2 姉は極端に寡黙である。そこが可愛い。
私の姉は極端に寡黙である。そこが可愛い。
ちなみに姉の夫も寡黙である。こっちは背が高いばかりで可愛げも何もない。脚の長さを十センチほど私に譲渡せよ。そうしたらもう少しは評価してやる。
姉との無言の意思疎通というのは、妹の私の特権であった。しかしその特権は、ある時期に姉の高校の友人に分権され、次に姉の夫に全権委任された。
完全に意思疎通出来る人間というのは、昔は私しかいなかった。今は姉の夫の方が私より姉の言いたいことをよく理解している。嫉妬禁じを得ず癪に障らずを得ない。無論、付き合いの長さは姉の夫に負けてやらんがな。何しろ私は生まれた瞬間から姉との長い付き合いが決まっていたのだ。十六年来という、最旧知の仲である。
しかしながら、姉と姉の夫の意思疎通は、傍目から見ていて宇宙交信しているようにしか見えないことがある。
寡黙な者同士、口数が少なく、自然と二人の会話は少ない。しかし会話していないところで会話しているとしか思えない場面が多くある。相手を思いやったり、自分の用事を相手に伝えたり、そういったことを会話筆談なしで成立させているのは、阿吽の呼吸というか、阿吽のない呼吸状態である。
二人が無言で背中合わせでいたとしよう。何を察知するのか、二人とも用事があると、あたかも片方が名前を呼んだかのように、または示し合わしていたかのように、双方同時に振り返って、出逢う。
尋常ならぬ感性の鋭さを持った私とて、その以心伝心のほど、連理の枝っぷりは、理解不能である。互いに特別な感知機を脳味噌に埋め込んでいるか、脳味噌に直接アンテナを差して宇宙に浮かべてある専用衛星で交信しているとしか思えない。
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