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とある☆物語 original novel  作者: さのすけ/ゆのすけ
3/15

2010/10 蛍と慰鶴が朝顔と姫魅を探す ~ 朝顔が蛍の部屋を訪れる

R

I『螢……と、飛ばしすぎ…こんなに息切れたの母さんの特訓ぶりだよ』


H『お母さん……

(そっか、慰鶴のお母さんはあの伝説の戦士。そんな人から直接手ほどきを受けてたなのよね。)』


膝に手をつき肩で息するこの少年の中に流れる血に、恐怖とも期待ともとれぬ高鳴りを感じる。


I『ん??どうした?螢。』


ふいに立ち上がった慰鶴は予想以上に軽々と螢の背を越し、少し螢を驚かせた。

その生まれ持った運命を感じさせない、柔らかい笑みで見下ろしている。


H『…』

I『螢??』


脆く簡単に割れてしまいそうなほど透き通ったオレンジの瞳。


H『なんでもない。

行きましょ、宵狐はやく見つけないとネルさんに怒られちゃう。』


強くなる。それまで余計な感情は、いらない――

こいつらだって、利用物の一つよ。


母星を飛び出した際心に刻んだ誓いを確かめるように奥歯を噛み締めると、

螢は水色の髪をなびかせ再び歩き始めた。


***


A『よ…宵狐さんは、なんで今朝あんな場所にいたんですか??』


Y『ああ…。ちょっとうちの王女様にプレゼントを探しにね。強がってるけど、昨日色々あったから。』


二人は広い裏庭に広がる、これまた広い庭園の白いベンチに腰掛けていた。

豪華絢爛な庭に合わず、木彫りのシックなデザインがメルヘンとも言える。


A『王女様…螢、さん??』


Y『そ…僕らは彼女のナイトなんだ。』

宵狐は幼児の冗談を聞いた貴族のように、クスッと笑った。


胸の奥で「カシャン」と音がした。声を上げたくなるような痛みもこみあげる。


A『螢さん、強いですよね。』


Y『そうだね。』


A『魔力だけじゃなく、なんていうか、内面も…』


私にだってにあんな強さがあったら…


こんなに近くにいるのに、宵狐がすごく遠い。

朝顔は急に、泣きたくなるような叫びたくなるような気持ちに襲われた。


A『宵狐さんも慰鶴さんも…強くて敵わくて家来みたいに支配されてるなんて、

そんな関係嫌じゃないんですか?』


俯いたまま朝顔が言葉を零した。

零した、との表現が相応しいように思わずこぼれでてしまった言葉に「しまった」と思ったがもう遅かった。



Y『…』

A『…』


朝顔の涙が膝の上に握りしめた掌に落ちると、

ぼやけた視界にひと房の花が差し出された。


Y『…ジョニー校長が桜とすずらんを組み合わせてオリジナルで作った、花。

花言葉は…「ありのままの君が好き。」


朝顔ははっと顔をあげて、耳を疑うように宵狐を見つめた。


Y『女子寮裏の花園にしか咲いてないから…今朝はこれを探しに来たんだ。』


A『…』


朝顔の心を読んだかのように、宵狐は優しく微笑んだ。


Y『いいんだ。もしかしたらこの花は、始めから君のために咲いていたかもしれないね。』


A『宵狐さん…』



白とピンクの小さな桜の花びらたちが、一本の茎に仲良く並んでいる。

朝顔はそのはかなくも稟としたその花を宵狐からそっと受け取った。

大粒の涙が葉を濡らし、朝露のように伝って地面に落ちた。


先程までの濁った感情が、嘘のように透き通っていく。

まるで魔法にかけられたみたいだ。

自分はなんて幼かったんだろう。それに比べて、なんて優しいんだろう。

やっぱり私はこの人のことが…



A『宵狐さん……ありがとうございます…私……』

H『見つけたああああああああああああああああああ!!!!(どかーーん!!)』



次の瞬間、爆音と爆風の中宵狐の体が飛ばされるのが見えた。

朝顔も数メートル宙に浮いたが、落ちていくところを慰鶴に抱き留められた。


