんでいた。
ずいぶん古典的なやり方ではあるが、間違いなく効果的だった。
亜王の表情はだんだん苦悶に満ちていく。
亜王は気づかれないように――といっても皆ケリーをいたぶるのに忙しいようだが――アレックスに目配せした。
それに気づいたアレックスも眉毛を動かし合図した。
亜王がメグに単独で仕掛けた作戦より成功率はかなり低い。
それでもただ秘密を話して殺されるわけにはいかなかった。
もう世界大戦の火ぶたは切られたに等しかったが止めなければならなかった。
亜王はタイミングを計っていた。
メグ、ケリー、アレックスをそれぞれ押さえつけている男たち、その三人の目線がケリーに集まる瞬間、それを狙っていた。
そしてチャンスは訪れる。亜王は思い切り体を自分の前にある火鉢にぶつけた。
赤々と光る石が床に転がる。
ケリーを抑えている男、アレックスに銃を向けている男、そしてメグは亜王の行動に驚き一瞬の隙ができた。
その瞬間をアレックスは見逃さなかった。
彼は自分に銃を向けていた男を突き飛ばし焼かれた石の上に倒れさせた。
高温の石に触れた男のタキシードから火が上がる。
倒れた男は銃を手放し、床の上を、悲鳴を上げてのたうち回った。
アレックスが男の手放した銃を拾い上げる。
黒人の男が銃を拾ったアレックスに掴み掛ろうとケリーから離れた。
瞬時にケリーが跳ね起き、黒人の太腿に鋭い蹴りを入れた。
ハイヒールの鋭いかかとが深々と肉に突き刺さった。
男は短く声を上げ、床に膝をついた。血が勢いよく出ている。
ケリーは素早く男の腰に手を回し、銃を抜き取った。
スプリンクラーが部屋の異変に気付き滝のように水を噴射する。
黒人の男の頭にはアレックスの銃が突きつけられ、アレックスの足の下にはもう一人の男が気を失って倒れている。
「チェック・メイト」
ケリーがメグの頭に狙いを定めて言った。
しかし、メグの顔に広がったのは負けを認める表情ではなく、満面の笑みだった。
「まだまだ甘いわ。やっぱり凡人に生死のかかったハッタリはできないわよ。そこの学者、銃なんて使ったことないんじゃなくて? 震えてるわよ」
メグの言った通りだった。
アレックスは自分の使い慣れないものには触らない主義だった。
ましてや、生死の駆け引きなどしたことはない。
「黙って壁に向かって手を上げて!」
ケリーがそう怒鳴った。
メグは笑みを浮かべたまま後ろの壁の方へ向き直り手を上げた。
ケリーが近づき何か隠し持っていないか調べていった。
早速袖の中にナイフが隠してあった。
ケリーはそれを取り出し投げ捨てた。
ナイフは宙を舞い、亜王の目の前の床に突き刺さった。
亜王は体の熱が一瞬引くのを感じた。おそらく冷や汗のせいだろう。
「惚れてるの? ロキに」
銃を突きつけられながら全身を調べるケリーにメグが小声で聞いた。
「黙ってて!」
明らかに不愉快そうにケリーは言った。
メグの声は亜王にもアレックスにも聞こえなかったため二人はケリーが怒っているのかわからない。
「可愛いわね。さっきのロキをいじめてた時のあなたの表情は最高だったわ」
くすくすと笑いながらメグがそう言った。
恐怖を感じている気配は微塵も感じられない。
「あんた、自分の立場わかってる?」
ケリーは一通り見終わって呆れたように言った。
高い鼻からは水が滴っている。
もうスプリンクラーからの放水は止まっている。
「そうね。逃げられないと見せといてスリルを楽しむ悪女ってところかしら」
自分の危機を楽しんでいる発言にケリーたちは驚いた。
その一瞬の隙を突かれた。
突然メグは身をひるがえし、ケリーの手をはじいた。
ケリーが持っていた銃が宙を舞う。
次の瞬間、ケリーの脇腹にメグの回し蹴りが決まった。
ケリーの華奢な体がくの字に曲がって床に崩れた。
彼女はすぐに体を起こしたが、メグはもうすでに部屋から出ていっていた。
ケリーが悪態をついた。
少し間が空いてドアが開き一人の中年の女性が入ってきた。
