2011/03 姫魅が愛華に捕らわれる ~ 姫魅が呪いを受け、チェンの登場
R
周囲の景色が自分をどんどん追い越していく。
ーーー違う、僕が下がっているんだ
姫魅は目を覚ますと、自分が黒い鳥籠の中にいることに気付いた。
はっとして振り返ると、籠の先端に箒が見えた。
操縦しているのは白いポニーテールの女
その後ろで髪の長い男が空を眺めている
K「あ、愛華さん。」
愛華はぎろりと姫魅を見降ろした。
よく見ると肩に大きな黒い染みがある。
血の跡だ。
K「き、傷は大丈夫ですか。」
痛みと共に記憶が徐々に蘇る。
姫魅は自分つけた傷だと気づいた。
K「ご、ごめんなさい。」
A「・・・。
この状況で人の心配か。随分なめられたものだ。」
K「そ、そういうわけでは・・・。でも、人を傷つけることは誰であろうと好きじゃないんです。」
A「甘いな。兄とは大違いだ。」
兄という言葉に思わず反応する。
K「兄さん??に、兄さんの宵狐を知ってるんですか!?」
鉄格子を掴んだ瞬間、姫魅の体が吹き飛んだ。
反対側の檻に頭をぶつける。
A「結界だ。頭の方も兄より大分劣っているようだな。」
A「知っているさ。俺の部下だ。」
K「部下!?」
A「極めて優秀な働きぶりだった。
頭も切れれば魔力も強い。与えた任務は全て完璧にこなした。
人殺し、盗み、窃盗・・・」
K「嘘だ!兄さんはそんなことする人じゃない!」
ガンッと言う音と共に鳥籠が大きく揺れ、姫魅はバランスを崩した。
愛華に蹴られたらしい。
A「やはり兄弟だな。胸糞の悪さが似ている。」
姫魅は愛華を見上げた。
A「互いに庇い合い、傷つき合い。」
愛華が指先で弧を描くと姫魅を捕えた鳥かごが浮かび愛華の目前で止まった。
A「心配しなくても、会わせてやるよ。」
愛華は腕を伸ばし、姫魅の髪をつかんで言った。
A「そして教えてやる。お前らの絆の無意味さをな」
愛華の瞳はどこまでも冷たかった。
冷たい氷の矢に貫かれるようで、姫魅は体が震えるのを感じた。
だけど・・・
K「やっぱり、似ていますね。」
独り言のように、自然と言葉が出た。
水色の髪に緑の瞳。
そして一度絡むと外せない、透明な眼差しーーー
K「驚いた顔なんか、螢にそっくりだ。」
突如愛華の目が見開き、頭を抱え呻り声をあげ始めた。
A「ぐ・・・ううぅ!!」
G「愛華、どうした!?」
A「頭が・・!」
月花が振り返る。
A「俺は・・・関係無い!そんなもの俺には関係ない!!」
K「あ・・・!」
愛華が叫ぶと同時に魔力を失い、重心を崩した籠が姫魅もろとも落ちていく。
このままじゃ、地面にぶつかる!
慌てて浮力を挙げようとするが上手くいかない。
間に合わない!
姫魅が目をつぶった瞬間、閃光と爆音が一面に響いた。
バリンッ!!
という音とともに檻が割れる。
投げ出された体を誰かが受け止めた。
N「姫魅!無事か!?」
K「ネル・・?」
ほっと安堵のため息をついたカーネルは、地面でうずくまる愛華を見た。
不意をつかれた攻撃に箒もろとも転落したらしい。
女もいるが、男は負傷している。
恐らくはプーの部下・・・ここで、捕える!
