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Silent Lyric  作者: 赤井呂色
序章:Silent Lyric
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Silent Lyric -7- 馴染み深い想定外



 ――こうして、第一特殊遊撃小隊は、戦地である静鈴町しすずちょうの外れにやって来ていた。

 静鈴町は、奈都海らの住む住宅街を中心に据える多根木町の隣町に隣接した町。同じ市の中ではあるが、彼らのいる支部からはそれなりの距離で離れている。

 しかし、だからといって専用の車両が与えられたりはしない。現場へは、自らの足で向かう必要がある。そのため、特に高い機動性を持っているわけでもない奈都海や深夜は、それぞれ“足”となる疵術師に抱えられながらその道中を跳んで、飛んでいた。

 九能は奈都海を抱えながら走り、天代が深夜を抱きかかえながら飛んでいる。自分に重量軽減の魔術をかけている深夜を運んでいる天代はともかく(それでも飛行能力そのものが珍しいのだが)、奈都海を抱えていながら、助走もなく距離にして30mもの跳躍をしてみせる九能の筋力は、疵術師としても異常極まりない。それについていける隊員たちも、十分に疵術師の平均の基準を超えている。




 到着した彼らは、まず自分の目を疑った。

 それが現実に相違ないとわかると、目の前の光景に呆れと恐れと困惑でいっぱいになった頭をフル稼働して、この場に相応しい行動を検討する。

 そして、自分が混乱していることを自覚して、無言で九能に指示を仰いだ。


 しかし、九能はそれを冷静に無視した。


「魔装小隊は? 深夜、どこにいるか調べて」


「は、はい……」


 戸惑いながらも、深夜は魔術を発動。魔力を“読むこと”で、深夜は遠隔視を可能とする。この距離であれば誰がどこにいるかという正確な情報を得ることも、深夜にとっては造作もない。


「……! 見えました。DMFBの集団からこちらを12時として、10時の方向です。魔装小隊13名、全員が健在です」


 健在。まさか死者の一人も出さないのは無理だろうと踏んでいた九能は、それを聞いてひとまずは安心した。

 彼ら特殊遊隊の前には、DMFBの大群があった。それも、20や30では収まらない、九能の見立てでは、それこそ50以上は下らない、現れるのも稀な大群だ。これでは隊員が目を疑うのも仕方がない。

 故に、深夜の健在という言葉は、希望を生む。あの大群を構成するDMFBのランクが、さほど高くないことがわかるからだ。魔装小隊は確かに優秀だが、この特殊遊隊ほどではない。魔装小隊が生き残れるのなら自分たちも戦えるだろう、とある種、慢心にも似た自信が彼らにはあった。

 しかし、慢心しているから負ける、などという道理はどこにもない。


「深夜、《紅線ホンシァン》をみんなに。未永栖を護衛に、天代を足にして魔装小隊の下まで向かいなさい。それ以外の私たちは、あの大群に突っ込んで叩き潰す。それ以上のことはみんな勝手にやって。任せるわ」


 自身がさほど優れた指揮官ではないと負の自負を持つ九能は、こうして隊員に行動の裁量を任せることが多い。隊員のほうも心得たもので、問い返すこともなく各々のタイミングで戦地へ赴く。




◇◇◇ ◇◇◇




 ――浅木久宮あさぎひさみや浄美未来小きよみあすか

 この二人は、戦闘の際、よくコンビで戦うことで知られている。

 片や炎や冷気を操って近接戦闘を得意とする久宮、片や二挺拳銃を用いた遠距離からの一方的な攻撃を得意とする未来小。遠近の役割がしっかりと分かれている二人だからこそ、今までの高い戦果を挙げて来られた。

 性格に関しても、釣り合いが取れていると言ってもいいだろう。戦闘に際して熱くなりやすい久宮を、普段と違って冷静になる未来小が抑える。こういった構図である。


「アアアアァァァァァ、イッ、シャアアアアァァァァァァッッッ!!!!」


 咆哮を上げながら炎を纏わせた拳を振るう。その衝撃が一体のDMFBに叩きこまれ、さらに余波が数体を巻きこむ。


「ッッハァ!!」


 冷気を纏った足が地面を這うDMFBを踏みつけ、その肉体を冷凍する。炎で隠された両腕が2体のDMFBを掴んで地面に叩きつける。そのまま絶対零度の脚を天に掲げ、カポエイラよろしく足と氷の礫で群がるDMFBを蹂躙し始めた。

