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Silent Lyric  作者: 赤井呂色
序章:Silent Lyric
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Silent Lyric -0- プロローグ

 おそらくはじめまして、赤井呂色と申します。


 まずはじめに、この小説を開いていただき、ありがとうございます。



 この小説は、R15として投稿していたものを不適切な表現云々でお叱りを受けたために削除し、改稿したものを再投稿するものです。よって、そういった表現、その片鱗が見られる場合があります。もちろん、適正年齢に合った表現には変えさせていただきますが、苦手な方は無理をせず避けていただいたほうがいいと思います。


 また、この小説は「魔術」を主軸に置いたものであり、いわゆる中二病の側面があります。タイトルやあらすじから、そういったものを苦手とする方はそもそも開いてすらいないとは思いますが、一応、ご留意ください。




 ……予防線を張りすぎて長くなった気がします。


 ではどうぞ

 


「最初に言っておくことは、この世界に魔術師が存在するということ」

「……魔術師?」

「言葉通り、魔術を使う人間のこと。そして、超常現象を引き起こす異能とその現象そのものを魔術と呼んでいる。創作の中の魔術師と、大概は同じものだと思ってもらってかまわないわ」


「魔術を使うには、魔力と呼ばれる物質が必要になる。これは、魔術師が一般的に言っている俗称で、正式名称は、“術性元素”。まあ、魔力でいいけれど」

「で、術性元素には、体内に保有することでその生物の自己保全能力を促進させる効果があるの。傷を治したり、病気に対抗したり、そういったものを強化する効果ね」

「この効果は量に比例して強くなっていくけど、生物には魔力のキャパシティ――許容限界があって、それを超えると一転して害を及ぼすこともある」

「……私たちにも、その魔力が、あるってこと?」

「そうね。で、キャパシティを超えた時に発生するのが“重複干渉”と呼ばれている現象。脳の記憶領域に障害を発生させて、その時点の記憶が曖昧になったり消えてしまったりする。魔術師の存在がそれ以外の人間に知られていないのは、これのおかげ」


「さっきも言ったけど、人間だけじゃなくてあらゆる生物が、魔力を保有しているわ」

「で、生物の体内にある魔力は、その生物の精神情報――簡単に言えば感情の動きの情報――を記録する性質がある。でも、この記録情報が増えていくと、魔力の自己保全能力促進の性質が弱くなる。このことを私たちは、“魔力が精神情報に汚染される”と呼んでいて、一定以上汚染されると、生物はその魔力を呼吸と同時に排出して、大気中の新鮮な魔力を取りこむの。魔力は、大気中にある限り精神情報に触れることがなくて、精神情報が薄れて純度を回復していくから」

「大気中にもあるの……?」

「あるわ。そして、その魔力を魔術に使えるのは、“喉応術性神経”と呼ばれる神経器官を持っている人間、つまり、魔術師だけ」

「この喉応術性神経――簡単に術性神経って呼ぶけど――は魔術師の声帯を中枢にして、その声帯の動きに連動して働くと言われているわ。魔術師は、詠唱文と呼ばれる単語の羅列を声に出すことで、この喉応術性神経を刺激し、その刺激に反応した喉応術性神経から放たれる特殊な波長の電気信号が体内の魔力や大気中の魔力と反応して、これが“魔術”として発現する」

「ま、私たちには関係のない話なんだけど。――ここまではいいわね」


「あらゆる生物は魔力を持っているってさっき言ったけど、その普通の魔力のほかに“純性魔力”っていう、特別な魔力の塊もあるの。概念的には魂に近いかもね」

「これは魔力みたいに精神情報に汚染されることがなくて、魔術師も魔術に利用できないわ……例外はあるけど」

「この純性魔力はね、生殖細胞に含有されているもの以外は、常に体内に保持されていて、体内を廻る魔力に指向性を与えるだけなんだけど、その生物の死後にだけ体外に排出されて、短時間で通常の魔力として大気中で拡散してしまう」

「でも、ごく稀に拡散する前に、精神情報に汚染されて生物から排出された特定の指向性――一言でいえばどんな魔術に使いやすいかっていう性質、これを持つ魔力を引き合わせて、結合して、膨大な魔力の集合体になることがある。純正魔力という器に、大気中の魔力という中身が加わることによって、魔力のみで構成された一個の生命体が誕生するって表現で、私は教わったわね。こうして、DMFB(Directional Magic Fused Being=有指向性魔力複合生命体)って化け物が誕生する」