N「すぐ終わるから、ここで待っていなさい。」
姫魅が何か言いかけた言葉を待たずして、カーネルは愛華に向かって行った。
2011/03/01 (Tue) 20:08
A
愛『おもしろい…まさか、カーネル・サンダースに会えるとはな。』
月『カーネル・サンダース?!なんでこんなところに…』
愛『その黒髪だろう。欲望と争いを生むカラスを宇宙平和軍が放っておくわけがない。…利用しないなら、殺してしまえばいいのにな。価値がないどころか手間を増やすばかりだろ?』
愛華の冷たい視線に、姫魅の全身が硬直する。
心が冷たく重い。
俺は…カラスは、戦わなければ、不要な…否、迷惑な存在でしかない。
過去の記憶が、愛華を通して語りかけてくる。
カ『姫魅が笑う。姫魅が唄う。充分価値があると思うぞ?』
ネルが愛華に微笑む。
愛『下らないな。月香、お前は弟を捕らえろ。こいつは俺が殺る。』
月香が頷く。
カ『姫魅、自分の身は自分で守れ。』
姫魅が力強く頷くのを確認すると、ネルは愛華に視線を戻した。
カ『さて…俺の姫魅に何しやがったか知らねぇが…』
ネルが愛華を視線で捕らえる。
カ『姫魅に手ぇ出してただで帰れると思うなよ。』
2011/03/11 (Fri) 21:26
A
愛華が身を屈めると、愛華が姿を消す。
瞬間、ネルの目前に愛華が姿を現す。
愛華の右手では、圧縮されたエネルギーが光の球体となって、次第に大きさを増していた。
愛『あの世で祈れ。』
ネ『なめるな。』
ネルが蹴りを出す。
愛華が手中の球体を消し、両肘を曲げ、腕で防壁をつくる。
蹴りには魔法が仕込んであったのか、愛華の腕はあり得ない方向に曲がり、体は後方に吹き飛んだ。
愛華の体は地につく前に再び姿を消し、ネルの背後に現れる。
愛『やるな。』
ネ『暴れ馬共を纏めなきゃならない立場でね…それなりに。』
ネルが姿を消し、愛華の蹴りが空を切る。
再び、二人が距離を置き、睨みあう。
愛華が腕を振ると、折れた腕が治った。
月『呆けすぎじゃない?あなたの相手は私よ。』
月香が姫魅の背後を奪う。
振り返る姫魅に、月香が裾から放った蛇が絡み付き、動きを封じる。
月『弱過ぎるんじゃない?手応えがないわ。』
痛む心を無視して、冷たく言葉を吐き捨てる。
自分を演じ、自分に嘘をつくことに必死になる。
――闘いに集中するのよ。
自分に言い聞かせる度に、宵狐の顔が脳裏に浮かぶ。
姫『ストレスはお肌の敵ですよ。』
月『なっ?!』
蛇に捕らえられた姫魅が揺らぎ、形を崩しながら消えて行く。
戸惑う月香の足下が突然ぬかるむ。
沼のようになった地面に足を捕られ、月香が思うように動けずにいると、目の前の地中がひび割れ、姫魅が這いずり出てくる。
姫『はぁ。』
立ち上がった姫魅は、ため息を吐き、服の土埃を払った。
月『な…こんな…高度魔法を!?』
誤算だった。
もがくほど足は沈み、膝までが埋まってしまった。
姫『動かないでください。頭まで沈んでしまいますよ?』
頭の土埃を払いながら姫魅が言う。
月『こんな魔法…!!』
爆発で吹き飛ばす、あるいは移動魔法で…
しかし、月香が何度試しても魔法は発動しない。
月『なんで?!くそっ!!』
姫『…地中に、魔法を使えないよう、魔方陣を張りました。あなたは…たぶん、なす術無しです。』
姫魅が自信なさげに言う。
愛『油断したな、月香。帰ったら…わかるな?』
愛華がネルの攻撃を防ぎながら、月香を横目で見る。
冷たい瞳に寒気が走る。
月『まだ!!まだよ!!こんな奴、今すぐ…』
力ずくで魔方陣を破ろうと集中するが、魔方陣はびくともしない。
相手の魔力が強すぎる。
月香が姫魅を睨み付けると、彼は困った顔をして呟いた。
姫『何を…苛立っているのですか?』
月『えっ?』
姫魅がゆっくりと歩み寄り、月香の頬に優しく手を添える。
姫『あなたは…自分を演じきれていない自分に苛立っている。』
月『何を…?!』
手のひらから伝わる温もりが嘘を溶かして行く。
姫『声は正直です。あなたの言葉は確かに冷たい。』
青い瞳に吸い込まれてしまいそうで、月香は思わず姫魅から目をそらした。
姫『でも…あなたの声は悲鳴をあげている。』
――まるで兄のように。
姫魅の脳裏に浮かぶ兄の顔。
自分に嘘をつきながら、冷たい自分を演じ切れないでいる優しい兄の表情。
彼女もまた、誰かを想い、自分を犠牲にしているのだろうか。
――この人、宵狐と同じ目をしてる。
姫『優しくて…悲しい人。』
月『…え?』
姫魅が月香を抱き締める。
安堵で、月香の全身から力が抜ける。
――温かい。
愛『…使えない女だ。』
ネ『なっ…!!』
愛華がネルを蹴り飛ばし、月香に向けて右手を伸ばす。
――怖い!!