 その絶好調な久宮を、片手間にDMFBを撃ち殺しながら、未来小が見ている。久宮はスタミナのある方ではないため、今は力を温存しておくべきと判断した。まずは久宮に暴れさせ、自分はその後、彼がへばってきたところで入れ替わりに前に出る。銃弾も無限ではないため、近くに寄ってきたものは蹴り飛ばしたりしてなるべく節約している。

 戦い方を見る限り、久宮は既に冷静さを失っている。さすがに味方と敵を見誤るという致命的なミスはないが、あれでは周りからの声も耳には入ってはいまい。

 ――と、考えていたのだが


「未来小、交代だぁ! 俺がサポートに回る!」


 DMFBの頭を足で蹴り潰しながら、久宮が叫んだ。

 今回は考える頭を置いてこなかったんだね、などと冷静な頭で未来小は考える。言えば、激昂するので言わない。言われた通りに、未来小は右腿に装着されたホルスターからもう一挺の拳銃を取り出す。

 未来小の持つ二挺の拳銃は、どちらも魔術による加工が施されている。正確には、銃にする前の素材の段階で、加工が為されている。干渉力を持つ銃弾の発射に耐えうる銃身が必要なためだ。また、銃弾にも加工が施され、DMFBの肉体を粉砕できる干渉力を持ち合わせる。

 未来小は両手の拳銃をくるくると回しながら、本来の寡黙さを取り戻していく。

 右手の拳銃は、ある既存の自動拳銃を分解、魔術加工し、再び組み立てた代物。その際に未来小自身がパーツそのものに改造を施し、使える口径を限定する代わりに装填数を2倍に増している。改造しただけなので名称などはないが、未来小は勝手にDEVAディーヴァと呼んでいる(Desert Eagle Version Asukaの略らしい)。

 そして、左手の拳銃は、魔術団の完全オリジナル。設計から専用銃弾の規格まで、すべてがテンプル魔術団の研究機関“MMMrs”のものだ。名称は“クレアM-11”。クレアとは開発者の娘の名で、MはMagicの頭文字、11というのは2011年に完成したから。パーツのすべてが魔術加工を施されており、使用者からの魔力供給を受けて、はじめてその威力を発揮する。銃弾が銃身の中を通る間に干渉力を付与させる、という機構のため、魔術師が持っていれば通常の銃弾でも専用の銃弾に近い威力が出せるという汎用性も持つ。

 未来小は、この二挺を愛用して、この2年間で100近いDMFBを打ち砕いてきた。

 後退する久宮を追ってきたDMFBが、未来小に標的を変えて、彼女を取り囲む。

 DMFBは、それまでの久宮への苛烈な攻撃をやめ、未来小の様子を静観している。未来小は、自ら向かっていくことはしない。“待つこと”こそ、彼女の真髄。

 つまり、得意とするのは迎撃。

 それを愚かにも知らないDMFBたちは、久宮のような蹂躙を怖れてか、あるいは単なる捕食本能故か、示し合わせたように一斉に、未来小に襲いかかった。

 ――ドンッ!!

 と、二発の銃声が同時に響く。未来小が左右に掲げた銃口の先で、2体の異形が身体の半分を粉砕されて崩れ落ちた。

 それでも彼らの爪牙は止まらない。未来小を貫かんとして、それは彼女に殺到した。

 未来小は、それらをたった一度の跳躍で避けていた。宙で腕を下に向け、両手の銃をそれぞれ2発。これでさらに2体のDMFBが消滅。着地したタイミングを狙っていた異形の攻撃を頭横すれすれに流し、懐に潜り込んで間髪入れず続けざまに至近から右銃で2発、怯んだところに止めに左銃でヘッドショット1発。ランクの高い、おそらくBランクだろうDMFBを討伐。

