2010/11 蛍が朝顔にホットミルクをご馳走 ~ パセリになったパセリの話
R
H『最近ね、これにはまってるの。』
螢に渡されたホットミルクを一口飲むと、優しい甘さが広がった。
A『…おいしい!これ、何入ってるんですか?』
H『メープルシロップ。なかなか合うでしょ。』
螢は自分のカップを持ってきて、朝顔の隣に座った。
H『・・・』
A『・・・』
二人はしばし無言のまま時を過ごした。
A(何も…聞かないんだろうか…。)
ほのかに楓の香のするホットミルクがあまりに優しいので
朝顔はここに来た目的を忘れそうになった。
―――数時間前
朝顔は一人、女子寮を囲む花園に来ていた。
宵狐と座ったベンチを撫で、小さなため息をつく。
A(一目会えたら、私を知ってもらえたら、それだけで十分だと思って人間になったんだから
そろそろ戻らなきゃ。
引き返せなくなる前に…)
どのくらい感慨に耽っていたのか、
突如背後の暗闇から声がした。
『お嬢さん、あなたの欲しいものをあげましょう。』
2010/11/08 (Mon) 19:04
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A
ふたつの小さな耳の間に見えるモヒカン。
尋常ではない輝きを放つ目。
何より目を引くのは、彼が足を通す大きなオマル。
八重歯を輝かせ、彼がリズミカルに告げる。
S『ヘイッ!ちみ(君)!青春しているねぃ!!いいね、青春!!輝いてるよ!!』
窓から落ちた時とは違った恐怖に襲われる。
逃げ出したいが、足が動かない。
S『しかし、この青春にはバッド エンドゥー豆しかない。』
胸に何かが詰まり、胸が苦しくなる。
目の前のオマル熊が、素早くステップを踏む。
一回転し、朝顔に指先を向けてポーズを決めた。
S『君はあの黒髪とラヴラヴランデブーしたいか!?』
A『え…』
宵狐君のそばにいたい。
宵狐への想いが、急速に胸を埋めていく。
S『ラヴラヴランデブーしたいか!?』
A『はい。』
S『声が小さい!!ラヴラヴランデブーしたいか!?』
A『はいっ!!』
宵狐君のそばにいたい!
叶わない想いを声にしたら、涙で目の前が霞んだ。
S『OKぃOKぃ!!君の想い伝わったぜ!!俺様が何とかしてあげよう!!』
熊がオマルから、ナイフを二本取り出し、投げる。
ナイフは鈍い音を立て、朝顔の足元に落ちた。
S『慰鶴と蛍を殺せ。』
A『え…』
S『ナイフが二人の血を吸った時、君は人間になれる。』
A『そんなこと…』
そんなことできない。
してはいけない。
H『どうしたの?』
蛍の声で、意識が今に戻る。
強く優しい瞳が微笑む。
温かい視線に、思わず涙が溢れた。
A『…できない。』
H『え?』
蛍が聞き返す。
A『ごめんなさい…私…』
卓上にナイフを置く。
朝顔が恐る恐る蛍に顔を向けると、蛍は静かに朝顔のカップにホットミルクを注ぎ、メープルシロップを加えた。
ナイフが見えなかったのだろうか。
A『あの…私…』
H『お代わり、どうぞ。落ち着くわよ。』
A『あ…うん…』
温かいミルクが体を巡り、心を落ち着かせる。
H『朝顔、何があったかゆっくり話して。』
蛍は怒ることも慌てることもせず、静かに言う。
変わらない蛍の態度に、安心感で涙が溢れた。
* * *
思考が足に直結していると、よく母ちゃんに笑われる。
悔しいが、全くその通りだ。
I『畜生…プーって、どこにいるんだよ…!!』
今更である。
これだから、いつまでたっても笑われるのだ。
期待に応えられないのだ。
I『あ~!!ほんっとバカだな、自分!!』
