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とある☆物語 original novel  作者: さのすけ/ゆのすけ
7/15

2011/02 フウの語り ~ 姫魅の暴走

A

フウが、慰鶴と宵狐を瞳に映す。


フ『私は、蛍の心…大切なものを失い、不安定だった彼女の心が、再び力を得た。そなた達のおかげだ。例を言う。』


フウが前足を折り、礼をする。


い『俺達は蛍の仲間だからな!!』


慰鶴が八重歯を見せ、笑う。

姫魅が頬を赤く染め、小さく頷く。


シ『あれは…守護獣!?』

さ『強き心を持った魔法使いのみが出会うことのできる、心の化身。』

パ『それって、超大物魔法使いだけが会えるものでしょ?!ジョニーとか、伝説の三人とか、カーネル・サンダースとか…なんであいつが…!?』


パエリアが悔しそうに腕を降る。


シ『あの子が、大物ってことや。』


あ『さすが、プーのブラックリストに載るだけのことはある。』


新たな声に、場の空気が凍る。

ひとつに束ねられた、長く美しい髪。

見覚えのある瞳に、かつての暖かさはない。


ほ『愛華…兄様…?』


絞り出した声は、愛華には聞こえない。


あ『君が…宵狐の弟か。』

い『姫魅!!』


見えなかった。


愛華は、一瞬で姫魅の背後に立ち、彼の両腕を掴み上げていた。

姫魅の顔が、痛みで歪む。


あ『瓜二つの顔…まるで、小さな宵狐だな。』

き『…宵狐を知っているのか。』

あ『彼は、俺の部下だからね。』


姫魅の耳元に愛華が寄る。


あ『彼は、よく働くが…少々問題児でね。今日はお留守番だよ。』


囁かれた言葉に、姫魅が目を見開き、力を失う。

姫魅と蛍を見て、慰鶴がシルクハットに向かって叫ぶ。


い『シルクハット!!一時休戦だ!!』

エ『シルクハットやない。エルモや。』


エルモが愛華と姫魅を横目で見て、頷く。


エ『手ぇ、貸すで。』

い『さんきゅー!!』

エ『…その代わり、礼にあの黒髪の子を…』


パエリアがエルモを叩く。


パ『ただ事じゃないね☆協力するよ!!』


* * *


す『君は…?』


涼風と名乗る男が訪ねる。


よ『…葛葉。』


彼が長く牢にいるならば、俺がカラスだと言うことを耳にしている可能性がある。


カラスだとわかれば、相手が抱くのは、恐怖あるいは欲望。

俺は、偽名を名乗った。


す『葛葉か。』


涼風が黙り混む。


す『…戦に身を置く者の匂いがする。』

よ『…温室育ちにもわかるほどになったか。』


力のない笑いがこぼれる。


す『いや…俺は王族出身だが…』


扉の向こうで、彼が苦笑するのがわかった。


す『王族であると言う意識がないと、よく怒られたものだ。戦場に立つことが多かったから、そういう匂いはわかる。強さも。』


この男…何が言いたい?


