ぺたん、ずるり
一面鏡張りの、部屋と言うより広い廊下の様な場所だった
無限に複製を繰り返す壁や天地が実際よりもはるかにこの場所を広大に見せている
私は犬のように、四足の姿勢でいつからかここにいた
鏡に映る私もまた、様々な角度から無限に複製されて、そのどれも、なんとなく虚ろな様子だった
そういえば、私は服を着ていなかった、ここに来る途中で私をここに放り込んだ誰かがそうしたのかもしれないが、それもよく覚えていないのだ
暫くの間、そのままの無様な格好でぼうっと辺りを見回していると
空間と私だけを写していた景色に、染みのような赤い色がぱあっっと広がった
どうやら、どこかで手を切ってしまったようだ、ぽとりと落ちてまた広がった
どうもおもっていたより、血液というのは美しくない
それというのも、こすったようにかすれてみせたり、指紋の模様がついてしまったり
なんだか汚しているような不快な気持ちになるからだ
他にもどこか傷ができたらしい、膝のあたりだろうか
良く見ると、床一面の鏡には無数の細かな溝が綺麗に揃って廊下の向こうへ伸びている
どうやって加工したのか知らないがガラスに彫られた溝はまるで刃物のようで
僅かに動くだけで私の体に小さな傷をこさえていくのだ
血が手の平一面に広がって、抵抗なくぬるっと滑ると
それでまた傷が増えていく。
流れた血は溝に流れ込み、私の前後にすうっと伸びて
やはり、あまり美しくは無い赤色の領域を少しずつ広げていく
前を見て、後ろを見た
視界の範囲に行き止まりは無さそうだ
四つ足で這うように、ほんの1メートルだけ前に進む
左足がずるりと滑って痛みに顔をしかめた
仮にこのまま進めば、いつかはどこかにたどり着くのだとして
とりあえずまだ見えないその場所につくまでに
これを繰り返して進んでいくのかと思うと少々うんざりする
たどり着く前に血を流しすぎて力尽きてしまう可能性もあるだろう
その場合私はこの、奇妙だがある意味で美しくもあるこの場所を
べたべたと染め上げて、仕上げににこの上なく汚いままピクリとも動かなくなって
永久にそのままで、無限に映し出されてしまう事になる
ぺたん、ずるり、ぺたん
たまには色んな事を考える、大体が後悔に満ちた
頭の中では行き着く場所の無い、実にろくでもない事だ
ぺたん、ずるり、ぺたん
工夫を凝らしても、あまり上手くなる事も無い
している事があまりにも単純すぎるからだ
ぺたん、ずるり、ぺたん
そういえば、すうっとこんな事ばかりをしているようなきがして
なんだかもう、どうにもやるせないのである