「このDMFBは、魔力を食べて生きていて、生物から魔力を吸い上げるって方法で食事を取るの。これだけなら大体は無害なんだけど、大きなもの、凶暴なものになると、魔力を持つ生物丸ごとを喰らうこともあるわ。しかも、普通の人間には肉体を魔力で構成されているDMFBは見ることができない……というか、重複干渉のせいで見ても忘れてしまうのね。いわゆる、不可視の人食い化け物がこの世界にはいるのよ」

「そんな……ものが」

「私があなたを助け出した時、あなたはその大群に囲まれていたのよ?」

「……ッ!?」

「あなたみたいなただの人間はDMFBに対して圧倒的に無力。だから、人間の中でもDMFBを観測できる唯一の人種である魔術師が、つまり私たちが、これに対抗する唯一の手段なのよ」


「ここまではいい? ダメって言っても続けるけど。次は私たち組織の紹介ね」

「私たちが所属しているのは、世界の魔術師の約8割が所属すると言われている、『テンプル魔術団』。その中の機関、ADEOIAが対DMFBを担っているわ。……私たちがね」

「ADEOIAっていうのは、Affected Deference Encompass - Official International Association(=疵術師公式国際魔術協会)の略で、魔術団の疵術師が必然的に所属することになる機関よ」

「し……術師?」

「いわゆる魔術師の亜種みたいなものが、疵術師(Affected Deference Magician)。魔術師との大きな違いは、魔術の行使に詠唱を必要としないこと、使える魔術に大きな制限があること、この二つぐらいね」

「私たち疵術師は、術性神経が他の神経と同化していて、声帯と繋がっていない。つまり、魔術の行使に詠唱の必要がないの」

「それと、疵術師は使える魔術が数種類に絞られているのが大半。魔術師はいろいろな魔術を使いこなしてこそ、なんだけど、疵術師はそれができない」

「でも、魔術の発動に詠唱が必要ないのは言うまでもなく利点だし、使える魔術が少ないっていう弱点だって、逆に言えばそれだけ熟練が速いとも言える。そのおかげでって言うべきか、そのせいでって言うべきか迷うところだけど、疵術師は魔術師よりも実戦向きなのよ。長期間の修練も必要なく即戦力として前線に出せるから、DMFBの討伐を主任務にすることができる」


「――私たちADEOIAの紹介はこのぐらいでいいかしらね」

「あの……DMFBって、そんなに……?」

「なに?」

「……世界中にいるの? 世界規模の組織にあなたたちがいるのは……」

「そうね」


「DMFBは基本的に神出鬼没よ。現状、出現予測すらできない。世界中どこに出るのかも不明。桁違いの魔力密度を持つファントムですら、出現するまでわからないぐらいだもの」

「ファン、トム……?」

「正式名称はIDMFB(Intelligent Directional Magical Fused Being=有知性有指向性魔力複合生命体)。DMFBの中でも最大級の警戒をされている天災級の化け物。通称でファントムって呼ばれてるのよ」

「名前の通りかなり高い知能を持っていてね、意思の疎通までできるんだけど、まあ大概は好き勝手暴れまわるだけな上に、何言ったって聞く耳持たないから、会話にならないんだけど。一応、ごくごく一部には人間を食べようとしないファントムもいるみたいね」


「だから、ADEOIAは世界各地に200以上の支部を配置して、それに対応しようとしてる。さらに細かい地域を網羅するための支部の支部、小支部も4000近くあるわ」

「でも、この数でも足りないのが現状よ。支部も小支部も、どの国、地域に行っても、足りないって声が出てくる。支部、小支部そのものだって、十分な戦力が常に配備されてるわけじゃないし、むしろ戦力不足の支部、小支部のほうが多いのが実態」