す『葛葉…君は強い。』

よ『………。』

す『一緒に逃げよう。』



2011/02/05 (Sat) 11:31

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 R

Y『逃げ・・・』


思わず目を丸くした。


牢の鍵が閉じられてからずっと考えていたことだった。


しかし見張りには重厚な装備の兵、加えて愛華の強力な魔方陣が一面に敷かれている。

それ以前に両腕を強力に締め上げている鎖蛇は宵弧の魔力を封印している。


どう考えても難しい・・・しかしこのまま愛華が帰ってきてほどいてくれるのを待てと言うのか。

その間に弟は、姫魅は。


嫌な汗がほてった体を伝う。

無力さへの恐怖と焦燥感。

そして足元にすり寄ってくる絶望感を必死に払いのけていた所だった。

逃げなければ。

逃げられない。

逃げなければ、行かなければ。

行けない。逃げられない。


もはや心で唱えることすら恐ろしくなってきた。


それをいとも簡単に口に出され、思わず身体が硬くなった。

しかも見知らぬ、顔さえ見えぬ相手に。



S『できるさ。』


涼風はもう一度言った。


S『はっ。そんな気違いを見るような顔するな。俺に考えがある。』

Y『考え、だと?魔法も使えないこの状況からか?』

S『ああ。ずっと機会を待っていた。協力者が必要な方法だ。それが現れた。』

Y『俺を囮にでもするつもりか』

S『生憎だが共に闘ってもらう。』



何故だろう、先ほどまでぐちゃぐちゃに凝り固まっていた心が溶けていく。


体の周りを回り続ける青白い魔方陣は、精神撹乱作用もあった。

宵弧の精神は知らないうちに随分と蝕まれていた。


不思議な安心感のある声だ。

この感じ、どこかで・・・


ふっと螢の顔が浮かんだ。

Y『!?』

S『おい、聞いてるのか?』

Y『あ、ああ。すまない。』

頭を振った宵弧に反応した鎖蛇が慌てて腕を締め上げた。


Y『で、どうするんだ。どうすればいいんだ。教えてくれ。』

S『外に出られないなら、中から出る。』

Y『中・・?生憎魔方陣は牢の中にも敷かれてるようだが。』

S『強力な殺戮魔方陣がな。その魔方陣が一度だけ解かれるときがあるだろう。』

Y『・・・?』


そんなときが・・


記憶をたどって見るがそんなときは無かった。

夜も眠らず、一瞬たりとも気を抜かずに機会をうかがっていたはずだ。


S『気づかないのも仕方ない。撹乱魔法で十分頭をやられていたし、その時は気を失うように、記憶も削除されるように操作されていたからな。』

Y『俺は頭などやられていない!』

S『あ・・・?ああ。まあ気持ちは分かるが。』

Y『・・・・いつだ。』

S『食事のときだ。』

Y『食事・・・?』


掴まってからかれこれ何も口に入れていない。

出された物も断固として拒否してきた。

出された物・・?


そういえば、いつも気が付いたら食事が用意されて、気が付いたら消えていた様な・・・


Y『うっ!!』

思いだそうとした瞬間、頭に鋭い痛みが走る。

おぼろげな記憶が蘇ってくる。


Y『白い服を着た・・・女??』

S『ああ。食事を運ぶためのシスターだ。』

Y『全然気がつかなかった・・・』

S『眠らされていたからな。』

Y『くそ・・・俺としたことが・・・遠隔魔方陣ごときに・・・』


悔しさで縛られた体を無理矢理ねじる。


S『あまり無駄な体力を消費するな。』

Y『・・・。』



S『・・・半年だ。』

Y『・・え?』

S『俺もそれに気づくまでに半年かかった。数週間そこらのお前じゃ、仕方ない。』

・・・。


もしかして、慰めているのか?