 腰を上げて、右手の銃口を背後に向けて1発。左で前方のDMFBの群れを薙ぎ倒しながら、背後の気配がなくなると、右手のそれもリロードの後に参加させる。干渉力がそのまま物理的威力にも変換される銃弾が鬼神の如く乱れ撃たれ、乱雑な銃声が異形の断末魔とともに轟く。

 それは立派な、久宮にも劣らぬ、蹂躙そのものだった。




◇◇◇ ◇◇◇




 大原深夜おおはらねよ上杉天代うえすぎあまよは、まともな戦闘能力を有していない。故に、伊神未永栖いがみみえすという護衛が必要になったのである。

 彼女は、源血の特性によって様々な武器を使いこなして戦う。彼女の場合は、主に銃火器を使うことが多いが、今回もいつものようにグレネードランチャー付きアサルトライフルを、その肩に担いでいる。

 未永栖は地上を疾走し、その上空を、深夜を抱えた天代が飛んでいる。そのスピードはどちらも時速60kmを超えている。一般道の自動車並みのスピードである。

 目的地――魔装小隊の居場所へは、ものの10秒で到着してしまった。

 彼ら魔装小隊は、未だにDMFBの群れとの戦闘から解放されないまま。いくらか負傷した者はいるようだが、それでも戦闘に支障の出るレベルの傷は見られない。魔装小隊には、その名の通り魔術による装備を持つ者、例えば魔術によって作りだされた武具であったり、未来小や未永栖のように魔術加工された銃器であったり、九能のように魔術加工された刀剣類であったり、そういったものを使う者が多い。疵術師の中では珍しくもないが、それ故にDMFBとは相性がいい。直接、武器を使う彼らは、身体能力自体も高いことが多いからだ。


「みなさん、無事ですか!?」


 無事であることは既に確認済みだが、深夜の遠隔視とて完璧ではない。深夜の声を聞いた魔装小隊の隊員は、3人の姿を見て安堵に表情を緩めた。


「遊撃小隊か……!」


「負傷した者はいったん退いて! 他は私とともに迎撃!」


「助かる! 治療のできる者はいるか?」


「私と天代くんで、応急処置程度ならできるかと。天代くん、できますね?」


「は、はい! 頑張ります!」


 天代の返事を聞いて、負傷したらしい疵術師は笑みを浮かべるとともに、安心もする。慣れてはいなくてもやる気があればなんとかなる。応急処置に使う魔術であれば、医療知識も必要ない。

 未永栖は、それらを背後に、魔装小隊とともにDMFBへの攻撃を始める。

 照準を合わせるなどというまどろっこしい動作もなく無造作に放たれた銃弾が、的確にDMFBの肉体を食い千切っていく。

 その弾道を掻い潜って、魔装小隊の隊員は得物を振るう。剣、槍、剣斧、矛、未永栖と並んで弓を使う者もいる。彼らの力量のわかる滑らかな動きで、異形を次々と狩っていく。

 彼らの戦いに不手際はなかった。これ以上ないほどに効率的な速度でDMFBの数を減らしていき、それ故に負傷も最低限にできる。未永栖が加わったことで、その効率性に磨きがかかり、後ろで治療をしている深夜たちを守ることも容易にしている。

 それでもなお、戦場というところは、思いもよらないことが起きてしまうものである。

 両刃剣で首を飛ばされた異形が、最後の悪あがきとばかりに四肢を滅茶苦茶に振り回した。予想できないわけではなかった。獣のような本能を持つDMFBは、たとえ致命傷を負っても数秒から数十秒、長い時には数分も生き永らえ、暴れ続ける。それは、戦闘経験のある疵術師であれば常識のレベルで知っている。

 しかし――他のDMFBに対処していた疵術師が、その最期の暴走に反応できず、巻きこまれた。


「っ! ……しまった……!」


 傷は浅い。しかし、動きの止まったその一瞬の隙をつかれ、数体のDMFBに突破された。背後には負傷者に応急処置を施す深夜と天代。無防備極まりない彼らに、DMFBを迎撃する術はない。


