5.変態は風邪をひかない
□月□日
今日は少し肌寒い。天気が良いからといって薄着をしてきたのは間違いだった。
俺は季節の変わり目に風邪をひきやすいから気を付けないと。
「今日は午後から曇りだそうですよ。体を冷やさないで下さいね」
今日も今日とて変態は隣を歩く。申請しオンボロ自転車をなんとか手入れをし通学していたのだが、とうとう釘を踏み抜き殉職してしまったのだ。修復は早々に諦めた俺は再び徒歩による通学となった。
そうなると変態と歩く事になるが最近はそれにも慣れさらには会話さえも交わしている自分がいる。
慣れと云うよりは諦めの境地だが。ちなみに俺は未だに変態の名前すら知らない。変態の呼び名など変態で充分だ。
ところで最近変態が大人しい。
変態である事に変わりはないが(切実に変わって欲しい)、俺と少しコミュニケーションをとるようになってから電波の受信が少しずつ弱まってきているようだ。もしかしてその内奴の変態発言・行動もなくなるんじゃないかと期待している。
「まぁ、もし風邪をひかれても僕が看護して差し上げますよ。赤く火照る頬に潤んだ目、それに荒い息づかいの貴方……。ああっ、想像するだけで僕はっ」
自分の考えは甘かったようだ。
振りかぶり回し蹴りの要領で変態を地に沈める。踵落としがキレイに決まって満足だ。変態の股間が反応していたような気がするのは勘違いに違いない。
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□月□日
熱が出てしまった。少し予想していたがせっかくの休みが寝て過ごす羽目になるとは。ひ弱な体が憎い。
滅多にない高い熱に魘されていると、あろう事か幻が見えてきた。
「お腹空きましたか? お粥食べられます?」
幻聴までとは。寝てれば治ると思っていたがちゃんと病院へ行った方が良いのかもしれない。
居るはずのない、いやむしろ居てはいけない変態の姿が見え声が聞こえる。ああこれが高熱に冒された人間の見る幻覚幻聴か。どうせ見るなら変態よりボインのお姉さんがいい。
「何か勘違いされているようですが僕はここにいますよ。お義母様が入れて下さいました」
心で呟いていた筈だったがどうやら声に出していたらしい。
それよりも。母さんアナタなんて事を! 変態をむざむざ家に入れるなんて。
どうやって母さんに取り入ったかなんて考えるまでもない。天然な母さんの事だ、友達が見舞いに来たと言えば疑う事などしないだろう。ーー母さんの助けは望めない。
「飲み物飲まれますか? 風邪を僕に移してもいいですよ。僕の口移しでのませーーっ」
台詞を最後まで言う前に目潰しをする。風邪で動くのがだるいというのに病人にむちゃさせるな。
取りあえず早く治さなくてはあらゆる意味で危険を感じるので、面倒だが病院に行くことにした。
ベットを降りる時何かを踏んだがそんな所に荷物なんか置いてあったか?