宵弧は再び目を丸くして前を見た。


S『なんだ。』

Y『・・・いや。ははっ』

S『・・?』


怪訝そうな顔で睨む涼風がさらにおかしかった。


やっぱり随分頭をやられたのだろうか。

数分前に初めて存在を知った男なのに、不思議と心が和らぐ。


久しぶりだな、この感じ。


あの日焼けた村と一緒に置いてきたものが蘇ってくる。


Y『いつからここに?』

S『話す義務は無い。』


・・・なんだこの男。


優しいのか冷たいのか。

2011/02/05 (Sat) 20:39



A

本当にうまくいくのか。


半信半疑で、遠くなる意識を引き寄せる。


足音が聞こえ、扉が開く。


よ『食事、アリガトウ。』


扉の向こうにいるであろう、シスターに可能な限り優しく語りかける。

しかし、涼風は向かいの覗き穴から覗く双眼を不満で歪める。


シ『今日はお目覚めでしたか…お話に聞いた通りです。』

シスターが扉を開き、綻んだ顔を覗かせる。


シ『とてもお強いのですね。』

よ『どうかな。』


涼風の眉間に刻まれた皺が、深さを増す。


まずい。


よ『あ…アリガトウ。君みたいなカワイイコにそう言われるとウレシイ。』


涼風の表情は険しくなるばかりだ。




2011/02/11 (Fri) 21:14


R

Si『・・・・・。』

Y『・・・・・・・・・・・・。』


しまった。随分長い間人とまともな会話をしていないから、言葉の選び方が分からない。

宵弧はかつてない危機感に見舞われていた。


女に取り入って、鍵を開けさせる。

もしくは気を引かせている間に片方が女に魔法をかける。


そのためにはまず女を口説かなくてはならない。

何も考えず了承してしまったが、よく考えてみたら女を口説くなんて経験が無い。

というより、むしろ女というものが苦手なのだ。

小さいときから、何かにつけて俺を追いかけまわしては、やれ好きだの嫌いだのと人を追い詰める。

カラス族は魔力も強いから何度殺されかけたことか。

その点弟の姫魅は、何かと上手く周囲の少女らと付き合っていたなーーーーー


宵弧が昔の記憶に逃避していると、涼風が苦虫を噛んだような顔で何かを言っている。


コノ、ヘタクソ!!



うるせぇ!!!お前がやれ!!!


思わず心の中で怒鳴り返す。

向かいの牢を睨んでいると、うつむき恥じらっていたシスターが口を開いた。


Si『私、宵弧さんのこと誤解していました。』

Y『あ、え?』

Si『とても怖くて、滅多にお話にならないと。誰にも気をお許しにならず、特に女性がお嫌いだと・・・。』

間違っていない。

Si『だからシスターのお前でも、安心して近づいて良いと愛華様がおしゃっていたのです。あれは男だと思わなくて良いと。』

愛華、あのやろぉ・・・

澄ました顔でシスターを諭す愛華の顔が浮かぶ。

俺は男だ!!


また一人脱線していると、ふいにシスターと目が合った。

予想外に整った顔立ちに驚いたのか、紅潮したシスターは『20分後に取りに参ります。』と言い残すと足早に牢を出た。

まずい!

ここからでる最期の希望が・・・!

慌てた宵弧は、追いかけるように声をかけた。

Y『お、おい、待てよ!』

Si『え・・』

驚いたシスターが振り向くのが見える。

ええいままよ!


Y『君と話がしたいんだ!僕には、君が必要なんだ・・・。どうか傍に、居てくれないか!?』

Si『宵弧さん・・!』

言った!!!

シスターの顔が赤らむ。しかし同時に困惑の色が彼女を包む。

Si『私は・・・ぷー様にお仕えした身なのです!!!どうかお怨みになって!!』

わぁっ!!と泣きだすと、両手で顔を覆ってシスターは駈け出した。


シスターの足音が小さくなっていく。

俺は今何を言った?

というか俺は何をしているんだ?


朦朧とした意識の中で前を見やると、涼風が腹を抱えて笑いを堪えているのが見えた。

あのやろぉ・・・いつか殺す。


Y『次は・・・てめぇの番だぞ。』

S『・・・くっ・・・ああ、了解っははは、傑作!!』


耐えきれず噴き出した涼風の笑い声が、冷たい牢獄に木霊した。


***


一瞬何が起こったのか分からない。


目の前で次々と仲間が倒れていく。


その向こうにいるのは、かつての兄・・・


チームABCの加勢も虚しく、慰鶴達は愛華に傷一つつけることさえできなかった。

G『私がやろうか。』

A『いや、良い。たまに動いておかないと体が訛るからな。・・・と言っても、こいつらじゃ準備運動にもならないが。』


愛華は立ち上がろうとするエルモの頭を踏み倒すと、地面に押し付けた。

A『月香。お前は弟を捕まえとけ。』


突如愛華の傍らにいた女の体が消える。

目で追う間もなく、気づくと姫魅の目の前に不敵な笑みが現れた。


G『はじめまして。私は月香。ふふ・・そんなにおびえないで。静かにしていたら、痛いことはしないから・・』


なされるがまま顎を持ちあげられる。

体が動かない。


嫌だ!!!