緊張と目的を失った足が力を失う。
閑静な住宅街の中心で、崩れるようにしゃがみこんだ。
I『ちくしょ~!!』
タクシーを拾い、『青春系プーのあじとまで。』と告げた。
今思うと、馬鹿な行為だ。
蛍には絶対に言えない。
しかし、運転手は表情ひとつ変えずに応じた。
道も、確信があるようで、不審な素振りは無かった。
騙されたとは思えない…というか、あの金額を騙しとられたとは思いたくない。
I『へくちっ!』
冷たい風が吹き、鼻がぐずついてきた。
Y『この地域は、夜になると冷えるんだ。』
I『っ?!』
突然背後から声がして、慌てて振り返る。
いつからいたのだろう。
見覚えのある青い瞳が、暗闇から静かに慰鶴を見つめていた。
宵狐と同じ顔…しかし、纏う空気が別人である。
I『宵狐…の兄ちゃん…』
Y『俺に兄はいない。風邪をひくぞ。』
宵狐が自分の上着をとり、慰鶴に手渡す。
I『あ…姫魅が、宵狐って名乗っていて…えっと…』
Y『姫魅は今、俺の名前を使っているのか。』
微笑む宵狐の顔は、パーティー会場を襲撃した時とは違う、優しい兄の顔だった。
* * *
朝顔が話終えるまで、蛍は静かに聞いていた。
H『二人の血を吸わせた時・・・』
蛍が考えながらナイフを手に取る。
A『蛍さん・・・?』
H『痛!!』
蛍の指先から血が膨らむように出て、ゆっくりと流れる。
重力に導かれ、血はナイフに滴り落ちた。
H『吸わせるだけなら、殺す必要はないわ。』
A『え・・・』
蛍は何でもないといったように驚く朝顔に優しく微笑み、救急箱を探しに席を立つ。
気付かなかった。
H『ひとつのことを考え過ぎると、他が見えなくなっちゃうものよ。』
蛍が器用に指に絆創膏をはる。
H『さて、慰鶴の家に行きましょう。彼の血も必要なんでしょう?』
A『は・・・はい!!』
2010/11/09 (Tue) 20:15
番外編『僕と君と、時々ポッキー』上
今日はポッキーの日。
慰鶴は大喜びです。
I『あ、螢、おはよう☆』
H『おはよ~…
って慰鶴、あんた何してんの』
自分の腕いっぱい抱えた山積みのポッキーの後ろから
かろうじて慰鶴のツンツンした髪が見えています。
I『へへ^^
お店にいってポッキーたくさん下さいって言ったら、
お店のおばさんが全部くれたんだ!』
H『…』
毎度のパターンでした。
長身で整った顔立ち、育ちの良さが伝わる上品な空気
さすがの血筋からか黙っていれば意思の強そうなオーラの瞳も加わり、女性の意識はしばし簡単に奪われます。
そうして見とれているうちに、ハスキーがかった青年の声でこう告げられるのです。
『僕にポッキー、下さい(ニコッ)』
I『あとでみんなに配るんだ!あ、螢にはこの一番ゴージャスなのあげるね。エビバデポッキー!』
H『はいはい、メリークリスマス。』
2010/11/11 (Thu) 9:07
番外編『僕と君と、時々ポッキー』下 R
朝の教室も段々生徒で賑わってきました。
いかにグリコの祝日と言えども学校はお休みになりません。
しかしそこはジョニー率いる魔法学校、
今日の一二時限目では、魔法で超巨大デコレーションポッキーを作ることになっています。
最優秀作品は、校長の権力で商品化もされるとかされないとか…
そんな中、眠気眼の宵狐があくびをしながら教室に入ってきました。
Y『くぁ…おはよう…』
H『あ、おはよう宵狐。』
Y『あっ』
H『…?』
宵狐は振り向いた螢の顔を見て声をあげます。
Y『朝日を浴びてさえずる僕の小鳥ちゃん、今日は一段と綺麗だ。』
H『あんたの頭の中も相変わらずクリスマスね。』
