8.僕のお姫様
□月□日 運命の日
まるで1枚の素晴らしい名画を目の当たりにしたようだった。
それほどの衝撃を受けたのだ。
僕はそれまで色のない灰色の世界で生きていた。生きていたというよりはただ呼吸をしていただけのようなものだ。だって生きる意味もやりがいも見つけられずに、ただ親の言う通りにしていただけなのだから。
恵まれた環境と素質を持っているという事は自覚していた。欲しい物は手に入るし、やって出来ない事はなかった。そんな環境にいたからか気がついた時には空虚な心を持て余す子供となっていた。
それは成長しても変わらず僕の中にあり、そしてこのまま自分は周りに流され年をとって行くのだろうと思っていた。
あの時まではーー。
堤防に寝そべる1人の少年。そんなどこにでもありそうな光景に何故そこまで惹かれたのか、正直自分でもよく分からない。けして美形とは言い難いであろう平凡な容姿にましてや同性である少年だ。
だがそんな何でもない光景なのに僕は生まれて初めて感じる動悸を覚え内心パニックをおこしていた。頬は熱く鼓動が煩いくらいに響いていて、僕はただただその光景に見入っていた。
しかし焦る心とは裏腹に体は正直だった。おもむろに彼の体にのしかかり、体を拘束すると勢いに任せてその唇を奪ったのだ。
自分でも突然の暴挙に驚いたが、感じた事のない甘美なその唇に僕はすぐに夢中になった。一応一通りの性体験は済ませてはいたものの、こんなに頭が真っ白になる程の快感は初めてだった。
僕が求めていたのはこれだと。
僕に足りなかったのは彼だと思った。
いや確信したのだ。
ただ触れるだけだった口づけが深いものに変わった時、彼が目を覚ました。
寝ぼけていた彼がはっきりと覚醒すると拘束を振り切ろうと暴れだした。それも当然の事だが、まだ唇を味わい足りなかった僕は拘束をきつくすると角度を変えますます口づけを深いものとした。
自然な流れで拘束する腕とは反対の手で彼の股間を撫であげると、彼は一瞬動きが止まり猛然と暴れ出した。少し気を抜いた時だった為まともに攻撃をくらってしまった。
追い打ちまでかけられ僕はしばらく動く事が出来なくなってしまった。
すぐに追いかける事が出来なかったから彼を逃がしてしまったが、そのまま逃がすつもりはなかった。
彼は僕の運命の人。
ということは彼の運命の人は僕なのだから。
数日後再開を果たした時、僕は何故か変態と呼ばれたけど、きっとこれは誤解からくる彼の愛情表現。
だから僕はそれに応えるようにならなくては。
だって僕は彼の運命の人なのだから。