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第7話 モンスターパニックとチート無双〜ともside〜

「んっ…。」


目が覚めると、宿の薄っぺらいベットの上にいた。窓からは朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。どうやら一晩中気を失っていたらしい。傍らでは、召喚獣たちが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「母よ、我らは少々やり過ぎた様だ。すまない。」

「お母様なら防御できると過信しすぎていましたわ…。」

「母ちゃん、頭痛くない?俺たちめっちゃ反省したぜ!」

「うんうん、いいよ〜。私もごめんね。」


しょぼんとするイフリートに、困り顔のウンディーネ、えっへんと胸を張るシルフ。三者三様の可愛い彼らに、母性本能をきゅんきゅんとくすぐられる。落ち込むイフの頭を撫でたい。困り顔のウンディーネのほっぺを突きたい。シルフを反省してえらいねと褒めてあげたい。私のその考えを表情から読み取ったのか、ウンディーネとシルフは照れ笑いし、イフリートは苦笑する。「我を撫でたらまた火傷するぞ。」と小さく呟く彼も、どこか嬉しそうだ。か、可愛いやつめ…!ああ、やっぱり撫でる!私は撫でる!この可愛いのを撫でないとかむしろ罪!可愛がり法違反でナデナデ禁止10年の刑に処す!


「母よ、訳の分からないことを呟きながら我を触ろうとするな!」

「逃げないでよ、イフ〜。ヒールで治せるからいいじゃん。ちょっとだけ、ねっ。」

「そのちょっとだけで大火傷される我の心労を考えよ!あ…嗚呼、また胃が痛い…。」


胃を抑えながらイフリートが離れて行ってしまう。反抗期かな、ママは寂しいよ。

がっかりと肩を落とした私に、困り顔のウンディーネがあらあらと笑いながら近付いて来た。


「ところでお母様、ご報告がありますわ。ユタ様から連絡がありましたの。」

「夫から?…そいえば、ヤツの間の悪い通信のせいで攻撃受けたんだった…!」

「まあまあ、ユタ兄も悪気があった訳じゃね〜しさ。王都で待ち合わせようって言ってたぜ。」


ムッとして拳を握りしめる私を、シルフが宥めてくる。

王都で待ち合わせ?ユタが見つかったなら、王都に行く用事は無くなってしまったけど、しょうがないなあ。欠伸をしながら背筋を伸ばす。落ち着いたらお腹も空いてきた。


「ふあ〜、朝ごはん食べに行こっか〜。」

「母よ、我は早急に王都にてユタ殿と合流することを提案する。」

「ん〜、宿代があと7日分支払ってあるから、その後考えるよ〜。」


あっさりとそう言ってのける私に、イフリートが青ざめながら「うう、胃が…。」とよろけている。見なかったことにしよう。ベットから足を下ろすと、浄化魔法で身だしなみを整える。今日は私がクエストを受けたいから、回復マテリアルを充実させよう。状態異常の回復やヒールの種類を揃える。教会で治療士を募集していたはずだから、そのクエストを受けるつもりだ。今回は出番の無さそうな召喚獣たちを還らすと、宿で朝ごはんを食べ、ギルドへと向かった。




ギルドに着き、張り切って入り口の戸を開けると、賑わっていた冒険者たちが一斉に振り向いた。こちらを見てひそひそと話している。私、何かしてしまっただろうか?聴覚を研ぎ澄ますと、彼らの囁きが聞こえてくる。