性別を問わず、誰もがその虜になる宵狐の声は、
藍色の瞳同様に深く謎めいた色気を持っています。
そして育ての親の影響から、こうして螢にキザな台詞を投げ掛けるのが今では日課になってしまいました。
そんな夢の様な光景を一目見るため、学校中の女子が廊下に群がるのです。
I『ぅはよ宵狐!はい、宵狐にはこのプレミアムピーチ生クリームポッキー☆』
Y『あ、入手E何度の限定ポッキーだ、すごい、さすが慰鶴。』
宵狐の色白な頬が少しばかり赤くなります。
H『ポッキーぐらいで幸せになれるなんて、いいわねあんたたち。』
そんな二人の横で螢は頬杖をついてため息をつきます。
これも毎朝のこと。
背負ったものは重いけれど
一緒に過ごせる時間がふと嬉しくなる
そんな三人の騒がしい一日が今日も始まります。
2010/11/11 (Thu) 16:26
A
蛍と朝顔が慰鶴宅に着くと、執事が忙しそうにしながら、2人を小さな部屋に案内した。
J『蛍ちゃん~・・・僕の・・・僕のスイートハートを見なかったかい?おわあああん!!』
H『どうしたんですか・・・?』
K『慰鶴君が消えたんだ・・・3時間も捜索しているが・・・』
悲しみの舞を踊るジョニーに、蛍が問いかけると、ジョニーの背後からカーネルが答える。
J『ふんごろめっちょ!!うぎゃあ!!』
K『ジョニーさん!!』
ジョニーが奇声をあげ、気を失う。
力を失い、倒れる歯の付いた棒をカーネルが素早く支える。
K『俺はジョニーさんを寝かせてくるよ。君たちはここで待ってて。』
朝顔、蛍、宵狐が頷くのを確認すると、カーネルは三人を残し部屋を出た。
H『全く・・・あの馬鹿・・・!!』
Y(・・・今の蛍に慰鶴が・・・青春系ぷーに会いに行ったなんて・・・)
宵狐がちらっと蛍の表情を見る。
Y(とてもじゃないけど・・・言えない・・・!!)
A『それにしても・・・慰鶴君、どうしたんでしょう。誘拐とかじゃないといいけど・・・』
それぞれがそれぞれの思いを胸に沈黙を作る。
突然部屋の中心に黒い穴が開き、中から宵狐と慰鶴が現れた。
2人が驚きで声をあげる。
A『え・・・何?!』
Y『宵狐・・・?!』
混乱する2人を後に、蛍がずかずかと2人に接近する。
H『この・・・馬鹿!!』
蛍が慰鶴の耳を引っ張り怒鳴る。
隣で宵狐が困った表情を浮かべている。
I『わわわ・・・蛍、耳が壊れる!!』
H『あんた、どこに行ってたのよ!!みんな心配してたんのよ!!』
I『えっと・・・』
H『宵狐のお兄さんが一緒にいるってことは・・・あんた、もしかしてプーのところに・・・』
勘の鋭い蛍が、見事に言い当てる。
全員が蛍の怒りに緊張し、固まる。
Y『えっと・・・取りあえず、俺は帰るな。』
立ち去ろうとする宵狐の裾を握り、蛍が宵狐を引きとめる。
H『待ちなさいよ、あんた!!』
蛍が怒りの矛先を返る。
予想外のことに、宵狐が動きを止める。
Y『え・・・えっと・・・』
H『あんた、帰るの?!』
Y『え・・・?』
全員が蛍の意図がわからず、沈黙する。
H『可愛い弟残して、またプーのもとに帰って・・・それでいいのかって聞いてんの!!』
Y『蛍・・・』
H『宵・・・姫魅も姫魅でいいの?!このままで!!』
沈黙する2人に、蛍が大きくため息をつく。
Y『俺はもう・・・プーのもとでしか・・・』
Y『兄さん・・・』
Y『それに・・・俺たちは利用されるか恐怖の対象になるかだ・・・居場所は無い。』
Y『・・・』
双子の表情が曇る。
H『ないなら造る!!』
I『蛍??』
H『小さくとも、私は一国の姫だ!!』
蛍は声を張り上げると、動けずにいる宵狐を優しく抱きしめた。