「っ……!」


 気付いた未永栖が身体を反転させるが、間に合わなかった。無防備な彼らの背中に、異形の爪牙が襲いかかる。


 ――同時に、羽根が舞った。


「天代っ! そのままで!」


 未永栖が叫び、同時にグレネードを発射、直撃した異形は粉々に砕け散り、爆風が周囲の異形もまとめて吹き飛ばした。

 だが、その至近距離にいたはずの深夜や天代たちは無傷。天代が、その翼長4mを超える翼で防いだのだ。


「やるじゃねえか坊主! そのまま守ってやってくれ!」


「天代、頼むわよ!」


 まさかここまで強固な干渉力を持っているとは思っていなかった。未永栖もある程度の防御性能を見越してグレネードを撃ったのだが、ここまでとは思っていなかった。

 が、予想外に好都合なことは確か。これで、意識を後ろの防衛に回す必要性は薄くなった。攻撃に傾倒することが容易になる。


「天代くん」


「あ、は、はい!」


 しかし、なによりも驚いていたのは本人だった。自分の翼が飛ぶ以外に使えることに、戸惑っている。元より、この翼の存在を知ったのも2ヶ月ほど前の話だ。


「私は治療に専念しますから、私たちのこと、お願いしますね」


「わかりました、頑張ってみます」


 戦場であれこれ考えても仕方がない。余計なことは終わってから考えよう、と天代は現状の任務に集中することにした。




◇◇◇ ◇◇◇




「奈都海、何かわかる?」


『いや……何も』


「そう……、これだけ集まるとなると、相応の理由があるはずだけど」


 九能の持つ巨斧は、その細腕によって軽々と振るわれ、群がる愚かなDMFBを蹴散らしていく。

 実際にこの群れの中に突っ込んでみて、二人はその数に改めて圧倒された。九能はこの群れを50体以上と予想していたが、それどころではなかった。その2倍、100はおそらくある。九能にとっては初めての経験ではないにしろ、なかなかあることではない。初めて見る奈都海などは、もう声も出ない。

 とはいえ、数が多いほうが、奈都海の魔術は威力を増す。奈都海には働いてもらわなければならない。心のほうで怯えがあったとしても、それを払拭するなり無視するなりしてもらう必要があった。


「大丈夫? いけそう?」


『さすがにこの数は初めてだしな……殲滅は無理かもしれんから、期待はするなよ?』


 群れの中心。四方をDMFBに囲まれた。本来ならば絶体絶命の危機だが、奈都海にとっては都合がいい。より多くの敵を、巻きこむことができる。

 抱えていた奈都海を地面に降ろし、九能は、なぜか1体ずつ襲ってくるDMFBをいなしている。この期に及んで尚も警戒しているのかもしれないが、奈都海にとっては幸いなことだ。


「早めにね。守るのも限界あるから」


『ああ』


 言葉少なに、奈都海は応じる。魔術の発動に際して集中しているのだ。

 奈都海は魔術の発動に、少々の手間を必要とする。まず、1つの存在定義を定める。そして、その中から1体のDMFBを定義した存在群衆の中心に据える。この2段階だ。そして、発動後、この中心が存在群衆の存在定義となり、存在群衆の中の他の存在のすべても、統一された存在定義に変換される。しかし、生物の情報というものはそう簡単に変化するものではない。

 例えば、ウサギの群れの中にネズミが1匹いたとする。奈都海は、小動物の群れという存在定義を定める。その中から1匹のネズミを存在群衆の中心に据える。奈都海の魔術が発動すると、小動物という存在定義はネズミの定義に同一化し、存在群衆すべてがネズミに強制的に変換される。しかし、ウサギはネズミになれない。ネズミになれないウサギは、ネズミに姿を変えようとしてその肉体を崩壊させる。

 簡単に言うと、1つの何かと“異なる”すべてを、壊してしまう。それが生命だった場合、殺してしまう。

 さっきの例ではウサギの中のネズミを存在群衆の中心に据えたわけだが、完全無欠に同じウサギなど存在するわけもない。ネズミではなくウサギを中心にしていても、同じような効果を得られる。