「この中国地方支部も同じ。私の小隊のおかげでなんとかなってるけど、今でも困窮してることに変わりはないし。あなたを助け出せたのは、奇跡みたいなものね」

「恩着せがましく聞こえるかもしれないけど、私たちがいなかったら、あなたは助けられなかったかもしれない」


「あなたはそれだけの窮地にいた」

「なのに、死んでいなかった。言ったわよね、あなたはDMFBの大群に囲まれていたって」

「でもあなたは怪我の一つもしていなかった。魔力を吸い取られた痕跡もない。なぜかしらね」

「あなたを疑っているわけじゃないの。ただ……ただね、あなたが渦中にいることは間違いないのよ。このままサヨウナラ、はできないの、残念ながらね」




◇◇◇ ◇◇◇




 2029年9月15日土曜日。


 ADEOIA中国支部のブリーフィングルームでは、珍しく部屋の本来の用途として、第一特殊遊撃小隊が出撃前の簡易的なブリーフィングを行っていた。

 小隊といっても、人数は10人前後。

 ADEOIAの部隊構成は通常の軍隊よりも小規模で、小隊の下位に位置する分隊もなければ、上位に位置する中隊もない。小隊が部隊単位の最小単位で、大隊を構成するのは、5個から10個の小隊となっている。また、旅団と師団に規模の差がなく、いくつかの大隊で構成されるという点で同じである。

 この独自の部隊編成単位は、あまり大人数の疵術師を一か所に留めておくことが難しいために、こうせざるを得なくなった結果である。

 中国支部も所属しているのは3個の大隊のみで、ADEOIAの基準で測っても小規模の旅団程度の規模しかない。


 そんな中国支部の中でも、特異な部隊がある。

 それが、第一特殊遊撃小隊。この支部だけでなく、他の支部や小支部で厄介者扱いされていた疵術師を集めて作られた小隊である。

 ADEOIAでも珍しい常設特別部隊であり、率いるのは、准将。

 その率いる准将、同時に中国支部の副支部長を務める者は、名を西園寺九能さいおんじくのうという。

 見た目だけは、まだ10代後半の少女である。しかし、その正体は、世界に轟くもう一つの名を持つ、並外れた実力を有し並外れた経験を経てきた疵術師だ。




「――そういうわけで、今回は出てもらう人数を制限するわ。尊何、咲、魅戈、あなたたちは残って。3人と今ここにはいない唯利亜、計4人を除いた全員で、先行した魔装小隊を援護するわ。場合によっては前にも出るからそのつもりで」


 作戦方針を伝えて、九能は解散と言って各々に準備をさせる。準備と言っても、疵術師にとって準備するものと言えば、携える得物程度だ。疵術師は、その特性に適した戦い方をするから、人によっては刀剣や銃器を使うことも多い。

 しかし、俺にとっては準備するものなど何一つなかったりする。己の身一つだけで戦うのだ。はじめは恐ろしくて戦いどころではなかったが……半年近く経った今でもたいして変わっていない。そのことに気付いて軽く自己嫌悪。なぜ俺なんかがこの小隊にいるのかは一向に解ける気配のない疑問である。


「奈都海っ 浮かない顔してるわね、戦うの、憂欝?」


 そんなに暗い顔をしていたのだろうか。小隊の隊長たる西園寺九能サマが、俺の背中に覆いかぶさって来た。九能の顔は俺の肩に乗っかっており、そこから俺の顔をのぞいている。

 お互いの息がかかるほどの距離に九能の美貌があって、俺は無意識に顔を逸らしていた。

 奈都海。それは、俺こと幣原奈都海しではらなつみの名前だ。女みたいな語感だと思った人は、正しいと思う。俺には唯利亜ゆりあという名の弟がいるのだが、こちらもやはり性別を勘違いしているとしか思えないネーミングである。といっても、唯利亜のほうは外見やら性格やら趣味やらまで性別を間違えているので、違和感はないのだが…… どちらにしろ、親の命名には少々のケチをつけたくなる。

 そして、九能。西園寺九能というADEOIAの准将にして中国支部の副支部長であらせられる彼女は、同時に俺の所属する特殊遊隊の隊長であり、俺の恋人でもある。

 のだが、こうして戦いの前でもスキンシップを求めてくるので、少しばかり辟易としている。俺としては緊張感を高めておきたいところなのだが、九能はそれを許してくれない。悪気はないのだろうが、俺はお前みたいに切った張ったの命のやり取りに慣れているわけではないのだと、一度、声を大にして言いたい。

 まぁ、無理なのだが。


『別に憂欝ってわけじゃない、けど……そうだな、戦いたくはない。できれば今すぐにでも帰って、唯利亜の看病でもしていたいね』


 俺の言葉は、おそらく九能にしか伝わっていない。読唇術という、唇と舌の動きから相手の言いたいことを読みとるという技術を持つ、九能にしか。

 俺は、喋ることができない。

 どういうことかと言えば、言葉通りだ。声が出ない、ただそれだけ。だから、読唇術のできる人に対しては口だけで話すし、そうでなければ筆談でコミュニケーションを取る。

 俺がこうなったのは、4年前の春のことだ。突然、声が出なくなった。病院で診てもらっても、原因は不明。結局、精神的なものだろうという結論が出た。俺も、そうなるのは当然だと思った。なぜなら、その日、時を同じくして俺の姉が事故で亡くなっているのだ。……まあ、その年は他にもいろいろあったが、妥当なところなら姉のほうに因果関係があると考えるのが、道理だろう。