目を閉じた月香の身体が吹き飛び、全身に衝撃が走る。
『痛っ!!』
思わず声をあげたが、遅れて自分の体に痛みがないことに気付く。
月香がゆっくりと瞼を開けると、目前に苦痛に歪む姫魅の顔があった。
彼の腕は彼女をしっかりと抱いている。
月『庇ったの…?』
姫『………。』
姫魅に返事をする余裕はないようだ。
体を起こすと、血の染みた服が肌に張り付く。
月『血…?』
自分に大きな怪我はないはず。
姫魅を見ると、脇腹から激しい出血をしている。
そう言えば、彼は愛華に刺されていた。
運ぶ前に傷を簡単に閉じておいたが、今の攻撃で傷が再び開いてしまったのだろう。
月『あなた…きゃっ!!』
月香に愛華の蹴りが飛ぶ。
愛『敵に庇われるなどと…不様だな!!』
起き上がった月香に、再び蹴りが入る。
月『申し訳な…』
愛『貴様など、宵狐が拾った捨て猫に過ぎない。役に立たなければ、価値などない。』
愛華の連続の蹴りが、月香を襲う。
月『かはっ!!』
愛『続きは後だ。早く立て。』
月香が震える足に力を込め、立ち上がる。
ネ『姫魅!!』
姫魅は出血をしていて、動ける状態じゃない。
男は姫魅のすぐ側にいる。
下手に動けば姫魅が危ない。
チ『珍しくお困りだね、ネル。』
2011/03/14 (Mon) 0:04
A
動けずにいるネルを笑う声。
突然現れた青年の蹴りを愛華と月香が後方に下がり、かわす。
ネ『チェンッ?!お前…自宅でニコニコ動画を見てたはずじゃ…』
チ『アンナさんから緊急出動命令がでた。僕はインドアであってニートじゃないから。』
愛『…誰だ?』
愛華の問いかけに、チェンが不機嫌そうに答える。
チ『インドアの勇者、チェン(凪久)。宇宙平和軍の医療研究チーム責任者。』
ネ『インドアの方が本職だな。』
ネルの呟きを華麗に無視し、チェンがネルを見る。
チ『グロリンチョ動画鑑賞でインドア生活を満喫していたところを…泣く泣く中断して来たんだから、勝たないと承知しないよ?』
ネ『お前らしいな。』
チ『姫魅君は、僕に任せて。』
ネ『さんきゅっ!』
ネルがチェンに笑って見せ、愛華に向き直る。
月『どうするの?』
月香が愛華を見上げる。
愛『あいつは医療系だ。最初の攻撃もただの蹴りだった。実質、戦力はカーネルだけ…作戦続行だ。』
2011/03/14 (Mon) 0:09
A
蛍『慰鶴…大丈夫?』
咲蘭の医療魔法で手の傷は塞がったものの、慰鶴の顔色はよくない。
慰鶴は痛みを堪え、蛍に微笑んで見せた。
慰『俺は大丈夫だよ。』
蛍『ごめんなさい…愛華お兄様が…』
蛍が俯く。
涙は隠せても、声の震えまでは隠しきれない。
蛍『…こんなことがあってからでは、信じてはもらえないだろうし…言えることでもないけど…お兄様は本当は優し…』
慰『知ってるよ。』
蛍『え…?』
蛍が顔をあげると、いつもと変わらない笑顔が蛍を見つめていた。
太陽のような温かな瞳が、心の曇りを除く。
慰『蛍にこんなに慕われてんだ!!いい兄ちゃんに決まってんだろ?』
蛍『慰鶴…』
咲『まぁ…そんな曖昧な理由でなくても、彼が今、本来の彼でないのはわかるわ。』
蛍『咲蘭さん…』
言葉に乗って、温かな何かが蛍に流れ込む。