この船についたとき最初に見た人だ。
ケリーが素早く銃を拾いその女に向ける。
中年の女性に続き二人の男が入ってきた。
「もう一人いたでしょ? 性悪女が」
その女は銃口など気にせず言った。
女に続き入ってきた二人の男はアレックスが何とか動きを止めていた二人の男を縛りあげた。
アレックスは事態を飲み込めていないようだった。
もちろん亜王もケリーも飲み込めていない。
「逃げられたのね」
女は顔に手を当て、ため息をついて言った。
事実だけに誰も反論できない。
「それと銃を下してくれないかしら? 一応上司なんだけど」
その言葉に一番驚いていたのはケリーだった。
「あんたの顔なんて見たことないよ」
ケリーは銃を下さず警戒したまま言った。
「じゃあ確認しましょう」
女はそう言って携帯電話をケリーに渡した。
「盗聴されてるかもしれないんだよ?」
ケリーの意見はもっともだった。
「MI6がそんなに簡単に落ちると思うの?」
こちらももっともな意見だった。
「仲間を信用していないの?」
女はそう言ってくすくすと笑った。
ケリーは半分自暴自棄になりながら電話をかけた。
亜王はその女にケリーと初めて会ったときに感じた感覚を感じていた。
性格の悪さは互角だと彼は思った。
高い鼻と青い目が特徴的だ。年月の歩みを刻むしわがなければ、ケリーよりも魅力的だったかもしれない。
「ウォーカーです。どうしました?」
どうやら電話は通じたようだ。
微かに音が周りに漏れている。
ケリーは何も言わなかった。
本当に相手がウォーカーなのか信じられなかったのだろうか。
「ベス? どうしました?」
無言の相手を不審に思いウォーカーはもう一度問いかけた。
ベスはエリザベスの一般的なニックネームだ。
「私です」
ケリーは恐る恐るそう言った。
「ん? あぁ、ケリーですか。無事ベスと合流できたんですね」
間違いなくウォーカーの声だとケリーは確信して聞いていた。
声色に不審な部分は見られない。
どうやらベスはMI6の人間に間違いないようだ。
「この電話は盗聴されてないんですか?」
ケリーは少し声を潜めて言った。
「えぇ、大丈夫ですよ。でも、これからの連絡は渡した方の携帯でお願いします。怪しまれるといけませんからね。おっと、誰かきました。成功を祈っています」
そう言ってウォーカーは電話を切った。
「わかった?」
ベスは首を少し傾けてそう言った。
彼女がMI6の一員であるなら、一緒に来たごつい二人もそうなる。
「あなたが私たちの味方なのはわかったわ。でも何で私が顔知らないの? その年で新人?」
ようやくケリーがベスへ向けていた銃を下した。
「上司って言ってるでしょ?」
ベスは影のある微笑みを浮かべて言った。
彼女が笑みを浮かべるたびに彼女の目元と口元にしわが寄る。
彼女のしわは長年微笑み続けて刻まれたものかもしれない。
ベスは自分たちの素性について簡単に話した。
彼女たちは「暗部」と呼ばれ、MI6でも一握りの人間にしか認知されていない部署の人間らしい。
「暗部」は今回のようにMI6内にスパイがいる可能性があるときなどに行動する。
1962年のフィルビー事件の後に作られたのだとベスは言った。
「今回はMI6の中にスパイがいるのはもうわかっていたわ。だからウォーカーはそれを逆に利用したってわけ」
自分たちの紹介にベスはそう付け加えた。
「つまり、囮ってわけか?」
慣れないことをしたせいで疲弊しきり、床に座っていたアレックスが言った。
「見方によってはね。でも私たち本当は人前に出ちゃいけないのよ。あなた達の前に出るのも本当はだめなのよ。だから、ここから先はあなた達に任すわ。もうそんなに元気な年でもないのよ」
ベスはくすくすと笑いながら言った。
「なぁ、いい加減これ外してくれないか?」
石の熱はスプリンクラーのおかげで冷めていたが、亜王はまだ瓶を抱えて床に転がっていた。
ケリーが慌てて亜王を縛っていたベルトを外す。