 ただ、今ではその原因も明らかになっている。なんでも、俺の中の神経の構造が他の疵術師と違うからだとか。細かい原理は知らないが、そのせいで喋ると呼気とともに大量の魔力が漏れ出て行ってしまうため、俺の身体が勝手に喋れなくしているらしい。迷惑千万である。

 ついでに言っておくと、弟である唯利亜は疵術師のくせに風邪で寝込んでいる。間抜けな話ではあるが、戦いから逃れられるのなら、あいつの看病でも喜んでしてやるという心意気はある。

 もちろん、心意気だけだが。


「あらま、唯利亜が心配でしょうがないのね。でも駄目よ、唯利亜だってお兄ちゃんの活躍を見たいだろうしね、奈都海にはちゃんと戦ってもらいます」


 だから、そんなブラコン兄弟みたいに言わないでほしい。心外だ。そして、あいつは俺のことをお兄ちゃんとは呼ばない。いつからかは憶えていないが、いつのまにか兄さんという呼び方に変わっていた。

 俺が憮然としていると、九能は俺の上から退いて、立ち上がる。俺は座っているから、必然、九能を見上げる形になる。

 そこへ、快活な声がかけられた。


「手柄をよこしてくれるってんなら大歓迎だぜ、奈都海? 敵の数も多いみてーだし、かなりの戦果が期待できそうだからな。お前がいなけりゃ、俺の倒す分も増えるってもんだ」


 浅木久宮あさぎひさみやさん。年齢は19歳と俺より年上だから、敬称つきだ。

 階級は中尉で、この特殊遊隊でも安定した戦果を残している、主力を担う人物である。

 そして、彼の発言に呼応して、もう一人


「久宮、それ、死亡フラグっぽいよ? もしくは遅れてきた奈都海くんに窮地を助けられるとか。無様だから、そんなことにならないようにしてよね」


 割と辛辣な言葉を投げかけたのは、浄美未来小きよみあすか。歳は17で俺と同じ。通う高校も同じだということを初めて知った時は驚いた。

 階級は久宮さんと同じく中尉。この二人は組むことが多いらしく、噂ではできているとかそうでないとか。

 それはともかく、普段の未来小はこうまで辛辣ではないのだが、戦いの前になると神経質になるという癖みたいなものがある。慣れている隊員たちは、未来小の言葉を冗談の一つとして捉えて、特に諌めたりはしなかった。


「未来小じゃないけど、久宮はちょっと油断しすぎよ。ランクが低いって解析結果は出ているけど、それも不確実でしょう? 数自体は多いのだから、戦果を急いで暴走したりしないようにしなさい?」


 逆に、久宮さんにちょっとした説教をしてみせたのは、伊神未永栖いがみみえすさん。21歳で、左薬指に光る指環の示す通り、既婚者である。

 階級は少佐。この特殊遊隊の中では九能に次いで高い階級を持っていらっしゃる副隊長だ。九能が戦闘以外の面では心許ないという弱点を補ってくれるのがこの人で、疵術師として何をするべきか、どう生きるべきかを教えてくれたのはこの未永栖さん。とても21歳とは思えないほどに大人びている。本人に言うと、少し落ち込んでしまうが。女性にとっては老けて見えると同義なのだろうか、大人びているという言葉は。


「そうだ、咲ちゃん。僕もこれでもう上がるから、一緒に帰ろうか? 久しぶりに一緒の夕餉だね」


「帰りません。負傷して帰ってこられる方もいらっしゃるかもしれませんし、治療のできる私が帰るわけにはいきません。戦闘が終わるまで、私はここで待つことにします」


 明らかに空気を無視して一緒に帰宅しようとして、あえなく一蹴されたのは、小鳥遊尊何たかなしそんかさん。一蹴したのは、居川咲いがわさき

 尊何さんは27歳で、九能に次ぐ年長者。階級は大尉で、その能力は戦闘においてかなり強力なのだが、そのせいで味方への被害もあって、あまり集団戦を得意とはしていない。今回は、魔装小隊がいるから九能はあえて戦力からは外したのだろう。