エ『あああああ!!わかりきったことの確認はええねん!!俺の姫魅!!姫魅が!!気が狂いそ…』
咲蘭がエルモの両頬を引っ張る。
エ『いだだだだ…痛い痛い!!咲蘭、痛い!!』
パ『リーダーが限界みたい☆そろそろお兄ちゃん、追いかけよ?』
蛍『うん!!』
蛍は感謝を込め、力強く返事をした。
* * *
20分後、再び牢に足音が響く。
足音の主は、先程とは違う小柄なシスターだった。
目で合図を送ると、涼風が頷く。
涼『シスター。』
口説こうと言うのに、その呼び掛けはどうか。
シスターが涼風の呼び掛けに振り向くと、涼風の顔が歪む。
涼『あ…まぁ…あの…あ…』
シ『………。』
涼風のはっきりしない言葉をシスターが気長に待つ。
涼『…ありがとう。』
涼風は思うように動かない唇を力いっぱい動かし、一言呟くように言うと沈黙した。
何をしてるんだ、あいつ?
チャンスを潰す気か!!
シ『若いのは、元気がいいねぇ。牢にいながら話せるんだから。』
シスターが振り向き、深いシワを刻んだ顔が布から覗く。
シ『無理はするもんじゃないよ。』
年期の入ったシスターは、笑い声と咳き込む声を牢に響かせながら去って行く。
…なるほど。
俺が口説いたのを以前に来たシスターが告げ口したのだろう。
老婆はその対策か。
解除された魔方陣が、再び力を強めていく。
涼『ちっくしょおおお!!』
宵『涼風?!』
涼風の牢が爆発し、厚い扉が吹き飛ぶ。
弱まった魔方陣を無理矢理破壊したのか…砂埃が消え、現れた涼風は傷だらけだ。
緊急の放送とブザーが鳴り響く。
宵狐の牢も壊すと、涼風は宵狐の腕を力強く握り走り出した。
涼『行くぞ、葛葉!!』
2011/03/14 (Mon) 15:07
A
姫『チェン…さん?』
まるで寝言のような口調だ。
チェンは姫魅の傷を手当てしながら、ゆっくりとした口調で語りかけた。
チ『姫魅君、これから君を避難させる。』
姫『避…難?』
姫魅の瞳が怯える。
姫『避難?違う…隠すんだ!!俺は兵器だから!!プーの手に渡っちゃいけないから!!』
暴れる姫魅をチェンが押さえ付ける。
姫魅のパニックは激しくなる一方だ。
もし、魔法を発動されたら…そうなる前に、彼を落ち着かせなくてはならない。
チ『姫魅君、落ち着いて。』
姫『離して!!俺は物じゃない!!俺は物じゃない!!ネルは!?俺はネルのそばにいる!!』
チ『あっ!!』
チェンの手から、姫魅の腕が滑り抜ける。
慌てて、姫魅の腕を掴みなおす。
チ『姫魅、落ち着いて。深呼吸をするんだ。』
姫魅の肩が大きく上下する。
少し落ち着いたのか、姫魅は逃げることを辞めた。
愛『月香!!そいつを逃がすな!!』
月香がチェンに駆け寄る。
ネ『させるかっ!!』
愛『お前の相手は俺だろ?』
愛華がネルを背後から押し倒し、腕をねじあげる。
愛『絆が足手まといだったな。』
愛華が嘲る。
チ『姫魅君、ちょっと待っててねー。』
チェンが眼鏡を直し、白衣の下から厚い本と注射器を取り出す。
チ『さて…』
チェンは面倒臭そうにため息をつくと、間近に迫った月香を本で殴った。
ふらつく月香に、チェンが注射器を刺す。
月『な…なにを?!』
チ『少々血液を…』
チェンは注射器を抜くと、月香から離れ、本を開いた。
注射器の先端をペン先に付け替え、白紙の本に何かを書き込む。