H『私が、あなた達の平和を約束しよう。』
全員が予期しないことに、固まる。
長い沈黙が流れる。
Y『・・・信じよう。』
宵狐が小さな声で答えた。
2010/11/11 (Thu) 17:37
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Y『信じよう。そして、預けよう、俺らの未来を。』
宵弧は口元を覆っていた白い布を外し、柔らかくほほ笑んだ。
K『・・・兄さん!!』
姫魅が宵弧に抱きついた。
Y『姫魅・・・。』
宵弧は胸にすがりついて泣きじゃくる姫魅の頭を撫でた。
I『うぅっぐすっ良かったなぁ、宵、いや、姫魅・・・
これからは一緒にいられるんだな・・・。』
H『全く、手間かけさせて。
さぁ、行きましょう。二人とも。』
螢は二人に手を差し出した。
K『すまないが・・それはできない。』
『・・・え!?』
一同は再び唖然として宵弧を見つめた。
涙を流したまま眼を見開いている姫魅の体をそっと離し、宵弧は螢の方に向き直った。
Y『あなたが・・・あなたなら私達を救ってくれるかもしれない。
久しぶりに弟の顔を見てそう思えた。
こいつの顔、すごく優しくなってる。まるで・・・昔みたいに。
さすがの器だ、あなたは。』
H『くっ・・・分かるわよ!
現実はそう甘くないって言うんでしょう!?』
握りしめた手に爪が食い込む。
Y『誤解しないでほしい。
俺たちの未来を、あなたに預けたい。そう思っている。
だが、今では無い。今俺がくじければ、その未来まで駄目になってしまうんだ。』
H『・・・え・・・?』
螢の顔色が変わる。
Y『あなたは頭の切れる人だ。そして経験もある。言わなくても、分かるだろう。俺の置かれている立場が。そして、俺のなそうとしていることも。』
H『・・あんた・・まさか』
宵弧は螢をまっすぐに見つめた。
裏の会話についていけない周囲が、困惑と恐怖でおろおろと見つめている。
Y『いつか、全て終わったら迎えに来る。それまで、姫魅を頼みます。』
K『兄さん!』
宵弧は姫魅を突き放し、窓辺に立った。姫魅の悲鳴のように叫ぶ。
K『螢!兄さんを止めて、兄さんがまたいなくなっちゃう!』
分かってしまった。分からないふりをして止めればいいのに、それができない。
あの日宵弧が現れてからずっと考えていた。しかし今の言動で確信へと変わった。
――宵弧は、プーを倒そうとしている。たった一人で。
プーがいる限り、宵弧に平安は訪れない。しかし宵弧がプーの傍にいる限り、姫魅は殺されない。宵弧は姫魅を守るためプーについたのだ。弟を守るため、全てを壊した憎き敵のもとに。
そして伺っているのだ。プーを殺す機会を。
そのためにこれまで、やりたくもないような非道な業務をいくつもこなし、痛みと引き換えに功労と信頼を積み重ねてきた。
いよいよ、その機会が近づいてきているのだろう。
その証拠があの襲撃事件だ。仮にもあのプーに謀反をたてるのだ。自分の最期になるかもしれない・・・その前に一目、愛しい弟に会っておきたい気持ちが抑えられなかったのだろう。
螢は怒りゆえ壁に拳を叩き付け、手のひらに血が滲む。
ここで止めたら、これまでの宵弧の所業が全て無駄になる。
姫魅の命も危なくなる。下手をしたらこの星が襲われるかもしれない。そして、ジョニーの討伐を企てているプーはこれを戦争開始の絶好のチャンスとしてもおかしくない。
それを全て包み込む力は、自分まだ無い。
このままが一番安全なのだ。
また、自分の非力さゆえ人を救えない・・・
H『くそ!!!』
自分は、何も変わっていない!
