3.ストーカーですか?いえいえ変態です
□月□日
最近俺はストーカーにつきまとわれている。いや、あれはストーカーなんてもんじゃない。
変態だ。
男が同一の性を持つ俺につきまとっているんだから変態と呼ばれても仕方がないだろう。変態という言葉すらも生易しい気がするが、残念ながら俺にはそれを超える言葉は思いつかない。
「おはようございます。今日も良い天気ですね。朝から貴方の花の顔を見ることが出来るなんて、僕は世界一いや宇宙一の幸せ者です!」
土砂降りの雨に何をいうか。この雨のせいでせっかく許可を得た自転車登校もできず、徒歩で学校に行くことになったというのに。
ていうかそもそもの原因こいつじゃね?
勝手に横歩いて着いてきちゃってるけど。誰が隣を歩く事を許した?
丸っと存在を無視しながらも内心でぶつぶつと文句を呟く。
口に出さないのは理由がある。何故ならーー。
「今日こそ、今日こそ貴方のお名前をお聞かせ下さいマイフェアリー。調べ尽くした貴方の情報ですが、貴方の口から直接聴きたいのです。プリンセス。いつぞやの愛の睦言も心躍るものではありますが、やはり調査書など味気ないものではなく貴方の鈴が鳴るような美しい声で直接聴きたい」
しかしよくこんな長い台詞を息継ぎ無しで言えると、思わず関心してしまうがそれを顔に出すような事はしない。
こいつは自分の良いように人の言葉や表情が脳内変換されるのだ。俺は断じて愛の睦言なんぞこいつと語り合った覚えはない。
ただ何回目かの襲撃に耐えかねて罵倒した事はあるのだが、奴の脳内で誤変換された結果『愛の語らい』へとシフトチェンジしてしまったらしい。
それ以来俺はノーリアクションを貫いている。
フェアリーだかプリンセスではないので答える義務もありはしない。
吹き付ける雨に眉をしかめながら足を速めた俺だったが、ふと先ほどのこいつの妄言に聞き流してはいけなかった内容がある事に気付き足を止めノーリアクションの禁忌を破ってしまった。
「調査書、だと……?」
「ああ、やはり貴方の声は素晴らしい。天使の奏でる演奏も貴方の声の前には霞んでしまうでしょう。もしその声で僕の名前を呼んで頂けたらそれだけで果ててしまいそうてす」
「ふざけるなよっ! 調査書ってなんだって聞いてるんだ」
「興奮して頬を赤く染める貴方も愛らしいですね。大丈夫です。心配しなくても貴方が誕生した日からこれまでの17年間の軌跡はしっかりと余すことなく僕のパソコン及び記憶に焼き付けてありますとも!」
「死ね!! この変態がぁーー!」
さも当然のように胸をはる変態の顔面に俺の黄金の右がきまる。水溜まりに倒れた奴の股間を踏みつける事も忘れない。
変態だ変態だと思ってはいたがやっぱりこいつは変態だった。
そんな変態に個人情報を知られてしまった俺はこれからどうしたらいいんだ。