叫ぼうとする瞬間、月香の後ろから咲蘭が襲いかかるのが見えた。


Sa『なめるなよ!!』


閃光が一面に広がり、巨大な蘭が月香の体を締め上げる。


G『植物操作系・・こしゃくな!』

A『ほう。少しはできるじゃないか。』

息を切らしながら咲蘭が怒鳴る。

Sa『伊達に宇宙公認平和学生じゃないのよ!!もう、逃さないわ!』

月香の体が蘭の弦とともに空高くあがっていく。


Sa『とどめ!!』


咲蘭が腕を挙げると同時に、蘭の白い花弁が月香に襲いかかった。

が、

次の瞬間白い炎に包まれていたのは巨大蘭と咲蘭自身だった。


Sa『きゃあああ!?』


悶えるように身をねじる巨大蘭が倒れると、月香が地面に飛びおりた。


G『お生憎様。私はその宇宙公認平和大使の統括隊リーダー。元だけどね。成長を倍加させた植物は、その油も良い発火剤になるのよ。』

倒れる咲蘭の髪を掴むと、月香は顔を近づけて言った。

G『もとい、違反した部下へのかつてのお仕置き法なんだけどね。植物は主に寄生型が有効なの。薬にも毒にもなる。正しくはこう使うのよ・・・』

左手を咲蘭の首元に当てると、指先でなぞった場所に魔方陣が浮かぶ。


K『やめろー!!!』


姫魅の叫び声とともに地面が割れる。

地響きのような唸り声と共に、再び黒い翼が現れる。

龍だ。

黒龍が翼を広げ、空高く舞い上がったかと思うと愛華に襲いかかった。


眉一つ動かさず、愛華は右手を龍に向ける。

自身の何倍もあるような牙が愛華の目前に迫っている。


H 『兄さま!!!!』


螢は思わず駈け出していた。

2011/02/17 (Thu) 18:30



A

血が鮮やかな赤に染まる。

蛍の視界が黒い。


自分を包み込む温度に気付き、蛍が顔をあげる。

そこには色を失った愛華の顔があった。


『愛華お兄様…?』

『俺は兄などでは…くっ…』


愛華が顔を歪める。

愛華の腕ほどもある牙が、愛華の肩を貫いていた。


『お兄様?!姫魅、だめっ!!』


黒龍が小さく唸り、愛華の肩から牙を抜く。

流れる血が勢いを増すが、愛華が傷口に触れると流れが止まった。


『お兄様…』

『お前は…誰だ?』


愛華が訊ねる。

誰もが言葉を失う中、愛華自身、己の行動に驚愕していた。


黒龍の前に飛び出した蛍は、愛華が庇わなければ、確実に命を落としていたであろう。


『お兄様…蛍です!!あなたの…』

『黙れ!!』


黒龍が黒豹に姿を変え、愛華に突き飛ばされた蛍を背で受け止める。


『姫魅、ありがとう。』


蛍の言葉に、黒豹が喉をならして答える。

視線を愛華に戻すと、愛華は頭を抱え苦悩していた。


『お前は誰だ…?俺はなんだ…?蛍?ほたる…?』


愛華の額に汗が浮かぶ。


『愛華様!!』


月香が叫ぶと、愛華が我に帰る。

愛華は再び瞳に力を込めると、腰の短剣を抜き、蛍に襲いかかった。


『蛍!!』


慰鶴の叫びと同時に目の前が紅くなる。

黒豹が姫魅に姿を戻し、その場に崩れた。


『あああああ!!』


愛華の血と姫魅の血で、服は赤黒い。

生々しい臭いが鼻をつく。


愛華の血は…私のせい。

姫魅の血は…私の…


悪夢だ…悪夢だ悪夢だ…!!


己に暗示をかけることに意識をとられ、愛華の二撃目が蛍には見えていない。


慰鶴が駆け、そのまま蛍に体をぶつける。

強い力を受け、蛍が数メートル離れた地に体を打ち付けた。


『い…づる…?』


ぼやけた意識の隅に、短剣を手で受け止める慰鶴が映る。


慰鶴の蹴りを避けるついでに、愛華が姫魅を抱える。


『月香、行くぞ。』


息をあらげ、愛華が言う。

月香が小さくうなずくと、姫魅を連れ、愛華と月香が音もなく消えた。


* * *


『嫌な風だ。』


ネルが呟く。

彼の纏う空気が温度を下げる。


『ジョニーさん、姫魅の追跡魔法が反応しています。』


ジョニーがナンパを中断し、振り返る。


『戦闘中のトラブルでは?』

『レベルが違います。』


ジョニーが歯軋りをする。


『呼吸が弱い…移動速度は私に退けをとらない。』


ジョニーが小さく歯を鳴らし、ネルを見上げる。


『ネル、出動命令だ。』

2011/02/17 (Thu) 19:43



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