とめどない悔しさと悲しさとで、再度壁にたたきつけようと腕を振り上げたとき、
――その腕が誰かに止められた。
振り返ると、慰鶴だった。
H『いづ・・・』
慰鶴は螢を引き寄せ、その頭を胸元に押し付けた。
I『――行けよ。』
HK『!!?』
I『俺が、この場の責任は持つ。
・・・その代わり、あんた一人に良い格好はさせない。
もっと強くなって、俺たちもそこに行く。
だからそれまで、無茶すんじゃねぇぞ。』
宵弧は一瞬驚いて慰鶴を見たが、ふっと笑うと『ありがとう』とつぶやいた。
(さすが、だな。一番の痛みを引き受ける・・・天性のものか。
このチームで本当に強いのは、彼なのかもしれないな。)
Y『弟を・・頼む。』
宵弧は最後に姫魅をもう一度見ると、頭につけている羽飾りを一枚抜き取り、空に飛ばした。
それを合図に風が巻き起こり、宵弧は闇へと消えた。
残された者たちの間を、夜風が名残惜しむように吹き抜けていった。
2010/11/11 (Thu) 20:51
A
ベッドに腰を下ろし、姫魅の感触を思い出す。
まだまだ幼い弟は、力強い仲間と共にいる。
青い目に優しさを含んだ弟と、全てを包み込む慰鶴、そして力強く皆を率いる蛍・・・三人の顔を思い出すと、心が温かくなった。
それにしても・・・
Y『・・・ちょっと可愛かったな・・・』
独り言を、扉を開ける音が掻き消した。
A『宵狐。』
Y『あ・・・愛華。』
A『顔が赤いぞ・・・どうした?』
Y『少し・・・外に出ていた。寒さで赤くなったんだろう。』
宵狐が慣れた手つきで、口元に布を巻く。
G『熱かもしれないわ。』
愛華の背後から、絹のような白い髪を揺らし、女が顔を覗かせる。
医療魔法を得意とするプーの側近だ。名は月香。
月香は宵狐に歩み寄ると、宵狐の額にそっと手を伸ばした。
Y『触るな!!』
とっさに彼女の手を退ける。
強く拒まれ、どうしたらよいかわからず立ち尽くす月香に、愛華が下がるように指示する。
A『宵狐、プー様がお呼びだ。』
Y『・・・』
無言でベッドから腰を上げる宵狐に愛華が突然接近する。
愛華は宵狐の胸倉を掴みあげ、そのまま壁に押し当てた。
A『いつでも弟を殺せること・・・忘れるな。』
愛華が耳元で小さく、しかし力のある声で宵狐に釘をさす。
Y『わかっている。』
宵狐の言葉に、愛華がにやりと笑った。
* * *
慰鶴行方不明時から一週間がたった。
朝顔は慣れない人間の体に苦戦しながら、ジョニー魔法学校の生徒として一緒に学ぶことになった。
姫魅はというと・・・
H『おはよう、姫魅!!』
K『・・・ん・・・あぁ・・・おはよう。』
上の空で、元気もない。
宵狐を考えているのだろう。
そっとしておきたいが、このままでは私の野望にも支障がでる。
H『・・・部活やるわよ!!』
I『部活?!』
A『いいですねw』
K『蛍・・・何を突然・・・』
H『あんたが萎れてるからでしょ!!』
蛍が姫魅の背中を掌で叩く。
痛かったらしく、姫魅は少々涙目だ。
朝顔が宵狐の背中をさすり、心配する。
I『・・・で、何部に入るんだ?』
H『入るんじゃなくて、作るのよ!!』
2010/11/11 (Thu) 22:44
R
H『よし!そうと決まったら、さっそく事務所に行って手続きよ!』
K『ま、まだやるって言ってな…(汗)』
A『なんの活動するんですか?』
H『それはゆくゆく決める!!』
ほぼ強制的に螢に引きずられ、三人は廊下に出た。
K『ごめんね朝顔…俺は慣れてるけど、このペース、大丈夫?』
A『ふふっ…部活かぁ。楽しそうだな。私、マネージャーやってもいいですか?』
H『あら、当たり前じゃない。』
K『(…あれ?)』