“月香:気絶”
月香の血液が本に染み込むと、瞬間、月香の身体が力を失い倒れる。
チ『ふぅ…やっぱりこの魔法…は…魔力を削られ…ますね。』
チェンが絶え絶えに言う。
眼鏡を拭き、姫魅のもとへ足を向けた彼だったが、足がふらつきその場にしゃがみこんだ。
ネ『チェンを嘗めたのが失敗だったな。』
愛『そのようだな。作戦変更だ。』
愛華がネルの背に手を当てる。
愛華の手から出た大きなシャボン玉が、ネルの体をすばやく飲み込む。
ネ『しまった…!!』
愛『そこで大人しく見ていろ。』
シャボン玉の中で、ネルが姫魅の名を叫び暴れるが、シャボン玉はびくともしない。
愛華は、シャボン玉の折から逃れようと暴れるネルに、不敵に笑うと姿を消した。
ネ『姫魅!!』
ネルの叫びが届くより先に、愛華が姫魅の背後に立つ。
姫魅が振り返る間も無く、愛華が姫魅の背に手のひらを叩き付ける。
姫魅の背中いっぱいに魔方陣が浮かびあがる。
姫『あああ!!』
痛みに悲鳴をあげ、姫魅が崩れるようにその場に倒れる。
愛『贈り物だ。これを見た宵狐の顔が楽しみだな。』
2011/03/14 (Mon) 16:52
A
ネ「姫魅・・・姫魅!!」
ネルが悲鳴のように姫魅の名を繰り返し叫ぶ。
何度拳を叩きつけ蹴りいれても、シャボン玉に変化はない。
ネルの拳は痛々しく、赤に染まっていた。
チ「落ち着け、ネル!!」
足に力が戻ったチェンが、ネルのそばに駆け寄る。
チェンがペン先で突くと、ネルを捕えていたシャボン玉がパチンと弾けた。
ネ「姫魅!!」
ネルはチェンに目もくれず、愛華に右手を向けたまま姫魅に駆け寄る。
愛華は姫魅の前に立ち、ネルを迎え撃とうと構える。
ネ「どけっ!!」
勢いを落とすことなく、ネルが愛華に頭突きをくらわす。
予期せぬ攻撃を防ぐことができず、愛華がよろける。
愛「ず・・・頭突き・・・だと?」
ネ「姫魅!!姫魅!!」
ネルには愛華すら目に入っていないようだ。
ネルが抱きかかえると、姫魅がネルの頬に手を伸ばす。
弱々しく触れた姫魅の手に、ネルが手を重ねる。
姫「ネル・・・大丈夫だよ。少し、痛いだけ。」
姫魅は大丈夫と笑っているが、微笑みに力が無い。
長引く闘いと、闘いの中で負った怪我で、疲れが出ているのだろう。
ネルが姫魅を抱きかかえたまま姿を消し、瞬間チェンの隣に現れる。
ネルは姫魅の状態をゆっくり起こすと背中を見た。
彼の背中には、見たことのない魔法陣が浮き上ったままである。
ネ「見たことのない魔法だ・・・チェン、急いで姫魅をジョニーさんのところに・・・!!」
チ「お前は・・・?」
ネルが立ち上がり、愛華を睨む。
日常の穏やかな表情でもなく、仕事の鋭い表情でもない・・・今までにない彼の表情に、背筋がゾクッとする。
ネ「奴を・・・捕える。」
彼が感情を押し殺し返した答えを確認して、チェンは頷いた。
姫「ネル。」
ネ「姫魅、すぐに帰るよ。いつものように唄を歌って、待っていてくれ。」
姫「うん。」
ネルが姫魅の頭を撫で、チェンの目を見る。
チェンは小さく頷き、姫魅を抱いたままジョニーのもとへ走った。
愛「あいつにもう用は無いが・・・お前とゆっくり戦ってみたくなった。カーネル・サンダース、噂以上だ。」
ネ「そりゃ・・・」