「伝説の最強召喚獣でステーキ焼いた召喚士ってあいつじゃないか?」

「ギルドランクを最速で上げた噂も聞いたぜ」

「しかも薬草で成り上がったんだろ。わらべし薬草長者って通り名もある。」

「薬草成金じゃなくて?」「薬草クイーン」「無駄遣い召喚士」「もったいない召喚士」

何だか、不名誉な称号が聞こえてくるが、たぶん気のせいだ。聞かなかったことにしよう。とりあえず受付に行くと、引きつった笑顔の猫耳受付嬢が出迎えてくれた。


「治療士のクエストを受けたいんですけど、募集あります?」

「あります…けど、トモ様は召喚士では無かったですか?」

「回復もちょこっと(蘇生レベルぐらい)できるんだ〜。」

「それでしたら、今日は週に一度の無料の治療院が教会で開かれています。是非お手伝いをお願いします。」


ギルドカードを差し出し、手続きをしてもらと、さっそく教会へと向かった。ギルドから出るときも視線が痛かったが、たぶん私の自意識過剰だろう。

ギルドから教会へはまっすぐ一直線だったため、迷わず辿り着く。神聖な教会のドアを押すと、大きな十字架が目に飛び込んできた。ステンドグラスには神様が描かれ、差し込む朝日がキラキラと輝いている。ほう…と思わずため息が漏れる。


「綺麗だなあ…。」

「そうでしょう。」


ぼーっと見惚れていると、後ろからシスターが声をかけてきた。歳は20代ぐらいか、優しい銀色の瞳が美しい。何よりも目を引くのは、零れ落ちんばかりの巨乳だ。禁欲的なギャップが素晴らしい。巨乳は正義です。ゲームの時は何気なく見ていたNPCだが、実物を見れるとは目の保養だ。


「おはようございます!ギルドから来た(巨乳大好き)治療士のトモです!」

「ふふっ、元気な方ですね。紹介状はお持ちですか?」

「はい!これですね、お願います。」

「毎回人手が足りないですから、来てくださって助かります。治療院は教会の隣の孤児院で開いていますので、そちらまでご案内しますね。」


セクシーダイナマイトバディーのシスターの後ろを着いていく。教会を出ると、すぐ隣に平屋の孤児院があった。小さな子どもたちが、せっせと掃除をしている。すでに何人か、治療を希望する人たちが並んでいる様だ。そのまま奥へと通される。小さな椅子に座った神父が、青ざめた顔で順番にヒールをかけている。魔力が欠乏しかけている様だ。慌てて交代に向かう。


「ギルドから来たトモです!交代しますね!」

「すみません、助かります。休憩したら、私も再開しますので。」


シスターに支えられながら、神父が休憩室へと歩いて行く。目の前に並んだ患者さんたちを見ながら、ふんっと気合をいれる。選択するのは最高峰のヒールだ。辺り一帯が、淡い光に包まれる。


「あ、あれ?体が軽い…?」

「ママ、ぼくもう苦しくないよ。」

「おおお!魔物に食われた指が生えてきた!!」

「もう歩けないって言われてたのに…足が…足が動く…!」


あっるえ〜?な、何かデジャブだなあ…?と言うか前回全く同じ失敗をして反省した気がするが、忘れようと思って本当に忘れてた!しまった!今回はクエストを受けてしまっているから逃げられない!!またやり過ぎた!まあいっか!忘れよう…。夫がたぶんどうにかしてくれるだろう。私は颯爽と忘れよう。

そしてその日、その街では光の奇跡という名の伝説が生まれた。私の称号も「無茶苦茶治療士」「規格外」「むしろ地上に舞い落ちた天使」などよく分からないのが増えたが、気のせいだと思うことにした。



「うおりゃ〜!待て〜〜!」

「あははは!こっちだよ〜!」「捕まえてみろ〜!」


治療院が早々に終了してしまったので、私は孤児院の子どもたちと追いかけっこをしていた。夢中で遊んでいたので、みんな泥だらけだ。そろそろお腹も空いたし、綺麗にして何か食べよう。


「よ〜し、君たち!そこに並んだら面白いものを見せてあげよう!」

「え〜、お姉ちゃん何するの?」

「ふふふ、召喚獣を見せてあげるよ〜!」


私の言葉に、わあっと笑顔が咲き乱れる。きらきらと輝いた瞳が、期待に満ちている。ふふふ、答えて見せよう。究極召喚だ!