あの一件から朝顔と螢の仲は良くなっていた。
詳細を知らない姫魅だったが、二人の間に流れる雰囲気が柔らかくなっていることに気づいた。
A『ね、何がやりたいですか?姫魅さんは』
朝顔はどこか幸せそうに、姫魅に微笑んだ。
K『ま…いいか。』
A『え?』
K『ううん。』
***
早朝の実技室は静寂に包まれていた。
カーネルは扉を開け、薄暗いその部屋に入った。
慰鶴は広い部屋の真ん中で、ジョニーの肖像画を真剣に見つめている。
K『待たせてすまない、慰鶴君。』
I『あ、ネルさん。』
カーネルに気づいた慰鶴がぱっと表情を変え、いつもの笑顔を見せた。
I『すみません、呼び出して』
K『いや、構わないよ。どうしたんだ?この間の復習か??』
螢たち三人は週に一二度、カーネルの特別指導を受けていた。
I『ネルさん。』
K『ん?』
I『ネルさん、俺、もっと強くなりたい。』
2010/11/12 (Fri) 14:44
A
カーネルは小さく笑って、慰鶴の頭をくしゃくしゃに撫で回した。
I『ネルさん…?』
K『お前は、昔の俺みたいだよ。』
カーネルは苦笑いを浮かべ、慰鶴を優しく撫でた。
K『パセリを知っているか?』
慰鶴はかつて祖父から聞いた話を思いだし、目を輝かせた。
I『じいちゃんからよく聞きます!!とても勇敢な戦友だったって!!』
K『そうか…』
カーネルは、懐かしそうに遠くを見つめた。
K『パセリは、プーに妻を殺された。』
言葉の重みで、部屋の空気が凍る。
K『・・・彼は幼い息子をジョニーに預け、復讐のために生きた。毎日の修行で、彼は着実に力をつけたが・・・時を急き過ぎた彼は、プーとの戦いでパセリに変えられてしまった。』
慰鶴が息を呑む音が部屋に響く。
K『息子は小さな植木鉢に入った父親を見て、プーを倒すことを決意した。生活費は夜の街で稼ぎ、昼は学校にも行かず、特訓の日々。そんな息子を・・・植木鉢の中の父はどう思っていたんだろうな・・・。』
カーネルが小さく笑った。
K『ある日、ジョニーさんが彼に言ったんだ。“君は弱くなっている”ってな。』
I『そんなに特訓してんのに、何で弱くなるんだ?』
カーネルが苦笑いをする。
K『他にもっと必要なものが欠けていたからだよ。全てをプーに注いでしまった彼は、焦るだけ焦って、大事なことを見逃していた。まるで心を奪われた乙女のように・・・』
I『大事なこと・・・なんですか・・・?』
カーネルが表情を明るくし、慰鶴の方に手を置く。
K『それは、時間をかけて自分で手に入れないと意味がない。』
I『・・・。』
K『でも、ジョニーさんのように大らかな心と強さを持った君なら、きっと手に入れることが出来るだろう。』
カーネルが目線を慰鶴にあわせる。
K『大丈夫。今は焦らず、真っ直ぐ“自分”を歩みなさい。』
I『・・・はいっ!!』
話の要はぼやけて見えなかったが、慰鶴は元気に返事をした。
要は見えなかったが、プーを倒す手掛かりと、今のままでいいと言う安心感を得た。
I『パセリの息子さん、今はどうしてるんですか?』
K『・・・種を育てながら・・・時を待っている。』
慰鶴の質問に独り言のように呟きを返し、カーネルは大きく伸びをした。
カーネルの返事は慰鶴の耳に届かなかったが、もう一度聞くのも気まずいので、慰鶴は口を閉じた。
K『さぁ、今夜は可愛い可愛い姫魅とディナーの約束だ!!さっさと仕事終わらせるぞぉ~!!』
I(ネルさんって、ディナーに行く恋人とか奥さんとかいないのかな・・・そもそもあの人、何歳なんだろう・・・)
慰鶴の疑問を背に、カーネルは鼻歌交じりに部屋を出た。
2010/11/18 (Thu) 19:2