巨大な虫取り網で確保される宵狐を朦朧と見つめながらも、朝顔は小さなその花を離さなかった。

2010/10/01 (Fri) 16:32




 A

何もない、借りたばかりの女子寮の空き部屋。

初めて置いた物は、ガラスのコップに入った一輪の小さな花。


A『ありのままの・・・君が好き・・・』


花を見つめながら、宵狐の言葉をなぞった。


  *  *  *


帰宅後は風呂に限る。

自室にも備え付けられているのだが、今日は大浴場に足を運ぶことにした。

絨毯に足が沈む感覚を楽しみながら、愛ぬいぐるみの"純情系ミッキー"と一緒に大広間の前を通る。

大広間は、パーティーに用いる賑やかな部屋だが、使用していない時の賑やかな広間に広がる静寂が怖い。

少し開いた扉の向こうには、今まさに静寂と賑やかさが入り交じり、不気味な雰囲気を放っていた。


H『いつまで放っておくつもりだ?』


大広間から、ホロさんの声が聞こえる。

彼は伝説の戦士の一人で、じいちゃんに報告をするため、家に時々訪れる。

母ちゃんとも仲がいい(尻に敷かれている)ので、茶会やパーティーなどの誘い(脅迫)を受け、訪れることもしばしばだ。

気軽に声をかけてくれるので、幼い頃から"兄ちゃん"(おじさんと呼ぶと怒られる)と呼んで、親しくしている。


I(少し挨拶していこうかな♪)

A『ジョニーは放っておいているんじゃないわ!』


母ちゃんの緊迫した声で、扉に伸ばした手が動きを止める。


A『時を待っているのよ。』

J『いいんだ、アンナちゃん・・・。』


いつも元気ハツラツオフコースのじいちゃんの元気のない声。


H『しかし、相手は青春系ぷー・・・いつまでも無事とは・・・』


兄さんが言いずらそうに呟き、静寂が訪れる。


J『こーじ君なら大丈夫・・・きっと大丈夫だ・・・』

I(こーじ・・・どこかで聞いた名前だ・・・誰だろう?)

J『孫の・・・慰鶴の顔を見るまでは、きっと・・・』


足音が響く。

扉が勢いよく開き、アンナが叫ぶ。


A『慰鶴!!』

I(思い出した・・・こーじ・・・ばあちゃん!!)


慰鶴に届かぬまま行くあてを無くしたアンナの声は、足音の消えた廊下に空しく響いた。


  *  *  *


Y『ネル・・・遅いなぁ・・・』


今日は帰ってくると言っていた。

多忙の中、彼は必至で俺との時間を作ろうとするから、時に約束が果たせないことがある。

きっと今日も緊急で仕事が入ったのだろう。

すっかり温度を失った食事の、自分の分のラップをはずす。

時計は深夜を指している。先に食べて寝よう。

明日はまた学校だ。


Y『頂きます。』


箸を手に取ると同時に、玄関から音がした。


Y『おかえり、ネル!!』


毎度走って迎える自分は、かなり子供だと思う。

兄さんが見たら笑うだろうか。


Y『ネル、お疲れさま!!』

K『ただいま、宵狐。』

ネルが小さく微笑み、顔を険しくさせる。


K『宵狐・・・慰鶴が消えた。』

Y『え・・・?』

K『恐らく・・・彼は一人で青春系ぷーのところへ行くつもりだ。』

K『俺はこれから彼の捜索を・・・』


宵狐がネルの腕を掴む。


Y『俺も行く・・・。』


過去の記憶が蘇る。

彼を止めなくては。


宵狐の目を見て、ネルが小さく頷いた。


  *  *  *


こんな夜中に訪問者・・・。

玄関を開けると朝顔が立っていた。


H『朝顔・・・どうしたの?』

A『ごめんなさい、眠れなくて・・・。』

H『私と一緒ね。』


蛍が微笑む。


A(この人は本当に素敵な人だなぁ・・・)


朝顔が思わず見とれていると、蛍が部屋に入るよう促した。


H『風邪ひいちゃうわ・・・中に入って。』

A『ありがとう。』


朝顔が蛍の部屋に入る。

ほのかに香る甘い香りが心を落ち着かせた。






2010/10/03 (Sun) 17:33



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