「いでよ!ウンディーネ!シルフ!!」

「お母様、お呼びですか?」

「俺たちがいない間に、問題起こしてない?」


ぎくっ。お、起こしてないですよ…?そんな事実は綺麗さっぱり忘れたのだ!

目を逸らす私に、訝しげな顔をする2人。誤魔化すように指令を下す。


「さあ、お前たち!目の前の敵に強力な水攻めをした後、荒れ狂う風で巨体を吹き飛ばすのだ!!」

「はいは〜い。」(水で優しく泥を洗い流す)

「はいはーい。」(温かい風で優しく水を乾かす)


こうして街に平和は訪れたのだった!綺麗さっぱりした子どもたちが、召喚獣を見て楽しそうにきゃあきゃあとはしゃいでいる。喜んでくれたみたいで良かった。次はお腹すいたから何か焼こう。子どもたちが掃除で集めた枯葉に、シスターから受け取ったサツマイモのような物を突っ込む。


「究極召喚!イフリート!」

「母よ、今度こそ巨大なる敵を倒して見せようぞ!」

「さつまいも焼いて。」

「……。」


昨日の怒りが何故伝わっていない、と頭を抱えながら、イフリートがイモを焼いてくれる。う〜ん、いい匂い!

我の存在意義とは一体…と人生に迷い始めたイフリートの肩を、シルフが優しく叩く。


「元気出せ。俺はお前が最強の魔人だってちゃんと知ってるぜ。」

「シルフ…。我の良き敵(と書いて友)よ…。」


慰め合う彼らを遠巻きに見つめる。あの2人って仲悪かったと思ったけど、いつの間にか仲良くなったんだ、よかった!


「お母様のせいですわね。」


ウンディーネが言い間違えてる。私の、お、か、げ、ね!満足顔で焼けたイモを子どもたちと食べる。ハフハフ。ほんのり甘くて美味しい!

用が終わったので召喚獣たちを還して(なんか不満そうだった)、お昼寝の時間の子どもたちを寝かし付けていると、急に騒がしい足音が駆け込んできた。


「シスター!急患だ!」


数人の冒険者が、血塗れの仲間を担いでいる。簡易ベッドの上に降ろしてもらうと、魔物の牙にやられた様な大怪我だった。容赦無くヒールを浴びさせる。怪我は治ったが、ガクガクと震えている。状態異常解除の魔法もかけると、やっと話が聞けた。


「魔物の森に、薬草を取りに行ったんだ。」

「ギルドで、薬草で成り上がった冒険者の噂を聞いて、俺たちもって。」


ぎくっ。何か私のせいで二次災害が…!口元を引きつらせながら、冒険者たちの話の続きを聞く。


「つい夢中で集めて、かなり奥まで入ってしまって…。」

「そうしたら、野ラビットの集団に出くわしたんだ。でも俺たちを襲う訳じゃ無く、素通りして逃げてった。」

「呆然として見ていると、後ろからハイウルフが現れて…!一撃で仲間が血塗れに…!」

「怪我人を担いで命辛々逃げてきたんだ。恐ろしかった…!」


暗い雰囲気が辺りに広がる。声のかけ方に迷っていると、街中に警鐘の音が鳴り響いた。協会の外に飛び出し、一番近い門(何門か方角は分からない)の騎士に駆け寄る。


「何があったの?!」

「あの時のお嬢ちゃんか!外に出ない方がいい。門の外の平原に大量の魔物がいる。奥にある魔物の森から溢れ出て来るみたいだ。」

「分かりました!任せてください!」

「何が分かっただ?!門の外に出るなって!あっ、コラ!」


閉ざされた城壁に飛び乗り、平原を見渡す。おびただしい数の魔物が、こちらに向かって走ってくる。あと5分もしない内に街へ辿り着きそうだ。


「えげつないクエスト!正義の味方、撲殺の天使(だけど悪魔)のトモちゃんが成敗してくれる!」


すかさず武器いっぱいに召喚獣マテリアルをセットする。説明しよう!私は夫がGMという名のチートである!ガチャで確率数%のレア召喚獣は全て網羅しているのである!