ネルの姿が消え、愛華の上空に現れる。
ネ「どうも。」
愛華が消え、愛華が立っていた場所にネルの踵が叩きつけられる。
地面が割れネルの足が食い込む。
続けて、背後に現れた愛華の腹にネルの肘が撃ち込まれる。
愛「・・・今のは痛かったぞ。」
ネ「それは良かった。」
ネルの回し蹴りが愛華の脇腹に食い込む。
踏ん張りが利かず、吹き飛ぼうとする愛華の腕をネルが咄嗟に掴み、力の流れとは反対の方向に愛華をぶん投げる。
愛華の方からゴキッという嫌な音がして、愛華の体はそのまま地面に叩き付けられた。
2011/03/14 (Mon) 22:49
A
姫『チェン…さん…』
足音で掻き消されてしまいそうな小さな声が、呼び掛ける。
チェンは立ち止まり、姫魅を降ろすと、わずかに動く口に耳を近付ける。
姫『…誰かが…誰かが話し掛けてくる…。誰かが俺の中に…うぅ…』
チ『姫魅君、しっかりするんだ!!』
チェンの声に、姫魅が強く閉じていた目をうっすらと開ける。
彼の瞳を見て、チェンが言葉を失う。
チ『瞳が…紅い…』
カラスの特徴でもある青い瞳が、燃えるように紅く染まっている。
姫『チェンさん…俺が俺じゃなくなる…誰かが…俺の記憶を…忘れたくない…あぁ!!』
チ『姫魅君!!姫魅君!!』
苦しむ彼の耳に、チェンの声は届いていない。
姫『声が…俺は…憎んでなんか…うぅ…俺は…』
チ『姫魅っ!!』
チェンの叫びで、姫魅が我に帰る。
姫『チェン…さん?』
落ち着きを取り戻したようだが、彼はまだ肩で息をしている。
瞳は紅いままだ。
チ『姫魅君、大丈…』
慰『姫魅!!』
蛍『姫魅!!大丈夫?!』
姫『慰鶴…と…ほ…たる?』
姫魅が二人の名を確認するように呼ぶ。
慰鶴と蛍の向こうから、更に三人駆け寄ってくる。
エ『姫魅!!俺や!!(お前の)エルモや!!(誰よりも)心配したんやで?』
姫『エルモ…さん?』
エ『せや!エルモや!!(お前の王子様が)助けに来たで、安心せい!!(そして俺の胸に飛び込んできぃ!!)』
姫『うん…ありがとう。』
姫魅が目を細めて笑う。
パ『目が紅い…よね?大丈夫なの、これ?』
パエリアが姫魅の顔を覗き込む。
慰鶴は姫魅を抱く男の顔を確認する。
何度か屋敷に訪ねて来たことがある。医療方面のトップだとか。
名は確か…
慰『チェンさん…姫魅は一体…』
チ『慰鶴君、姫魅君は何か呪術系の魔法を受けたようだ。』
慰『呪術…系…』
蛍『解けるんですよね…その魔法…』
チ『わからない。未知の魔法だ。プーが編み出した、新しい闇の魔法かもしれない。』
全員が姫魅を見つめる。
姫『ははっ…俺、人気者だ。』
姫魅が笑う。
優しい微笑みに浮かぶ瞳の紅が異様だ。
姫『人気者は簡単にやられたりしないんだよ。慰鶴に借りた漫画でも…』
慰『あぁ、そうだな。』
慰鶴が優しく微笑み、姫魅の頭に右手を乗せる。
蛍が姫魅を力強く抱き締める。
蛍『あなたには、あたし達がいるから。大丈夫だよ。』
姫『蛍…は…恥ずかしいよ。』
蛍の体温と一緒に伝わる優しさが、とても暖かい。
エ『な…何してんねん!!(俺の)姫魅に抱き付くなっ!!』
咲『リーダーは黙ってて…チェンさん、あたしたちは何をしたらいい?』
2011/03/15 (Tue) 2:51