亜王は体が自由になると一目散にバスルームに飛び込んだ。
彼はズボンをはいたままシャワーで水を勢いよくかけた。
「一応服には耐熱機能がついているから使えなくなることはないと思うけど」
ベスは嫌味な笑いを浮かべケリーに視線を送った。
ケリーは苦い顔をして視線をそらす。
どうやらベスの方が一枚も二枚も上のようだ。
ふと船室の窓の外が激しく光った。続いて轟音が鳴り響いた。
雷だ。
全員が一斉に窓の外に目をやる。
ついさきほどまで広がっていた青空が嘘のようにまっ黒な雲が空を覆っている。
「ちょっとまずいことになってきたわね」
ベスの言葉とほぼ同時に亜王がバスルームから出てきた。
股の間から水が滴っている。
この時代の技術をもってすれば完璧な防水などお手の物だ。
中まで濡れることはまずない。
「本当にいきなり天気が変わった……」
亜王が愕然としてつぶやく。
「どうやら、向こうに連絡が入っているみたいね」
涼しげにベスが言う。
それと同時に大きな雨粒が窓を叩き始めた。
メグたちが敵の潜入を伝える時間は十分にあった。
「船ごと私たちを始末するつもりだね」
そう言ったケリーの顏はさすがに引きつっていた。
恐怖と船の大きな揺れがアレックスの胃を揺さぶった。
彼は青い顔で口に手を当てている。
次の瞬間、稲光と轟音が同時に船を襲った。
大きな衝撃が走る。船に落雷したようだ。
扉の外からは悲鳴も聞こえる。
「行かなきゃ」
ケリーがそうつぶやいた。
「行くってどこに?」
亜王の股間はもう乾き始めていた。
「非常時のために潜水艇を乗せたコンテナを一緒に乗せてるの」
ケリーはそう言って口角から垂れた血をぬぐった。
手の甲に赤い色が伸びる。
「早く行った方がよさそうよ」
窓際に立ち外を見ていたベスが窓の外を指さしながら言った。
船の外では雨脚が強くなり、大粒の雨がカーテンのように視界を遮っていた。
そのカーテンの向こう側には青空が広がるという何とも違和感のある光景が広がっていたが、見る見るうちに雨のカーテンは所々小さな渦を作り、あっという間にいくつかの竜巻が生まれた。
竜巻は船を囲むようにうねっている。
「貨物室に急ぎなさい」
ベスの言葉に亜王たちは弾かれたように足を扉の方へ向けた。
踏ん張りがきかずアレックスがよろける。
亜王が心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ。メアリーが待っている。早く行こう」
ふらついていたものの、彼の目は死んではいなかった。
アレックスはドアを開け廊下に出た。
それに続き亜王も廊下に出る。
ケリーが部屋を出る直前、振り返りベスに視線を送った。
「心配しないで、私たちは大丈夫よ。うまくやるわ」
ベスは自信に満ちた笑みを浮かべそう言った。
大きな客船とはいえ、貨物室と客室をつなぐ扉は一つしかない。
ずいぶんと不便な作りだと心の中で悪態をつきながら亜王は貨物室をめざし走っていた。走っているといっても、船は波をまともに受け大きく揺れているため、まともに走れているとは言えなかった。
しばらく泥酔したようにふらふらと走り、ようやく客室と貨物室をつなぐ扉に亜王たちはたどり着いた。
扉に二重のロックがかけられているためか、船が転覆する危険が迫っているためかはわからないが、扉の前には人影はなかった。
亜王が携帯電話を使い、手際よく扉のロックを解除する。
扉の向こうには闇が広がっていた。
三人はライトを頼りに自分たちの乗ってきたコンテナを探す。
貨物室と外界とを隔てる大きなシャッター越しに風の荒れ狂う音、雨が打ち付ける音、波が船体に打ち付ける音が入り混じり、すさまじい音が奏でられていた。
「亜王、シャッターを開けてくれる?」
ケリーのライトが刺す方に地獄の門を思わせる大きなシャッターが照らし出された。
シャッターの前に並んだコンテナたちが薄暗い中でぼんやりと浮かび棺桶を思わせる。