「いでよ!究極召喚!イフリート!ウンディーネ!シルフ!ギルガメッシュ!シヴァ!アレクサンダー!リヴァイアサン!ラムウ!バハムート!オーディン!」


全員が揃った姿はなかなか圧巻だ。かっこいい…!感動に打ち拉がれていると、呆れ顔のいつもの3人が話しかけてきた。


「母よ、今回は何を焼けばいい?」

「はいはい、どんな家事でもこなしますわよ。」

「母ちゃん、俺ら以外にもたくさん喚んだなぁ。祭の準備でもあんの?」



気だるそうな彼らに真面目な顔で後方を指差す。


「あれを殲滅して欲しい。」


ゆっくりと振り向いた彼らは、あんぐりと口を開けて目を見開いた。


「わ…我は、幻でも見ているのか…?」

「あ、あの魔物を殲滅していいんですの…?」

「いつもの家事じゃ無くて?へ?俺らホントに戦っていいの…?」


半信半疑な3人に、こくりと頷いて見せる。途端に、3人がフルフルと身体を震わせ出した。上方に飛び上がり、巨大魔法を生み出す。


「ふ、ふ、ふはははは!全てを焼き尽くす魔の炎を味わうがいい!我の炎は切り身でも串でもイモでも焼く為ではない!巫山戯るなああああ!地獄に堕ちろおおお!」

「私の美しい水たちよ全てを呑み込むのですわ!もうお皿の汚れも洗濯物の汚れも子どもたちの泥も流さなくていいのです!不味くて汚い鬱憤を喰らわせるのです!」

「荒れ狂う豪風よ全てを切り裂け!手加減して皿を割らない様に気を付けたり芝生を揃えて切る様に気を付けたり子どもたちを切らない様に気を付けたりアァァァ面倒くせエエエエ!」


ドゴオオオン!という轟音と共に魔物が殲滅されて行く。うふふ。わぁ〜。すご〜い。こっこっ後半はワタシニ向けてでは無いデスヨネ?!

カタカタと震えながら青ざめる。そ、そんなに鬱憤溜まってたかなぁ?面白い様に敵が消し飛んで行く。3人に続いて他の召喚獣たちも魔法を展開し、魔物の集団はあっという間に吹き飛んだ。

ホッとして額の汗を拭った私に、城壁の小窓から見ていた人々がざわめく。


「しょ、召喚獣が、いち、にぃ…じゅっぴき?!ヒイイイ!」

「どんな魔力量だ!すごいぞあの女…!」

「ギルド長を呼べ!国に取られる前に確保だ!」


うーむ、面倒くさいことになって来た。チョットやり過ぎたかなぁ?

ちょっとじゃない!と召喚獣たちに突っ込まれた気がしたが、空耳だと思う。こー言う時はー?


「逃げるが勝ちでしょ!」


シルフの風に乗って、隣街から遠ざかる。宿代もったいないけど、しょうがないよね!召喚獣たちを還し、いつもの3人にミニサイズになってもらう。みんなどこかスッキリとした顔をしている。良かった良かった。


「母ちゃん、どこに行くの?」

「とりあえず王都かな〜?」


王都なら、田舎の噂が辿り着くのも時間がかかるだろう。それに占い師に会いたいしね。女子は占いが好きなのだ。


「夫との恋愛運占ってもらうんだ。」

「お母様、それより大事なことがたくさんあると思いますわ…。」


ウンディーネの言葉を聞き流しながら、一行はいざ王都へと向かうのだった。果たして明らかになるのは、夫との相性か、それとも異世界から帰る方法か?!前者では困るというツッコミをする人が不在のまま、綺麗な夕暮れ空を飛んで行く私たちだった。


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