 同じように、1体のDMFB以外のすべてのDMFBを滅ぼすことが、効果の影響する空間は限られるものの、奈都海の魔術では可能なのである。

 すっ……と、奈都海が指を1体の有翼のDMFBに向ける。


「あいつにしよう。あいつと“異なること”は、許さない」


 その一言が、奈都海の口から発せられた。普段は抑制された声。封印された奈都海の声が、ここで解放された。呼気に含まれた多量の魔力が、そのまま魔術に変換される。

 そして――


「――ッ!!」


 発動。途端、周囲を取り囲んでいた数十のDMFBが、奇怪なおぞましい悲鳴を上げて、その肉体を歪め始めた。明らかに無理な変貌。翼を作ろうとしているのか、ほとんどのDMFBの腕が関節を無視して背後に折れ曲がる。中には長い顎が顔面に喰い込むものもあり、中には無数の脚が絡み合って自身を貫いて体液を噴射するものもあり、中には身体を折り曲げて背骨が外に突き出しているものもあり、異形たちは、その形をさらにおぞましいものへと変えていった。

 常人であれば正視に堪えない光景。だが、奈都海はそれを凝視する必要がある。目を逸らせば、魔術の効果はその時点で途切れてしまうからだ。

 精神を直接侵してくるかのような光景に、奈都海の額に冷や汗が滲む。歯を食い縛って、吐き気を堪える。

 耐えられる限界が近づく。その時、


「いいわ、もう。あとは私が片付ける」


 そう言って、九能は蒼褪めた奈都海にキスした。突然のことに集中力の途切れた奈都海は、それまで我慢していた吐き気のせいで僅かに胃液を逆流させるが、九能はそれを意に介さず口づけを続ける。

 九能の唇が離れた時、奈都海は膝から崩れ落ちた。この時になって初めて、自分が立っていることすらできないほどに消耗していることに気付いた。精神の磨耗だけではない、この魔術に消費する魔力の量も、相当なものとなるのだ。

 奈都海の魔術によって殺したDMFBは、10余り。一人で全体の1割でも削ればいいほうだが、奈都海はそれ以上の数のDMFBを、ほとんど戦闘不能にしている。殺しはできずとも、約40のDMFBの戦闘能力を削ぐことに成功していた。

 あとは、九能の巨斧が引導を渡せば、終わる。




◇◇◇ ◇◇◇




 第一特殊遊撃小隊の参戦から30分で、合計116体のDMFBは駆逐された。

 数とそれにかかった時間を見ると、普通の疵術師ならば驚嘆は禁じえないだろうが、その半分を、あの“巨斧の魔女”が倒したと聞けば、その驚嘆は納得に変わる。

 といっても、今回の場合は、それもあまり正確ではない。九能の倒したのは、ほとんどが奈都海によって弱体化したものだ。そうでなければ、いくら九能を擁する特殊遊隊であろうとも、30分で100体以上のDMFBを片付けることは難しい。

 さて、30分で彼らの仕事は終わったわけだが、それでもなお、彼らは支部に戻ろうとしなかった。DMFBの死体の片付け、ではない。DMFBは、肉体を魔力で構成されており、死ぬとその肉体は魔力となって拡散する。死体は残らない。戦闘で破損した地形などの修復は、確かに必要だが、この場で行わなければならないほどの緊急性はない。魔力の濃度のせいで、しばらくは人の寄りつけない場と化しているからだ。

 残っている理由は、そこにあるはずのないものが、そこにあったからだ。

 特に驚きを隠せないのは、九能と未来小と深夜。目を覚ましていれば奈都海も、この場にいれば唯利亜も、その驚愕する面子に加わることは想像に難くない。

 つまり、鳳霊学園の関係者。特に、奈都海と唯利亜が、よく知る人物。

 しかし、彼女は魔術師ではないはずだった。深夜が見て、そうではないと断定したからだ。

 だというのに、ここにいる。気を失って、それでも息はあって、倒れている。

 いるはずがない、彼女の名は




 後朱雀沙夢濡といった。





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