 咲は、まだ14歳。学校には通っていないのだが、最近はどうしたことか、学校への興味を示し始めたらしい。先ほどの問答はこの二人が一緒に住んでいるからなのだが、これは咲が学校に通うためにとりあえずの保護者を求めた結果である。別にあれこれな関係ではない。

 で、彼女の階級はない。が、特殊遊隊の中でも重要な役割を担っている。というか、重要な役割に求められることを満遍なくこなせる、という言い方のほうが正しいか。戦闘はもちろん、治療から簡単な索敵から建造物の修復まで、様々なところで彼女の能力は重宝される。


「咲ちゃんも残るのー? じゃー魅戈もここにいるー。いっぱい遊べるね、咲ちゃん!」


「魅戈さん……あのですね、咲さんは別に遊ぶために残るわけではないですし。なにより魅戈さん、この間の戦闘報告書、まだ済んでないじゃないですか」


 能天気というか幼い声で悦びを表すのは三井魅戈みついみかさんで、それを呆れ混じりに抑えようとするのは大原深夜おおはらねよ

 魅戈さんは久宮さんと同じく19歳なのだが、見た目も性格も、そうは見えないほどに幼い。背や胸なんかは年齢相応なのだが、それすら打ち消してしまうほどに、童顔と精神年齢の幼さは異常と言える。黙っていればそうでもないのに、一旦喋り出すともう終わりである。下手すると小学生にすら見える。階級は大尉なのに。

 深夜は、16歳。こちらもまた、同じ高校の後輩である。同じ高校だと以下略。深夜は実は戦闘はからきしで、主に遠方からの索敵に効果を発揮するタイプの能力を持っている。今回の深夜の出撃は、敵勢力の正確かつ迅速な把握のためだろう。


「あの……もしかして、隊長、僕も、出るんですか?」


 不安げに九能にそう訊ねたのは、上杉天代うえすぎあまよ。まだ11歳で、しかも7月にこのADEOIAに入って来た、いわゆる新米というやつである。俺にとってはADEOIAでの初めての後輩ということになる。

 空を自在に飛べるという非常に珍しい能力を持っているため、単独では特別速い移動手段を持たない深夜や魅戈さんの足として働くことが多い。今回もそうなのかもしれないが、戦わないとはいえ、やはり戦場に出るのは怖いものである。その気持ちは十分すぎるくらいにわかる。九能に頷かれて年齢不相応に諦観に満ちた表情を浮かべてしまうその心情も、俺にはわかる。共感できる。


「さーて、準備は終わったわね。久々の大きな戦闘になりそうだし、みんな、気合入れていくわよ」


 そして最後に、隊長である西園寺九能。階級は准将で、この中国支部の副支部長でもある。

 外見だけを見ると、その不相応な立場に驚かされることになるのだが、彼女の実年齢は、68歳である。彼女自身の能力によって時間の進みが遅れており、70近い年月を生きながらも、まだ17,8歳の外見を保っているというわけである。

 その長い月日の間に、九能は魔術界に轟く異名を与えられているらしく、その異名を知らない魔術師はいないと言われるほどらしい。事実、九能の強さは人間どころか魔術師という異能者の次元すら超えている。と思う。

 そんな化け物じみた西園寺九能という疵術師に率いられるこの小隊は、未だに一人の犠牲者も出していない。というか、少なくとも俺がADEOIAに入ってから半年近く、この支部から戦死者は一人も出ていない。話によれば、半年どころか一ヶ月も戦死者を出さない支部は、中国支部並みの規模であればあり得ないとのこと。

 この支部の残した大きな業績は、この支部にいる疵術師が実力で戦場を切りぬけてきた証。

 当然、この特殊遊隊の隊員も、自分の能力に絶対の自信を持ち、それを最大限に活かすべく、今日も戦場に躍り出る。

 ……

 その中に俺さえいなければ、気楽な傍観者でいられたんだが。

 現実は非情だ。

 一度は決めた覚悟。覚悟は貫いてこそ覚悟だ。なんて、ある人物の言葉を引用してみる。堅気からはかけ離れたところで働く人の言葉だが、そんなことを言えば俺なんか堅気の定義の正反対にいるような立場だし、問題はないだろう。はじめから問題があったのかと訊かれても困る。

 覚悟を貫くべく、俺も立ち上がることにした。





 お疲れさまでした。


 どうでしたでしょうか。よければ感想等いただければ、作者はとても喜びます


 ではまた、縁があれば次回で


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