それが余計に不気味さを強調していた。
亜王はケリーの言葉にうなずくとコンテナの間を縫うようにシャッターへと向かった。
ケリーがコンテナを探す後ろをアレックスがついて回る。
ケリーは一つずつコンテナの識別コードを確認していく。
しばらくしてライトが一つのコンテナを照らし、ケリーの足が止まった。
どうやら目当てのコンテナを見つけたようだ。
「少し離れて」
ケリーはそう言ってコンテナの側面についている電子パネルを操作した。
高い電子音がした後、電子パネルが緑色に光り、コンテナが四方に解体された。
中から流線型の黒いボディーが現れた。
ケリーは少し待っててというと、潜水艇によじ登り、上部に着いたハッチを開けて中に入った。
すぐに潜水艇の先端に付けられたライトが貨物室内をまばゆく照らした。
それとほぼ同時に貨物室のシャッターが開き、暴風雨が貨物室内に舞った。
すぐ近くに竜巻が迫っているのが見える。
次の瞬間大きな衝撃と共に今までで一番の揺れを感じ、アレックスは床に倒れた。
シャッターの方を見上げると潜水艇のライトに照らされて海面が近くに見えた。
風と雨の轟音の中、アレックスは微かな悲鳴を聞き、シャッターの方へ走り出した。
亜王はケリーたちが潜水艇の入ったコンテナを見つけたのとほぼ同時にシャッターの前についていた。
巨大なシャッターの脇に申し訳なさそうに操作パネルが取り付けられている。
亜王はすぐさまそれを操作する。
パネルに触れると開閉を示す表示が出た。
亜王が指を触れるとシャッターは金属を軋ませ巻き上げられていった。
地獄の門が段々と開かれていくたびに吹き込む雨と風が強くなっていく。
最終的には踏ん張っていないと立っていられないほどになった。
急に貨物室内が明るくなった。
潜水艇のライトが貨物室を照らしたのだ。
亜王が潜水艇へ向買おうとしたその時、大きな衝撃が船を襲い、亜王は自分の身体がシャッターの方へ投げ出されるのを感じた。
吹き込む暴風雨に逆らって亜王は船外に投げ出されていく。
亜王の悲鳴は中空へ飲み込まれていく。
間一髪のところで亜王は地獄の門の淵をつかんだ。
亜王の片腕に全体重がかかる。船は大きく斜めに傾いていた。
亜王の足元にはしぶきをあげる荒波が迫っている。
吹き荒れる風が亜王の身体を揺らし、握力を奪っていく。
もうだめかと亜王があきらめかけたとき、ぬっと現れた腕が亜王の腕をつかむ。
「大丈夫か?」
轟音にかき消されまいと精一杯アレックスは叫んだ。
亜王はアレックスの顔を見て表情が緩んだ。
しかし、喜んだのもつかの間、亜王の腕は暴風雨にさらされ濡れており、思うように引き上げられない。
何とか落下は防いでいたものの、状況はさらに悪化していく。
船の傾きが戻らず、貨物室にある棺桶たちが地獄の門へ向かってきていたのだ。
「アレックス! 早くしないとコンテナに潰されるぞ!」
亜王が暴風雨の中必死に叫ぶ。
「わかってる。少し辛抱してくれ」
そう言うとアレックスは亜王から手を離した。
再び亜王の腕に全体重がかかる。亜王は歯を食いしばり何とか耐える。
アレックスはすぐさまジャケットを脱ぎ亜王へ向けて垂らした。
特殊繊維でできたジャケットは亜王の体重にも耐えた。
亜王は必死によじ登ろうとする。
しかし、風に揺られなかなかうまくいかない。
その間にもコンテナが二人に迫る。
亜王は叫びながら渾身の力を腕の筋肉に入れ貨物室へと登りついた。
すぐさまコンテナから避ける。
まさに紙一重、亜王とアレックスの脇すれすれをコンテナが通過し、荒ぶる海へ落ち白い水しぶきを上げた。
その後も次々とコンテナが海へと消えていく。
亜王たちは息つく暇もなく大きく傾いた貨物室を登っていく。
しかし、潜水艇が滑り落ちて来ていた。
「乗って!」
上部ハッチから顔を出したケリーが叫んだ。
滑り落ちる潜水艇に亜王とアレックスが飛び乗る。
そのまま潜水艇は海へと消えていった。